【夏号と秋号のちがい】
夏号が前期と今期の業績変化、つまり1年ごとの変化に軸足を置いているのに対して、9月発売の秋号や12月発売の新春号は性格が異なる。秋号の場合は、1つ前の夏号で立てた予想がその後どう変化したか、すなわち「3ヶ月の変化」に軸足を置いているのだ。(P.36)
【増益≠増額】
増益と増額は、言葉は似ているが意味はまったく違う。増益は利益が前の期より増えること。増額は同じ期の利益について、従来予想より増えることをいう。(P.37)
【会社四季報:究極の銘柄選び】
某外資系資産運用会社のファンドマネージャーは、会社四季報が発売されると3回読み直すらしい。1回目は業績記事を読んでおもしろかった銘柄に付箋を貼る。2回目は予想業績数字だけを見て伸びている会社に付箋を貼る。3回目は欄外にある月足チャートをチェックして、まだ買われていない割安な銘柄に付箋を貼っていく。そして、3回とも付箋が貼られた銘柄は理屈抜きで買うのだそうだ。(P.42)
【秋号には上方修正予備軍がゴロゴロ①】
銘柄選びの選球眼を鍛えるにはあくまで毎号を買うのがベストなのだが、どうしてもと言うならずばり、秋号だ。理由は単純。株価に織り込まれていない上方修正予備軍を一番見つけやすい号だからだ。年に1冊しか買わない投資家は多くが夏号を買っていると言ったが、実は夏号には独自増額している銘柄は3月決算会社に限ると数えるほどしかない。夏号は4月下旬から5月下旬にかけて発表される3月決算を踏まえて制作するわけだが、この段階では会社の公表した業績見通しに対して弱すぎるだの強すぎるだのと記者が取材でやり返すには、判断材料が少なすぎるのだ。一般に、会社側が決算発表と合わせて公表する新年度の業績見通しは、1〜2月から 社内各部署で予算を積み上げ、出来上がった事業計画に多少手を加えて作られる。これがゴールデンウィーク頃に発表されるわけで、作成開始からはすでに約3ヶ月が経過していることになる。その間に原油価格や為替、商品市況といった業績に影響する要素が著しく変動してしまうこともある。こうした場合は夏号の段階であっても、各企業の感応度(トヨタ〈7203〉は1円の円安で年間400億の増益 要因になる)を元に業績影響を計算し、会社四季報独自に予想を引き直すことは珍しくない。加えて、業績予想には各社は、癖のようなものがあって、甘い業績予想というか、希望的観測に近い数字を出してくる 会社もあれば、保守的な、極めて堅い数字を出してくる会社もある。こうした各社の習性は会社四季報記者も承知しているので、初めから予想数字を独自に上げ下げする。ただ、出走前のこの段階で数字をいじくれるのはそこまでだ。さらに一歩踏み出して弱めの数字にしたり強めに数字にしたりするだけの合理的根拠は、この初期段階ではまだ希薄なのである。
(P.50〜51)
【秋号には上方修正予備軍がゴロゴロ②】
夏号では独自増額銘柄がわずかしかないが、次の秋号となると状況はかなり変わってくる。夏号からの3ヶ月の間に、小売や外食各社が月次の売上高を速報したり、工作機械各社が月次受注を発表したりする。こうした各種データが積み上がり、記者も足元の趨勢がつかめるようになる。何よりその間には第1四半期(4〜6月)決算が発表されている。第1コーナーを通過したラップタイムがあれば、記者も突っ込んだ予想ができるようになる。例えば第1四半期が好調で、通期の営業利益見通しに対する進捗率が30%に達したC社があったとしよう。 C社の第1四半期利益進捗率は例年約25%である。今期は5%ポイントも改善していることになる。今期の進捗率が高いのは、前期末に発売した新製品の予想を超えるヒットが主因だという。そうと分かれば、業績は今後尻上がりに良くなっていく可能性大であり、記者は当然、秋号の業績を予想を大幅増額する。(P.54)
【秋号には上方修正予備軍がゴロゴロ③】
第一四半期に上方修正を発表した会社は第2四半期も連続で 上方修正する可能性が高いのは、新型コロナという特殊要因があった2021年に限ったことではない。東洋経済が保有する2006年以降の決算データを調べたところ、面白いことが判明したので紹介したい。対象としたのは2006年4月から2021年12月20日までの約15年9ヶ月の間に発表された 決算で、期初 、第1四半期、第2四半期の3つの時点において会社側 発表の営業利益が全て揃っている4万5758件だ。その結果、第1四半期決算段階で上方修正を発表したのは全体の5.0%にあたる2283件あった。このうち第2四半期で再び上方修正を発表したのは1140件。つまり、第1四半期決算段階で上方修正した会社のほぼ半数にあたる49.9%が第2四半期でも上方修正していたのだ。ちなみにこのデータは決算発表時に上方修正したケースをカウントしたものであり、先ほど紹介したキヤノンのように、決算発表より前に上方修正を発表したケースは含まれていない。もし含めれば50%を超えるのは間違いないだろう。(P.57〜58)
【利益柱がどこにあるか連結事業欄で見極める①】
最初に注目したいのは【海外】61の部分だ。キッコーマンの主戦場は意外にも国内ではなく海外だとわかる。事業別売上高は海外食品卸売が最も多く全体の42%、次が37%の国内食料品製造・販売、3番目が19%の海外食料品製造・販売 という構成となっている。 利益面はどうだろう。カッコ内に書かれた利益率では、海外食料品製造・販売の21%が群を抜いて 高い。海外では100円を販売すれば21円が利益になることを示している。一方、国内は6%で海外の3分の1以下、100円売ってわずか6円しか利益にならない。海外食料品卸売 も図体こそ一番大きいが、こちらも 5円しか儲からない。つまり、利益面では海外における製造・販売事業がダントツに良いのだ。キッコーマンの特色欄に「北米が利益柱に成長」と書かれているように、具体的には営業利益の約7割を海外しょうゆ事業で稼いでいる。キッコーマンを「内需消費関連銘柄」などと考えたら大間違いということになる。
(P.68〜69)
【利益柱がどこにあるか連結事業欄で見極める②】
現在のホンダは何で儲けているかご存知だろうか。ここ数年の業績は、本業の儲けを示す営業利益が2017年3月期の8407億円をピークに後退を続けたが、2021年3月期にようやく底上げし、現在は回復途上にある。では、2021年3月期に底入れした 6602億円という利益は何で稼いだのか。 ホンダの【連結事業】には二輪14(13)、四輪65(1)金融サービス19(14)とある。四輪つまり自動車はたしかに全売上の65%を占める主力事業だが、利益率はわずか1.05%しかない。四輪事業が稼ぎ出した利益は、6602億円の 13.6%の902億円だけ。大半の利益を稼いでいるのは自動車ローンを中心とした金融サービス事業であり、それを好採算の二輪(オートバイ)事業がサポートしている構図となっている。四輪車で稼げなくなった ホンダを、なおも自動車会社と言っていいものかどうか。(P.76)
→【連結事業】欄から、会社の利益構造が浮き彫りになる。
【01(ゼロイチ)銘柄】
証券コードの下2桁が01の会社が01銘柄と呼ばれることは覚えておくと良いだろう。01銘柄は証券コードが導入された際に、各業種で最初にコードが設定された名門企業だ。2801キッコーマン、3001片倉工業、4901富士フィルムホールディングス、5201AGC(旧旭硝子)、5401日本製鉄、6201豊田自動織機、6501日立製作所、7201日産自動車、8801三井不動産、9101日本郵船、9201日本航空などの名を聞けば誰もが頷くはずだ。全ての01 銘柄というわけではないが、株式市場が景気の波に乗って力強く上昇する相場や、大幅下落した後の本格回復相場では、国際優良株を中心とした主力株が相場の先導役になりやすい。こうした局面では巨額の資金を動かす国内外の機関投資家が株を買っている。彼らの動かす資金は巨大なだけに、時価総額が大きく流動性の高い銘柄が買いの中心とならざるを得ない。見方を変えれば、01銘柄のような主力銘柄が動いている時は上昇相場が長く続く可能性ありといえる。(P.90〜92)
【重要事象・疑義注記】
決算短信を開いて、財務諸表より前に記載があれば 重要事象、後ろにあればより深刻な疑義注記だ。両者の違いは分かりにくいが、サッカーに例えるなら重要事象はイエローカード、疑義注記はレッドカードと考えれば分かりやすい。疑義注記がついた会社が経営破綻することはあっても、重要事象がついた会社が突然死するケースはまれだ。イエローカードを1枚もらっただけでは出場停止にならないのと同じと言える。ただ、経営が一段と厳しくなると疑義注記へと記載が変わるので、そこからの投資には注意が必要だろう。これとは逆に、ある年の決算を境にレッドカードが突然外れる場合もある。また、その前後に経営者が交代したりすると、経営刷新への期待から株価が大きく上昇を開始するケースもあるので、やはり「変化」を見逃さないようにしておきたい。(P.106)
【売上高=数量×単価】
売上高については難しく考える必要はないが、会社四季報を読みこなす上で大事なことが一つある。売上高は「数量」と「単価」の掛け算で成り立っているという点だ。前章で説明したBブロックの業績記事は、売上の増減理由から書き始めるのが基本形で、必ずというわけではないが、数量の変化と価格の変化の組み合わせで説明するようにしている。例えば前期に100億円あった売上高が今期90億円に減る場合、いくつかのパターンが考えられる。1つ目は、販売数量は前期とはほぼ同じだが、価格競争が厳しく単価が下がってしまったパターン。2つ目は、価格は前期並みを維持できたものの数量が後退してしまったパターン。3つ目は、値上げで単価は上昇したが、そのため数量が大きく凹んでしまうパターン。4つ目は最悪で、価格も 数量も後退してしまうパターンである。同じ減収でもこれだけのパターンがあり、今後の業績への影響度や対策の難易度もそれぞれ違ってくる。(P.114〜115)
【自社株買い】
自己株買いは自社の株式を利益剰余金などで買い戻すことをいう。自己株買いがなぜ株主還元になるのか。取得した自己株は1株利益を計算するときに分母である発行済み株式数から除外されるため1株利益が増加する。そのため、配当性向を表明している会社では配当(1株益✕配当性向)も増えるというわけだ。業績を上方修正して1 株益が増加したのと同じ結果になるため、自己株買いを反応すると株価は敏感に反応する。(P.122〜123)
【自己株消却】
資本準備金や剰余金などを取り崩して金庫株を消却することを「自己株消却」といい、これも株価上昇の大きな要因となる。2021年12月にスマホゲーム開発を手掛けるグリー(3632)が発行済み株式数の25.8%に相当する6250万株を消却すると発表すると、10% 近く値上がりした。 自己株消却は自己株買いと違い1株利益が増えるわけでもないのに、なぜ市場で歓迎されるのだろうか。それは、自己株消却は帳簿上の存在そのものを消し去る行為であるため、「自己株処分」と言って金庫株が再び売り出されたり、企業再編のための株式交換に使われて市場に出回ったりする(=1株利益が希薄化される)不安が完全に消え去るからだ。自己株消却の履歴は、会社四季報Eブロックの【資本異動】欄に掲載されている。(P.125)
【信用取引による株価への影響】
現金や株を担保として証券会社におカネを借りて株を買ったり(信用買い)、株を借りてきて売ったり(信用売り)する信用取引では、通常は 6ヶ月以内に主に反対売買によって返済しなければならない。反対売買とは、信用買いした人は売却しておカネを返済し、信用売りした人は株を買い戻して返済することだ。信用買いでは期日の間に株価が値上がりしていれば利益となり、値下がりすれば損失となる。信用売りでは逆に値下がりしていれば利益、値上がりすれば損失だ。ある時点において未だ決済されていない分を「信用残高」という。信用買い残高を信用売り残高で割った数字は「信用倍率」と呼ばれ、信用取引の買い方と売り方の取り組み状況を表す指標として重要視されている。買い残高が30万株あって、信用売り残高が5万 株なら信用倍率は30万株÷5万株で6倍となる。実際の相場では信用売りする投資家は基本的に少ないので信用倍率は1倍以上になるのが普通。例にした6倍というのは買いが一方的でかなり過熱した状況だ。信用倍率は数字が高くなるほど将来の売り要因が増えることを意味しており、株価の上値が重くなりやすい。逆に1倍割れの銘柄は、信用買残高より信用売り残高の方が多い状態にあり、株価は上昇しやすい(反対売買による売り圧力が少ない)と判断されるため株式市場では好感される。株式投資では「現物株しかやらないので 信用取引は関係ない」などとは言っていられない。悪材料が何も出ていないのに株価の下げがきつい時は、信用買いの売り決済が要因になっているかもしれない。特に短期売買目的では信用倍率の高い銘柄を買うのは分が悪くなりがちなので注意しておきたい。東京証券取引所に上場している銘柄は、週末の残高が翌週の火曜日(休日の場合は水曜日)に公表されている。また、会社四季報オンラインでも各銘柄の株価推移タブをクリックすれば、過去10年分の信用残高が見られる。(P.131〜132)
お目当ての銘柄がROEの異常に高い会社だった場合、指標等欄にあるROAと5行ほど上にある自己資本比率をチラリと併せ見ることをおすすめしたい。というのは、先ほどの式を変形させると「ROA=ROE×自己資本比率(=財務レバレッジの逆数)」という関係式が成り立つからだ。 わかりやすく言うと、 ROEが高い会社で自己資本比率が高ければROAもそこそこ高くなるが、自己資本比率が低いとROAは低くなるという関係にある。つまり、 ROEの高さは真に収益力があってのことなのか、自己資本が薄く財務レバレッジが効いているだけの、いわば見かけ倒しのROEなのかが瞬時で判断できるのだ。半導体製造装置で世界4位の東京エレクトロン(8035)を見ると、2021年3月期実績のROEは 26.5%にも達し、自己資本比率も71.8%と厚い。結果、ROAも17.0%と文句のつけようのない収益体質となっている。任天堂(7974)も同様にROE は28.1%、自己資本比率76.8%でROAは19.6%と鉄壁の効率性だ。逆にソフトバンクグループ(9984)は、 ROEは61.9%と東京エレクトロンや任天堂のはるか上を行くが、ROAは10.9%とガクンと下がる。自己資本比率がわずか22.8%しかなく、収益力の高さというより財務レバレッジによるマジックであることがわかる。(P.170〜171)
【アクルーアルで利益の質を測る】
業績が良いのに実は儲かっていない「銭足らず」企業を見破るにはどうしたらよいか。実は、簡単な方法がある。純利益と営業CFを比べてどちらが大きいかチェックするのだ。正確には、特別損益を除いた税引き後利益から営業CFを引いて算出するのだが、ここは 簡易的に純利益で代用していいだろう。これを「アクルーアル(会計発生高)」といい、利益や現金を伴う“質”の高い利益か否かが検証できる。アクルーアルがマイナス、つまり営業CFの方が多ければ現金収入の裏付けのある「質の高い利益」、プラスなら現金収入が伴わない「質の悪い利益」と判断する。ただ、プラスだったら即ダメというわけではない。プラス傾向が続いている会社は投資対象からひとまず外すといった活用法が良いだろう。(P.195)
【最高純益で業績の旬をチェック】
業績の旬は何で見分けるか。手がかりとなるのはDブロックの【指標等】欄にある最高純益だ。最高益は、アスリートで言えば自己ベストにあたり、会社四季報は純利益ベースでの過去最高額と、それを記録した決算期を掲載している。()内の決算期が前期なら自己ベスト更新中の伸び盛り、7、8年以上前だったら旬は過ぎた、という感じで判断できる。最高益更新が見込まれている銘柄は当然、市場での注目が高く、投資信託にも最高益更新企業を集めた「日本最高益更新企業ファンド(愛称:自己ベスト)」という商品まである。(P.198〜199)
【フルにご用心】
なぜフル生産、フル稼働、満床(満室)がいけないのか。答えを先に言うと、フル生産ということは「もうこれ以上は作れません」と言っているのであり、満床・満室も「もういっぱいで入りません」と言っているに等しいからだ。この状態からさらに売上高を増やすには値上げするか、増産・増床投資するしかない。会社四季報の原稿を編集していると、今期にフル生産と言っておきながら、2期目の売上高予想を平気で増やす記者がいる。文中に「一部3交代シフトを導入で凌ぐ」とか「国内工場増強検討中」など何らかの対応策が示されていれば原稿を通すが、来期増収の根拠に触れていない場合は予想数字を見直すなどを命じていた。(P.215〜216)
【設備投資>減価償却なら攻めの経営】
会社四季報を使えば、設備投資に積極的で攻めの経営をしている会社を一発で見抜くことができる。設備投資額と減価償却費を比べて、設備投資の方が大きく上回っているかどうかチェックすればいいのだ。会社四季報Dブロックにはこの2つが上下に並んでいる。前期の設備投資実績と償却実績額を比べ、今期予定額についても同様に比べる。どちらも設備投資の方が多ければ、事業拡大意欲が旺盛と判断できる。(P.223)
【総資産回転率】
時価総額と同じDブロックに掲載されている総資産についても触れておきたい。総資産も売上高と掛け合わせると、その意味するものがイメージしやすい数字の1つで、会社の“体の引き締まり具合”がわかる。総資産とは負債と資産の合計であり、簡単に言えば会社が所有する有形無形の財産の総額だ。企業はこの総資産を使って利益を稼ぎ出すわけだが、同じ利益ならできるだけ少ない総資産で稼ぐ方が効率的ということになる。売上高を総資産で終わった指数を総資産回転率 (単位は回)という。業種にもよるが、会社四季報をパッと眺めて判断するにはやはりこれも1以上が好ましく、それ以下の企業は 売上高が小さすぎるか、総資産が大きすぎる。人間でいえばぜい肉が多い状態であり、遊休資産を売るとか過剰設備を削減するといった施策が必要なことを示唆している。
(P.260〜261)
【PERは株価を主語として見る】
PERは数値が低いほど割安というのは、ある意味正しく、ある意味間違いだ。おそらく誤解の元は、「PER=株価÷1株利益」という数式によるものだろう。 が、株式投資の目的は「株価が上昇する」こと。つまり主語はあくまで株価でなければならない。 であるなら、この式は右辺と左辺を移行して、「株価=PER ✕1株利益」とするのが本来の姿なのだ。 つまり、株価が上昇するにはPERが上昇するか1株利益が増えるか、できればその両方が必要なことがわかる。このことを理解すれば投資行動は全く異なったものになるはずだ。まずは、1株利益が増えそうな銘柄を選ぶのが常道だろう。短期的には業績上振れ期待が濃厚な銘柄、中長期的には連続増益が期待できる銘柄を物色していく。自己株取得計画を発表した銘柄が値上がりするのもこの理屈によるものだ。(P.272)
→自己株取得をすると、1株利益が上がる。
【PERレンジで割安感を判断】
会社四季報の株価指標欄は実績PERの高値と安値それぞれの平均値を掲載している。これは過去3期について、最高株価と最低株価、実績1株利益からPER を求めたもので、最高PERと最低PERに挟まれたゾーンはいわばその銘柄の居所ということになる。10〜15倍が居所の銘柄もあれば20〜30倍の銘柄もある。PERが この居所の上限に近づいたらそろそろ売り時、下限に来たら買い時と判断できる。株式投資の基本は「安い時に買う」であって、「安い株を買う」ではない。 PERが誤解されていると言ったのはこの点だ。3800を超える上場銘柄の中には「万年割安株」といって、好業績にもかかわらず、PERが常態化している銘柄も多い。足元のPERが低くても屋根(=居所の上限)が低くては、上昇余地は限られる。一方で、特に財務面やガバナンス上に問題がなく、最高益が予想されているにも関わらず、下限を大きく割り込んでいる銘柄は狙い目だ。 会社四季報に最高益の文字があり、 PER がアンダーシュート(下落方向に行き過ぎること)をしていたら目をつけておいて損はない。
(P.273〜274)
【PBRを因数分解】
PBR=PER×ROE という関係が成り立つ。 つまり低PBRということはPER×ROEが低いということだ。 PBRが0.5倍のA株とB株があったとしよう。 A株は PER5倍でROE10%、 B株はPER50倍でROE1%とする。さて、どちらが割安なのか。A株は市場で重視されるROEは高いが、 PERが低いために結果としてPBRが低い。つまり株価は割安と判断できる。一方のB 株はPERが50倍と高いが、肝心のROEは1%と極めて低い。これでは割安とは言えない。このように、PBR は単独で考えるのではなく、ROEと組み合わせて考えると、なぜ高いのか安いのかの本質が見えてくる。(P.281)
→PBR1倍割れの企業の中には、三井住友FGやホンダ、三菱商事といった優良株も多い。もはや1倍割れを割安の基準というには無理がある。そこで、PBRを分解して割安の判断に使おうというのが、本書の主張となっている。