ねこみんの投資生活

ふつうの塾講師が適応障害をきっかけに投資を勉強していくブログです

【読書64冊目】株式投資 ジェレミー・シーゲル 林康史監訳

【ラスコフは誤ったか】
1929年の夏、ジャーナリストのサミュエル・クロウサーはゼネラル・モータースの財務担当役員ラスコフに、「一般人が株式投資で富を築く方法」を尋ねた。その年の8月、このインタビュー記事は、「誰でも金持ちになれる」という大胆な見出しで主婦向けの雑誌レディース・ホーム・ジャーナルに掲載された。
ラスコフは、米国の工業化が飛躍的に進展しつつあると指摘し、毎月15ドルの優良株への投資が20年後には着実に8万ドルになると語った。年率24%もの利回りは前例のないほど高い数字だったが、強気相場に沸いていた1920年代にあっては、労せずして大金を得る方法として魅力的に聞こえた。投資家は株に熱狂し、何百万人もの人々が手っ取り早く利益を得ようと貯蓄を株式に注ぎ込んだ。
1929年9月3日、ラスコフのインタビュー記事が掲載されてから数日後、ダウ工業株平均は歴史的高値381.17ドルをつけたが、その7週間後に暴落した。続く34ヶ月間で、株価は米国の歴史でも類を見ないほど大幅な下落を記録した。1932年7月8日、暴落の嵐は去ったものの、ダウ平均は41.22ドルにまで下落していた。米国の優良企業の株式価値は実に89%も低下。株式投資に注ぎ込まれた何百万人もの貯蓄が吹き飛び、借金をして株式を買っていた投資家は破産し、米国は未曾有の大不況に陥った。
ラスコフは激しい非難を浴びることになり、その後数年にわたり糾弾された。株式投資に内在するリスクを無視し、株価は永遠に上がり続けると盲信した愚か者というのが彼に下った評価だった。インディアナ州選出のアーサー・ロビンソン上院議員などは、株価がピークにあるときに投資家に買いを勧めることによって株式市場の暴落を招いたとして、ラスコフの責任を追求した。それから63年後の1992年、フォーブスは「大衆の妄想と群衆の狂気」と題した記事で株式価値を過大評価する危険性を指摘し、過去の米国株価の周期を検証するなかでラスコフを「株式投資を、富を保証する道具と断言した最悪の犯罪者」と名指しした。
ラスコフの大胆な投資アドバイスは一見、定期的にウォール街に現れる強気な株マニアの意見を集約したもののように見える。しかし、彼の相場見通しをこのように評価することは、はたして正しいのだろうか。答えはノーである。ラスコフの助言に従い、毎月15ドルの投資を辛抱強く続けていれば、実は4年以内に短期国債財務省短期証券)を超える利回りを手にすることができたのだ!投資元本は1949年には9000ドルにまで膨らみ、年率利回りは7.86%と、債券の2倍以上になっていた。30年後には6万ドルを超え、年率利回りは12.72%に上昇したはずだ。ラスコフが予想した利回りには及ばないが、この30年にわたる株式投資によるトータルリターンは長期国債の8倍以上、短期国債の9倍以上であった。株価暴落の危険性を理由に株式投資を拒んだ投資家たちは、辛抱強く株式を買い増していった投資家に大きく遅れをとったのである。(P.2〜3)
 
【株価は長期的には安定して上昇してきた】
過去200年間、米国株の実質利回りは複利ベースで年率7%を記録し続けてきた。株式の利回りが高く、長期的に安定している理由は明らかではない。分かっているのは、株式の利回りが資本の質と量、生産性、リスクとリターンの関係に左右されるということだ。 一方、株式価値を高める要因には、優れた経営、財産権を保障する安定した政治体制、競争環境の下で消費者により良い商品を提供できる能力も含まれる。政治的あるいは経済的な危機は、時に投資家を市場から遠ざけ、株式相場の下落を招くこともあるが、経済成長をもたらすファンダメンタルズさえしっかりしていれば、長期的には株価が回復する。おそらく、これが過去200年間の政治的、経済的な混乱にもかかわらず、株価が長期的に安定して上昇を続けてきた理由だろう。(P.19)
 
【株式の実質利回りはインフレ率を上回る】
保有期間が長くなるにつれて、株式の実質利回りの最高と最低の差が、長期・短期の債券と比べて劇的に縮むことに注目してほしい。1年や2年といった短期間で見れば、確かに株式投資のリスクは長・短期債よりも高い。しかし、1802年以降では保有期間が5年を超えると、株式の実質利回りは最低でも-11%であり、同じ保有期間の長・短期債の実質利回りを若干下回るだけである。保有期間が10年間を超えると、株式投資の最低利回りは長・短期債よりも高くなる。20年保有すると、株式の実施利回りはインフレ率を下回ることはないが、長・短期債の最低利回りはインフレ率を3%も下回っている。20年間、年率で3%ずつ負け続けると、20年後にはポートフォリオの購買力は半分程度になってしまう。さらに、30年間株式を保有すると、最低利回りはインフレ率を2.6%も上回る。この値は、確定利付き資産を30年間保有した時に得られる平均利回りと比べても遜色がない。(P.24)
 
【高値圏で買ってもOK】
長期投資では株式の利回りが他の金融資産より高いことをよく理解している投資家でさえ、株価が高値圏にある時には買ってはいけないと信じている。しかし、長期投資の場合、この考えは間違っている。図2-2のは、過去100年に訪れた8回の株価のピーク時から10年、20年、30年の期間にわたって、それぞれの金融資産を保有した時に得られた実質利回りを比較したものである。株価がピークにある時に投資を始めたとしても、株式の利回りが他の金融資産の利回りを上回ることがわかる。保有期間が30年に及ぶと、株式の利回りは長期債の4倍以上、短期国債の5倍以上になる。20年間では、株式の利回りは債券の2倍となる。株価のピーク時から10年という比較的短い保有期間でも、株式の利回りは債券の利回りを若干上回っている。株式を購入するには最も不利と思われる時期に投資を始めても、こうした結果が得られるのである。向こう5〜10年の間に生活費などのために資産を取り崩す必要がないのであれば、たとえ株価がどんなに高値に見えても、長期でものを考える投資家にとって、株式への分散投資を極端に減らす必要がないことは、過去を振り返っても明らかである。(P.26)
 
【セクターの拡大縮小はあまり関係ない】
過去50年間にあるセクターの拡大または縮小がそのセクターの利回りに与えた影響は、20%に過ぎないことが明らかになった。これは、各セクターにおける投資家の利回りの80%が、そのセクターの企業の評価に基づいており、その産業が他に比べてどれだけ拡大したかという点はあまり重要ではないことを意味する。急成長するセクターはしばしば、投資家に非常に高い株価を支払わせようとするが、このことが利回りの低下をもたらすことになる。結果として、最高の価値は、投資家に無視され、ファンダメンタルズの割には株価が安くなっている停滞気味のセクターの中に見つかることが多い。(P.57)
 
【急成長企業は割高】
最初のS&P500構成銘柄の素晴らしさは、、これらの 500銘柄を購入し、その後の50年間に指数に追加された約1000社のいずれの株式も購入しなければ、構成銘柄の入れ替えがあるたびにポートフォリオを更新した場合よりも利回りが高かったという事実が証明している。最初の500銘柄の利回りは11.72%で、更新を続けた指数の利回りは10.83%だった。この年間利回りの差が50年にわたって蓄積されると、最初の構成銘柄に投資した資金は、更新した指数に投資した資金の1.5倍になる。どうしてこのようなことが起こったのだろうか。米国の経済成長の原動力となり、世界で 傑出した経済大国へと押し上げた新しい企業が、古い企業よりも低い利回りしか達成できないのはなぜだろう。答えは簡単である。新しい企業の利益と売上高は古い企業よりも急速に増加したが、投資家が新しい企業の株式を購入するために支払った金額が高すぎたために、高い利回りを得ることができなかったのである。(P.68)
時価総額はときとして、投資家の根拠なき楽観主義によって膨らむものである。
 
【古くから続くブランドも利益を生み出している】
最初の500銘柄を研究することによって、米国経済が過去半世紀に経験したドラマチックの変化が何を意味するのか理解できる。最も高い利回りを生み出した企業の多くが、いまだに50年前と同じブランドを提供し続けていることは 注目に値する。ほとんどが、ブランド力を生かして国際的に事業を拡大した企業だ。ケチャップのハインツ、ガムのリグレーコカ・コーラペプシコーラトッツィーロールズといった有名ブランドは、これらのブランドが誕生した当時ー100年以上も 昔から存在するブランドも少なくないーと変わらないくらい、今でも十分に利益を生み出している。(P.69)
→明治時代から続く財閥系企業が今も利益を生み出し続けているのに似ている。
 
【将来の企業価値
ある企業の株価が100ドルで、1株当たり利益が株価の10%、つまり10ドルだとする。リスクを考慮すると、この水準は投資家が株式に要求する利回りと同等である。ここで、この企業が全ての利益を配当として支払うとすれば、毎年、1株あたり10ドルを支払い続けることになる。こうして毎年支払われる配当を年10%で割り引くと、総額は100ドルに相当する。一方、企業が配当を支払わずに、すべての利益を同じく10%の利回りをもたらす資産に投資したとしても、企業価値は変わらないはずだ。ところが、投資した利益は2年目には1株当たり11ドル、3年目には12ドル10セントへと増え続ける。こうして、将来の1株当たり利益を10%の割引率で累積していくとその現在価値は無限大となるが、これは明らかに馬鹿げた企業価値である。つまり、配当として支払われない利益を割り引く方法は間違っており、企業の価値を過大評価することになる。この例の場合、利益を10%の利回りで再投資しようが、配当として株主に支払おうが、企業の価値は常に1株あたり100ドルである。(P.111)
→企業が内部留保して事業に再投資すれば、それが利回りの向上につながるという根強い主張があるが、企業が常に最適な投資を行うとは限らない。将来の株価を、将来の利益から予測することは、占いに等しいのである。
 
【アクルーアルで利益の質を見る】
スタンダード・アンド・プアーズのコア利益の他に、利益の質を測定するもう一つの方法として、会計上の利益からキャッシュフローを差し引いた金額の累積を調べるというものがある。この累積額が膨れ上がっている企業は、利益を操作している可能性が高く、いずれ問題が生じる可能性が高い。反対に、累積額が少ない企業は、利益を手堅く計算している可能性が高い。累積額が少ない企業の方が累積額の多い企業よりも 株式利回りが大幅に高いという証拠がある。ミシガン大学のリチャード・スローン教授は、累積額の増加は結果として利益と利回りの低下をもたらすという事実を始めて指摘した。スローン教授が1962年から2001年の期間を対象に調査した結果、利益の質が最も高い(累積額が少ない)企業と利益の質が最も低い(累積額が多い)企業との利回りの格差が年間18%にもなるという驚くべき事実が判明した。それにもかかわらず、ウォール街のアナリストは、将来の利益成長を予測する際にこの累積額を考慮していないという事実も明らかになった。たとえ誠実に行うにしても、利益の決定には常に予測が伴う。それでも、キャッシュフローは利益のように簡単には操作できず、この点では配当と同様である。(P.119)
→アクルーアル(会計発生高=税引後利益−営業CF)がマイナスである企業は、利益の質が高いという判断方法そのもの。長期投資において、重要な観点と言えそうだ。
 
【高齢化経済の解決法】
高齢化経済のための解決法は存在する。途上国には、先進国より豊富な若年層が存在している。年齢構成の違いは、取引のための機会を提供する。若い途上国で生産された財は、高齢な先進国の資産と交換可能ということだ。このような取引は新しいものではない。材と資産の交換は歴史を通して行われてきた。最初に、家族間(両親が老後の面倒を見てもらう代わりに子供に遺産を残す)で行われ、それが、一族、コミュニティ、国会と拡大した。まもなく、それは世界規模で行われるだろう。途上国は財を提供する代わりに我々の資産を獲得し、我々の高齢化した労働力の穴埋めをすることになる。(P.147)
 
配当利回り∝トータルリターン】
配当利回りが高いグループほど、配当利回りの低いグループよりも、確実に高いトータルリターンを投資家に提供しているのだ。例えば1957年12月末にS&P500指数ファンドに1000ドル投資していたら、その価値は2006年末には 17万6134ドルになっていた。これは 年率利回りの平均が11.13%であることを意味する。けれども、同じ時期に配当利回り上位100銘柄(配当利回りが最も高いグループ)に1000ドル投資していれば、67万5000ドルを超えて、年率利回りは 14.22%になっていた。(P.157)
 
【成長株・割安株の基準】
投資家は「成長株」や「割安株」を選択する際に、こうした分類が、業種や製品といった企業に固有の特徴とは何も関係がないということを頭に入れておくべきである。「成長」とか「割安」というのは、利益や配当といった企業価値のファンダメンタルズに比べて 市場価値(株価)が割高か割安かを表しているに過ぎない。たとえ高成長が期待できそうな情報技術セクターの企業でも、投資家に人気がなく、ファンダメンタルズに比べて株価が割安であれば、割安株として分類される。一方、産業として成熟し成長が頭打ちだと思われがちな自動車メーカーでも、将来が有望で投資家の人気を集め、ファンダメンタルズに比べて株価が 割高であれば、成長株として分類される。株価というのは時間とともに大きく変動するものなので、これまでにも同じ業種や同じ企業の株式が、ある時期には「割安株」として分類され、別の時期には「成長株」として分類されてきた。(P.169)
 
【長期なら大型株】
投資家は、常に市場を上回る利回りを獲得できる戦略など存在しないことを認識すべきである。小型株は時として高騰することがあり、その結果として長期的な利回りが大型株を上回ることがあるが、それ以外の期間では大型株の利回りにかなわない。割安株も、弱気相場では株価が好調に推移する傾向にあるものの、強気相場の後半では成長株の利回りを下回ることが多い。高利回りを狙う戦略を取るのであれば、投資家には忍耐が必要になる。(P.172)
 
【国別分散からセクター別分散へ】
私は、国際投資におけるセクター別分散は、今後、国別分散よりも盛んになると考えている。企業の海外生産比率が高まり、海外からの収益が増加するとしても、各国政府の規制や法制度は無視できない問題である。しかし、企業が本拠地を置く国の影響は、グローバリゼーションが進むにつれて薄れていくだろう。私は、将来、国際企業は国家間で合意された国際ルールによって統治されるようになると想像している。これは、国ごとの独自基準ではなく、国際会計基準審議会(IASB)が採択した国際会計基準を採用する企業が増えている状況に似ている。国際企業が目立ってくれば、企業がどの国に本拠地を置くか二次的な問題となり、グローバル セクターを基準とした分散投資が主流になるだろう。つまり、その企業が何を生産し、何を流通させているかを基準にポートフォリオが構成されるということである。その場合、米国企業だけを対象としたポートフォリオは非常に視野が狭いものになるはずだ。(P.186〜187)

【読書63冊目】伝説の編集長が教える 会社四季報はココだけ見て得する株だけ買えばいい 山本隆行

【夏号と秋号のちがい】
夏号が前期と今期の業績変化、つまり1年ごとの変化に軸足を置いているのに対して、9月発売の秋号や12月発売の新春号は性格が異なる。秋号の場合は、1つ前の夏号で立てた予想がその後どう変化したか、すなわち「3ヶ月の変化」に軸足を置いているのだ。(P.36)
 
【増益≠増額】
増益と増額は、言葉は似ているが意味はまったく違う。増益は利益が前の期より増えること。増額は同じ期の利益について、従来予想より増えることをいう。(P.37)
 
会社四季報:究極の銘柄選び】
外資系資産運用会社のファンドマネージャーは、会社四季報が発売されると3回読み直すらしい。1回目は業績記事を読んでおもしろかった銘柄に付箋を貼る。2回目は予想業績数字だけを見て伸びている会社に付箋を貼る。3回目は欄外にある月足チャートをチェックして、まだ買われていない割安な銘柄に付箋を貼っていく。そして、3回とも付箋が貼られた銘柄は理屈抜きで買うのだそうだ。(P.42)
 
【秋号には上方修正予備軍がゴロゴロ①】
銘柄選びの選球眼を鍛えるにはあくまで毎号を買うのがベストなのだが、どうしてもと言うならずばり、秋号だ。理由は単純。株価に織り込まれていない上方修正予備軍を一番見つけやすい号だからだ。年に1冊しか買わない投資家は多くが夏号を買っていると言ったが、実は夏号には独自増額している銘柄は3月決算会社に限ると数えるほどしかない。夏号は4月下旬から5月下旬にかけて発表される3月決算を踏まえて制作するわけだが、この段階では会社の公表した業績見通しに対して弱すぎるだの強すぎるだのと記者が取材でやり返すには、判断材料が少なすぎるのだ。一般に、会社側が決算発表と合わせて公表する新年度の業績見通しは、1〜2月から 社内各部署で予算を積み上げ、出来上がった事業計画に多少手を加えて作られる。これがゴールデンウィーク頃に発表されるわけで、作成開始からはすでに約3ヶ月が経過していることになる。その間に原油価格や為替、商品市況といった業績に影響する要素が著しく変動してしまうこともある。こうした場合は夏号の段階であっても、各企業の感応度(トヨタ〈7203〉は1円の円安で年間400億の増益 要因になる)を元に業績影響を計算し、会社四季報独自に予想を引き直すことは珍しくない。加えて、業績予想には各社は、癖のようなものがあって、甘い業績予想というか、希望的観測に近い数字を出してくる 会社もあれば、保守的な、極めて堅い数字を出してくる会社もある。こうした各社の習性は会社四季報記者も承知しているので、初めから予想数字を独自に上げ下げする。ただ、出走前のこの段階で数字をいじくれるのはそこまでだ。さらに一歩踏み出して弱めの数字にしたり強めに数字にしたりするだけの合理的根拠は、この初期段階ではまだ希薄なのである。
(P.50〜51)
 
【秋号には上方修正予備軍がゴロゴロ②】
夏号では独自増額銘柄がわずかしかないが、次の秋号となると状況はかなり変わってくる。夏号からの3ヶ月の間に、小売や外食各社が月次の売上高を速報したり、工作機械各社が月次受注を発表したりする。こうした各種データが積み上がり、記者も足元の趨勢がつかめるようになる。何よりその間には第1四半期(4〜6月)決算が発表されている。第1コーナーを通過したラップタイムがあれば、記者も突っ込んだ予想ができるようになる。例えば第1四半期が好調で、通期の営業利益見通しに対する進捗率が30%に達したC社があったとしよう。 C社の第1四半期利益進捗率は例年約25%である。今期は5%ポイントも改善していることになる。今期の進捗率が高いのは、前期末に発売した新製品の予想を超えるヒットが主因だという。そうと分かれば、業績は今後尻上がりに良くなっていく可能性大であり、記者は当然、秋号の業績を予想を大幅増額する。(P.54)
 
【秋号には上方修正予備軍がゴロゴロ③】
第一四半期に上方修正を発表した会社は第2四半期も連続で 上方修正する可能性が高いのは、新型コロナという特殊要因があった2021年に限ったことではない。東洋経済保有する2006年以降の決算データを調べたところ、面白いことが判明したので紹介したい。対象としたのは2006年4月から2021年12月20日までの約15年9ヶ月の間に発表された 決算で、期初 、第1四半期、第2四半期の3つの時点において会社側 発表の営業利益が全て揃っている4万5758件だ。その結果、第1四半期決算段階で上方修正を発表したのは全体の5.0%にあたる2283件あった。このうち第2四半期で再び上方修正を発表したのは1140件。つまり、第1四半期決算段階で上方修正した会社のほぼ半数にあたる49.9%が第2四半期でも上方修正していたのだ。ちなみにこのデータは決算発表時に上方修正したケースをカウントしたものであり、先ほど紹介したキヤノンのように、決算発表より前に上方修正を発表したケースは含まれていない。もし含めれば50%を超えるのは間違いないだろう。(P.57〜58)
 
【利益柱がどこにあるか連結事業欄で見極める①】
最初に注目したいのは【海外】61の部分だ。キッコーマンの主戦場は意外にも国内ではなく海外だとわかる。事業別売上高は海外食品卸売が最も多く全体の42%、次が37%の国内食料品製造・販売、3番目が19%の海外食料品製造・販売 という構成となっている。 利益面はどうだろう。カッコ内に書かれた利益率では、海外食料品製造・販売の21%が群を抜いて 高い。海外では100円を販売すれば21円が利益になることを示している。一方、国内は6%で海外の3分の1以下、100円売ってわずか6円しか利益にならない。海外食料品卸売 も図体こそ一番大きいが、こちらも 5円しか儲からない。つまり、利益面では海外における製造・販売事業がダントツに良いのだ。キッコーマンの特色欄に「北米が利益柱に成長」と書かれているように、具体的には営業利益の約7割を海外しょうゆ事業で稼いでいる。キッコーマンを「内需消費関連銘柄」などと考えたら大間違いということになる。
(P.68〜69)
 
【利益柱がどこにあるか連結事業欄で見極める②】
現在のホンダは何で儲けているかご存知だろうか。ここ数年の業績は、本業の儲けを示す営業利益が2017年3月期の8407億円をピークに後退を続けたが、2021年3月期にようやく底上げし、現在は回復途上にある。では、2021年3月期に底入れした 6602億円という利益は何で稼いだのか。 ホンダの【連結事業】には二輪14(13)、四輪65(1)金融サービス19(14)とある。四輪つまり自動車はたしかに全売上の65%を占める主力事業だが、利益率はわずか1.05%しかない。四輪事業が稼ぎ出した利益は、6602億円の 13.6%の902億円だけ。大半の利益を稼いでいるのは自動車ローンを中心とした金融サービス事業であり、それを好採算の二輪(オートバイ)事業がサポートしている構図となっている。四輪車で稼げなくなった ホンダを、なおも自動車会社と言っていいものかどうか。(P.76)
→【連結事業】欄から、会社の利益構造が浮き彫りになる。
 
【01(ゼロイチ)銘柄】
証券コードの下2桁が01の会社が01銘柄と呼ばれることは覚えておくと良いだろう。01銘柄は証券コードが導入された際に、各業種で最初にコードが設定された名門企業だ。2801キッコーマン、3001片倉工業、4901富士フィルムホールディングス、5201AGC(旧旭硝子)、5401日本製鉄、6201豊田自動織機、6501日立製作所、7201日産自動車、8801三井不動産、9101日本郵船、9201日本航空などの名を聞けば誰もが頷くはずだ。全ての01 銘柄というわけではないが、株式市場が景気の波に乗って力強く上昇する相場や、大幅下落した後の本格回復相場では、国際優良株を中心とした主力株が相場の先導役になりやすい。こうした局面では巨額の資金を動かす国内外の機関投資家が株を買っている。彼らの動かす資金は巨大なだけに、時価総額が大きく流動性の高い銘柄が買いの中心とならざるを得ない。見方を変えれば、01銘柄のような主力銘柄が動いている時は上昇相場が長く続く可能性ありといえる。(P.90〜92)
 
【重要事象・疑義注記】
決算短信を開いて、財務諸表より前に記載があれば 重要事象、後ろにあればより深刻な疑義注記だ。両者の違いは分かりにくいが、サッカーに例えるなら重要事象はイエローカード、疑義注記はレッドカードと考えれば分かりやすい。疑義注記がついた会社が経営破綻することはあっても、重要事象がついた会社が突然死するケースはまれだ。イエローカードを1枚もらっただけでは出場停止にならないのと同じと言える。ただ、経営が一段と厳しくなると疑義注記へと記載が変わるので、そこからの投資には注意が必要だろう。これとは逆に、ある年の決算を境にレッドカードが突然外れる場合もある。また、その前後に経営者が交代したりすると、経営刷新への期待から株価が大きく上昇を開始するケースもあるので、やはり「変化」を見逃さないようにしておきたい。(P.106)
 
【売上高=数量×単価】
売上高については難しく考える必要はないが、会社四季報を読みこなす上で大事なことが一つある。売上高は「数量」と「単価」の掛け算で成り立っているという点だ。前章で説明したBブロックの業績記事は、売上の増減理由から書き始めるのが基本形で、必ずというわけではないが、数量の変化と価格の変化の組み合わせで説明するようにしている。例えば前期に100億円あった売上高が今期90億円に減る場合、いくつかのパターンが考えられる。1つ目は、販売数量は前期とはほぼ同じだが、価格競争が厳しく単価が下がってしまったパターン。2つ目は、価格は前期並みを維持できたものの数量が後退してしまったパターン。3つ目は、値上げで単価は上昇したが、そのため数量が大きく凹んでしまうパターン。4つ目は最悪で、価格も 数量も後退してしまうパターンである。同じ減収でもこれだけのパターンがあり、今後の業績への影響度や対策の難易度もそれぞれ違ってくる。(P.114〜115)
 
【自社株買い】
自己株買いは自社の株式を利益剰余金などで買い戻すことをいう。自己株買いがなぜ株主還元になるのか。取得した自己株は1株利益を計算するときに分母である発行済み株式数から除外されるため1株利益が増加する。そのため、配当性向を表明している会社では配当(1株益✕配当性向)も増えるというわけだ。業績を上方修正して1 株益が増加したのと同じ結果になるため、自己株買いを反応すると株価は敏感に反応する。(P.122〜123)
 
【自己株消却】
資本準備金や剰余金などを取り崩して金庫株を消却することを「自己株消却」といい、これも株価上昇の大きな要因となる。2021年12月にスマホゲーム開発を手掛けるグリー(3632)が発行済み株式数の25.8%に相当する6250万株を消却すると発表すると、10% 近く値上がりした。 自己株消却は自己株買いと違い1株利益が増えるわけでもないのに、なぜ市場で歓迎されるのだろうか。それは、自己株消却は帳簿上の存在そのものを消し去る行為であるため、「自己株処分」と言って金庫株が再び売り出されたり、企業再編のための株式交換に使われて市場に出回ったりする(=1株利益が希薄化される)不安が完全に消え去るからだ。自己株消却の履歴は、会社四季報Eブロックの【資本異動】欄に掲載されている。(P.125)
 
信用取引による株価への影響】
現金や株を担保として証券会社におカネを借りて株を買ったり(信用買い)、株を借りてきて売ったり(信用売り)する信用取引では、通常は 6ヶ月以内に主に反対売買によって返済しなければならない。反対売買とは、信用買いした人は売却しておカネを返済し、信用売りした人は株を買い戻して返済することだ。信用買いでは期日の間に株価が値上がりしていれば利益となり、値下がりすれば損失となる。信用売りでは逆に値下がりしていれば利益、値上がりすれば損失だ。ある時点において未だ決済されていない分を「信用残高」という。信用買い残高を信用売り残高で割った数字は「信用倍率」と呼ばれ、信用取引の買い方と売り方の取り組み状況を表す指標として重要視されている。買い残高が30万株あって、信用売り残高が5万 株なら信用倍率は30万株÷5万株で6倍となる。実際の相場では信用売りする投資家は基本的に少ないので信用倍率は1倍以上になるのが普通。例にした6倍というのは買いが一方的でかなり過熱した状況だ。信用倍率は数字が高くなるほど将来の売り要因が増えることを意味しており、株価の上値が重くなりやすい。逆に1倍割れの銘柄は、信用買残高より信用売り残高の方が多い状態にあり、株価は上昇しやすい(反対売買による売り圧力が少ない)と判断されるため株式市場では好感される。株式投資では「現物株しかやらないので 信用取引は関係ない」などとは言っていられない。悪材料が何も出ていないのに株価の下げがきつい時は、信用買いの売り決済が要因になっているかもしれない。特に短期売買目的では信用倍率の高い銘柄を買うのは分が悪くなりがちなので注意しておきたい。東京証券取引所に上場している銘柄は、週末の残高が翌週の火曜日(休日の場合は水曜日)に公表されている。また、会社四季報オンラインでも各銘柄の株価推移タブをクリックすれば、過去10年分の信用残高が見られる。(P.131〜132)
 
自己資本比率が低いとROEは高くなり、ROAは低くなる】
お目当ての銘柄がROEの異常に高い会社だった場合、指標等欄にあるROAと5行ほど上にある自己資本比率をチラリと併せ見ることをおすすめしたい。というのは、先ほどの式を変形させると「ROA=ROE×自己資本比率(=財務レバレッジの逆数)」という関係式が成り立つからだ。 わかりやすく言うと、 ROEが高い会社で自己資本比率が高ければROAもそこそこ高くなるが、自己資本比率が低いとROAは低くなるという関係にある。つまり、 ROEの高さは真に収益力があってのことなのか、自己資本が薄く財務レバレッジが効いているだけの、いわば見かけ倒しのROEなのかが瞬時で判断できるのだ。半導体製造装置で世界4位の東京エレクトロン(8035)を見ると、2021年3月期実績のROEは 26.5%にも達し、自己資本比率も71.8%と厚い。結果、ROAも17.0%と文句のつけようのない収益体質となっている。任天堂(7974)も同様にROE は28.1%、自己資本比率76.8%でROAは19.6%と鉄壁の効率性だ。逆にソフトバンクグループ(9984)は、 ROEは61.9%と東京エレクトロン任天堂のはるか上を行くが、ROAは10.9%とガクンと下がる。自己資本比率がわずか22.8%しかなく、収益力の高さというより財務レバレッジによるマジックであることがわかる。(P.170〜171)
 
【アクルーアルで利益の質を測る】
業績が良いのに実は儲かっていない「銭足らず」企業を見破るにはどうしたらよいか。実は、簡単な方法がある。純利益と営業CFを比べてどちらが大きいかチェックするのだ。正確には、特別損益を除いた税引き後利益から営業CFを引いて算出するのだが、ここは 簡易的に純利益で代用していいだろう。これを「アクルーアル(会計発生高)」といい、利益や現金を伴う“質”の高い利益か否かが検証できる。アクルーアルがマイナス、つまり営業CFの方が多ければ現金収入の裏付けのある「質の高い利益」、プラスなら現金収入が伴わない「質の悪い利益」と判断する。ただ、プラスだったら即ダメというわけではない。プラス傾向が続いている会社は投資対象からひとまず外すといった活用法が良いだろう。(P.195)
 
【最高純益で業績の旬をチェック】
業績の旬は何で見分けるか。手がかりとなるのはDブロックの【指標等】欄にある最高純益だ。最高益は、アスリートで言えば自己ベストにあたり、会社四季報は純利益ベースでの過去最高額と、それを記録した決算期を掲載している。()内の決算期が前期なら自己ベスト更新中の伸び盛り、7、8年以上前だったら旬は過ぎた、という感じで判断できる。最高益更新が見込まれている銘柄は当然、市場での注目が高く、投資信託にも最高益更新企業を集めた「日本最高益更新企業ファンド(愛称:自己ベスト)」という商品まである。(P.198〜199)
 
【フルにご用心】
なぜフル生産、フル稼働、満床(満室)がいけないのか。答えを先に言うと、フル生産ということは「もうこれ以上は作れません」と言っているのであり、満床・満室も「もういっぱいで入りません」と言っているに等しいからだ。この状態からさらに売上高を増やすには値上げするか、増産・増床投資するしかない。会社四季報の原稿を編集していると、今期にフル生産と言っておきながら、2期目の売上高予想を平気で増やす記者がいる。文中に「一部3交代シフトを導入で凌ぐ」とか「国内工場増強検討中」など何らかの対応策が示されていれば原稿を通すが、来期増収の根拠に触れていない場合は予想数字を見直すなどを命じていた。(P.215〜216)
 
【設備投資>減価償却なら攻めの経営】
会社四季報を使えば、設備投資に積極的で攻めの経営をしている会社を一発で見抜くことができる。設備投資額と減価償却費を比べて、設備投資の方が大きく上回っているかどうかチェックすればいいのだ。会社四季報Dブロックにはこの2つが上下に並んでいる。前期の設備投資実績と償却実績額を比べ、今期予定額についても同様に比べる。どちらも設備投資の方が多ければ、事業拡大意欲が旺盛と判断できる。(P.223)
 
【総資産回転率】
時価総額と同じDブロックに掲載されている総資産についても触れておきたい。総資産も売上高と掛け合わせると、その意味するものがイメージしやすい数字の1つで、会社の“体の引き締まり具合”がわかる。総資産とは負債と資産の合計であり、簡単に言えば会社が所有する有形無形の財産の総額だ。企業はこの総資産を使って利益を稼ぎ出すわけだが、同じ利益ならできるだけ少ない総資産で稼ぐ方が効率的ということになる。売上高を総資産で終わった指数を総資産回転率 (単位は回)という。業種にもよるが、会社四季報をパッと眺めて判断するにはやはりこれも1以上が好ましく、それ以下の企業は 売上高が小さすぎるか、総資産が大きすぎる。人間でいえばぜい肉が多い状態であり、遊休資産を売るとか過剰設備を削減するといった施策が必要なことを示唆している。
(P.260〜261)
 
【PERは株価を主語として見る】
PERは数値が低いほど割安というのは、ある意味正しく、ある意味間違いだ。おそらく誤解の元は、「PER=株価÷1株利益」という数式によるものだろう。 が、株式投資の目的は「株価が上昇する」こと。つまり主語はあくまで株価でなければならない。 であるなら、この式は右辺と左辺を移行して、「株価=PER ✕1株利益」とするのが本来の姿なのだ。 つまり、株価が上昇するにはPERが上昇するか1株利益が増えるか、できればその両方が必要なことがわかる。このことを理解すれば投資行動は全く異なったものになるはずだ。まずは、1株利益が増えそうな銘柄を選ぶのが常道だろう。短期的には業績上振れ期待が濃厚な銘柄、中長期的には連続増益が期待できる銘柄を物色していく。自己株取得計画を発表した銘柄が値上がりするのもこの理屈によるものだ。(P.272)
→自己株取得をすると、1株利益が上がる。
 
【PERレンジで割安感を判断】
会社四季報の株価指標欄は実績PERの高値と安値それぞれの平均値を掲載している。これは過去3期について、最高株価と最低株価、実績1株利益からPER を求めたもので、最高PERと最低PERに挟まれたゾーンはいわばその銘柄の居所ということになる。10〜15倍が居所の銘柄もあれば20〜30倍の銘柄もある。PERが この居所の上限に近づいたらそろそろ売り時、下限に来たら買い時と判断できる。株式投資の基本は「安い時に買う」であって、「安い株を買う」ではない。 PERが誤解されていると言ったのはこの点だ。3800を超える上場銘柄の中には「万年割安株」といって、好業績にもかかわらず、PERが常態化している銘柄も多い。足元のPERが低くても屋根(=居所の上限)が低くては、上昇余地は限られる。一方で、特に財務面やガバナンス上に問題がなく、最高益が予想されているにも関わらず、下限を大きく割り込んでいる銘柄は狙い目だ。 会社四季報に最高益の文字があり、 PER がアンダーシュート(下落方向に行き過ぎること)をしていたら目をつけておいて損はない。
(P.273〜274)
 
【PBRを因数分解
PBR=PER×ROE という関係が成り立つ。 つまり低PBRということはPER×ROEが低いということだ。 PBRが0.5倍のA株とB株があったとしよう。 A株は PER5倍でROE10%、 B株はPER50倍でROE1%とする。さて、どちらが割安なのか。A株は市場で重視されるROEは高いが、 PERが低いために結果としてPBRが低い。つまり株価は割安と判断できる。一方のB 株はPERが50倍と高いが、肝心のROEは1%と極めて低い。これでは割安とは言えない。このように、PBR は単独で考えるのではなく、ROEと組み合わせて考えると、なぜ高いのか安いのかの本質が見えてくる。(P.281)
→PBR1倍割れの企業の中には、三井住友FGやホンダ、三菱商事といった優良株も多い。もはや1倍割れを割安の基準というには無理がある。そこで、PBRを分解して割安の判断に使おうというのが、本書の主張となっている。

【読書62冊目】フルオートモードで月に31.5万円が入ってくる「強配当」株投資 長期株式投資

【経済的な堀】
「千年投資の公理」という本がありますが、そこでは「経済的な堀」について以下のように記載されています。
・ブランド 、特許、行政の認可などの無形固定資産を持つ企業は、ライバル企業がかなわない製品やサービスを販売できる
・販売している製品やサービスが顧客にとって手放しがたいものであれば、乗り換えコストが少しでも余計にかかることによって顧客離れを防ぎ、価格決定力を企業の方に与える
・ネットワーク経済の恩恵を受ける一部の幸運な企業には、長期間ライバルを閉め出すことができる強力な経済的な堀がある
・最後に生産過程や場所、規模、独自のアクセスなどによって製品やサービスをライバルよりも安い価格で提供できる企業にはコスト上の優位性がある
「千年投資の公理」(パット・ドーシー/ パンローリング)より(P.39)
 
【PER・PBR レンジの確認方法】
PER・PBR レンジは、様々な投資情報媒体で情報提供がなされています。ちなみにですが、私はSBI 証券の株アプリで確認しています。その場合、各銘柄の表示画面右上にあるタブから、「その他」→「銘柄分析」→「株価指標」と済み、チャート画面をタップすると、レンジの最大値、平均値、最小値を確認することができます。
(P.41)
 
製品やサービスが市場に投入されてから撤退するまでのプロセスを体系的にまとめた理論があり、マーケティング(顧客の課題を把握し、価値を提供する企業活動のこと)の世界では、プロダクトライフサイクル(PLC:Product Life Cycle)と呼ばれています。一般的に、サイクルには 次の4つの段階があると言われています。
①導入期:製品やサービスを 市場に投入した直後の段階です。需要や売上が小さく、消費者の認知を高め、市場拡大させることが最優先課題となります。広告宣伝費もかかるため、利益はほとんど出ません。
②成長期:市場規模が成長し、売上と利益が急拡大する段階です。次第に競合他社が市場に参入して競争が激しくなります。消費者のニーズも多様化するため、差別化により自社製品のブランド力を高め、市場に浸透させることが重要となります。
③成熟期:製品やサービスが広く顧客に行き渡ることで 市場の成長が鈍化し、売り上げが頭打ちになる段階です 。その一方で、この段階では、導入期や成長期のように広告コスト等もかからないため、利益は最大化されます。
④衰退期:市場規模が縮小し、売上や利益や減少していく段階です。競合他社は、新たな市場を探し撤退していきます
パイロットは「ドクターグリップ」や「フリクションボール」などのヒット作だけでなく、数多くの新商品を市場に投入しています。プロダクトライフサイクルの観点から、常に新しい商品を開発し続けていく必要があるためです。このたゆまぬ努力が多くの商品カテゴリーでの事業展開を可能とし、世界中で販売することで 業界トップクラスの安定した経営基盤を築くに至っています。
(P.48〜49)
 
コア・コンピタンスの概念は、ゲイリー・ハメルとC・K・プラハラードが1990年に共同で発表した論文「The Core Competance of the Corporati」において、「顧客に対して、他社には真似のできない 自社ならではの価値を提供する、企業の中核的な力」とされています。具体的には、以下の3つの条件を満たす能力となります。
1.その能力は競合他社に模倣されにくい
2.その能力を活かして他の事業へも展開できる
3.その能力は顧客価値を創出できる
カニシは、ダントツの超高速回転技術という模倣されにくい技術を中核に、新たな医療領域・新たなニーズに対応すべくチャレンジし、スピーディーな開発と最高品質を実現、全世界へのサービスネットワークを構築することで顧客価値の創出を試みています。
業界首位級の企業は、競争力を維持するためのコア・コンピタンスを有していることがほとんどです。投資を検討する際には、その企業における中核的な能力(強み)とは何かを考えてみることは、有意義であると言えるでしょう。(P.53)
 
マーケティングの世界では、ブランドエクイティ(Brand Equity:ブランドが持つ資産価値。ブランド資産として捉える)という考え方があります。一般に、ブランドエクイティの構成要素として、次の4つを上げることができます。
1.ブランド認知 ブランド認知とは、そのブランドがどの程度知られているか、どのようなイメージを持たれているかのこと。多くの人は普段から見慣れた商品を好み、信頼を置く傾向にあることから、ブランド認知の高い方が消費者から選択される可能性が高くなります。
2. 知覚品質 知覚品質とは、商品に対して消費者が認識している品質のことです。知覚品質には、単に商品の品質だけではなく、信頼性、サービス、雰囲気などの目に見えない価値も含まれています。商品やサービスを比較した時に、消費者は知覚品質の高い商品、サービスを選好する傾向にあります。
3.ブランド連想 ブランド連想とは、消費者が、そのブランドに関して連想できる、全てのものを指します。例えば、マクドナルドのブランド連想であれば、ハンバーガー、マックフライポテト、マックシェイク、マックカフェ朝マックハッピーセットなど。ブランド に良い印象を持ってもらうことで、差別化が難しい同業他社の類似商品・サービスに対して、優位性を確保できます。そのため、ブランドにどのような連想を持たせるか、また、いかにして連想をブランドと強く結びつけるかが重要です。
4.ブランド・ロイヤルティ ブランド・ロイヤルティとは、消費者がブランドに対してどの程度の忠誠心や愛着を持っているかを指します。ブランド・ロイヤルティは、一度獲得すると失われにくく、安定的な利益を確保しやすくなることから、極めて重要な要素となります。SHOEIは最高の製品を作り、顧客のニーズに応え続けることで自社ブランドの価値を高め続けています。数十年という長い時間をかけて積み上げてきた ブランドエクイティは、SHOEIの最も重要な資産であり、競争力の源泉と言えるでしょう。(P.57〜58)
SHOEIはオートバイ用ヘルメットの製造・販売を主たる事業とし、高品質で高付加価値のついたプレミアムヘルメットと呼ばれる市場において世界首位のメーカー。
 
【集中戦略】
特定の顧客・製品群・地域など、特定の分野へ企業の経営資源を集中し、その分野でナンバーワン、オンリーワンを目指す戦略を「集中戦略」と呼びます。競争戦略に関する研究の第一人者として知られているハーバード大学マイケル・ポーター教授は、その著書「競争の戦略」の中で、企業が長期的に防衛可能な地位をつくり競争相手に打ち勝つための3つの基本戦略(1.コストリーダーシップ戦略、2.差別化戦略、3.集中戦略)があるとしています。
1.コストリーダーシップ戦略 コスト・リーダーシップ戦略とは、コスト面において最も優位に立って立つことを目的とする戦略です。圧倒的な低コストにより高い市場 シェアを獲得できると、原材料の大量購入や、さらなる コストの引き下げも可能に。低コストが実現するとマージンは大きくなり、利益が蓄積されます。低コストのリーダー的地位を維持するためには、蓄積された利益を最新の設備や機械へ投資し続けることが必要不可欠です。
2.差別化戦略 差別化戦略とは、自社の製品やサービスの付加価値を高めて、業界の中でもユニークな地位の獲得を目的とする戦略です。差別化に成功すると、顧客のブランドに対する忠誠心や愛着が芽生えます。このことは、顧客が価格によって商品を選ぶのではなく、ブランドによって選択することになり、マージンを高めてくれることを意味します。
3.集中戦略 集中戦略とは、狭いターゲットに経営資源を注ぎ込み、特定の分野で圧倒的な地位を獲得することを目的とする戦略です。集中戦略が機能すると、その狙いを定めた戦略ターゲットにおいて、コストリーダーの地位を得られるか、差別化に成功するか、上手くいけば その両方が期待できます。
日本セラミックの会社規模は決して大きくないものの、特定の分野へ集中的に経営資源を注ぎ込むことで、世界トップシェアの座を獲得するに至っています。会社規模は大きくなくとも、局地的には競争優位を確保できているケースの一つです。(P.62〜63)
→日本セラミックは、鳥取県に本社を置く赤外線センサで世界トップシェアのメーカー。赤外線センサの他に、超音波センサにといてもセンサ業界では世界的な知名度を誇っている。
 
バリューチェーンとは、マイケル・ポーター教授がその著書「競争優位の戦略」(ダイヤモンド社)の中で提唱したフレームワークです。バリュー(Value)は価値、チェーン(Chain)は連鎖、という意味で、日本語では価値連鎖と訳されることもあります。このフレームワークを用いて事業活動を機能やプロセスごとに分解して、どの部分がどのような付加価値を生み出しているかを分析することにより、利益の源泉を確認することができるのです。
バリューチェーンでは、事業活動を5つの主活動と4つの支援活動に分類しています。
5つの主活動とは、製品を製造するために原材料の入手・ 貯蔵・配分などを行う「購買物流」、設備のメンテナンスなども含めた、原材料を加工する「製造」、梱包・保管・輸送・受注処理など、製造した製品を倉庫や 店舗に運ぶ「出荷物流」、製品の販売や広告・販促・営業活動などの「販売・マーケティング」、製品やサービスを提供した後の修理・メンテナンスなどのアフターサービス、問い合わせへの対応などの「サービス」のことを指します。
4つの支援活動とは、経営企画・財務・総務 など、企業活動が円滑に行われるための支援活動である「全般管理 (インフラストラクチャー)」、給与の支払いや社会保険の手続き、社員教育などの「人事・労務管理」、製品開発や品質向上、生産工程の効率化など技術に関する全般の活動である「技術開発」、社外から必要な原材料や物品・サービスなどを購入したり、契約したりする「調達活動」のことを言います。数多くの企業がバリューチェーンの考え方を活用して経営戦略を練っています。たとえば、総合商社では様々な企業へ出資して、協業しながらバリューチェーンを構築しています。(P.68)
伊藤忠商事はファミリマートを核としてバリューチェーンを構築している。
 
【売上を伸ばす戦略3大パターン】
売上を伸ばすための大きな戦略のパターンとして、以下の3つの視点を念頭に置いておくと、企業戦略の概要がつかみやすいと思います。
1.海外へ進出することで、これよりこれまでよりも大きな市場で事業を展開する
2.既存の国内市場でシェアを伸ばす
3.国内外を問わず全く新しいビジネスを展開して、新たな市場を創造する
つまるところ、企業は利益を増加させるために戦略を練るのです。そして、持続的に利益を増加させるためには、売上も伸ばし続ける必要があります。これはどんな企業にも当てはまる戦略の根幹です。国内市場を主戦場としていた企業が海外へ進出し、現地でも受け入れられれば大きなビジネスチャンスとなります。国内市場で着実にシェアを伸ばし続ける企業は、利益も売上に応じて増加します。企業が新たな製品を開発し、その製品が世の中のニーズにマッチしているものであれば、事業の拡大が期待できます。いずれも利益の拡大に直結するということ。
企業が将来的に生み出せるであろう利益水準に対して株価が安く推移しているなど、企業の本質的価値と株価に歪みが生じているようであれば、その価値に対して安く 投資することができます。株価は長期的には業績に連動していきますので、企業利益が増加すれば株価も上昇します。そのような将来想定される企業利益の増加を経営戦略から読み解くことで、投資リターンに結びつけられる機会は増えるでしょう。(P.93)
 
積水ハウスの戦略】
積水ハウスは、土建住宅、賃貸・事業用建物、建築・土木、賃貸住宅管理、リフォーム、仲介・不動産、マンション、都市再開発、国際事業を展開している日本でトップクラスのハウスメーカーです。人口減少などにより国内の住宅関連市場が縮小、成熟していく中で、大きな可能性が見込める海外市場へ事業を展開させています。海外展開を進めるにあたって2008年に国際事業部が発足しており、また、第1次計画(2010年度計画)において、海外事業戦略概要を公表していますので、ポイントとなる点を抽出し以下に紹介します。
・世界的な環境配慮に対する意識の向上を追い風に、当社の持つサスティナブルな街づくり思想や環境技術を、様々な国の文化と、習慣と融合させながら、環境に配慮した街づくり、環境に配慮した住宅づくりを目指します。
・リゾート開発といった方向の不動産投資ビジネスを行うのではなく、住環境創造企業として、国内事業の延長線上にある住宅事業に参入し、現地の住居環境に向上に寄与することを目指します。
・各国で積極的な事業の拡大を行うために、高品質なプラットホームを即座に築くことができる優良なデベロッパー、ホームビルダーのM&Aや提携協力関係の構築を行い、現地に目指した開発住宅の供給に努めます。
また、戦略的事業地域の基本条件として以下の3つを設定し、海外での事業展開を開始しました。
・人口が増加し、安定した住宅需要 やその拡大傾向が顕著である
・対象国、地域の今後の経済的発展が見込まれる
・環境、省エネに対する取り組みに積極的である
(P.94)
 
【NTTのIOWN構想】
NTTは国内首位、世界でも屈指の通信会社です。国内市場が飽和状態にある状況下において、海外での事業展開を進めている企業の一つですが、並行して 新しい市場を創造しようとしています。その根幹をなすものが「IOWN(アイオン)構想」です。IOWN構想とは、従来のインフラの限界を超えてあらゆる情報を活用していくため、ネットワークから端末まで あらゆる場所に光電融合デバイスなどのフォトニクス技術を活用し、「低消費電力」、「大容量・高品質」、「低遅延」を特徴したネットワーク情報処理基盤を実現しようとする構想のこと。 IT化が加速度的に進んでいる現代社会において、発生するデータ量が増加し続けていて、このような情報を処理するのに必要なのがデータセンターです。データセンターにはサーバーやネットワーク機器が設置されていて、その内部にはサーバーを収納するラック、インターネットなど外部と接続できる高速回線、大容量電源、冷却装置などが所狭しと並んでいます。データ量がこのまま増え続けると、データセンターも増設が必要となり、消費電力も増え続けていきます。脱炭素社会を目指し、化石燃料からの脱却を試みている現代社会にとって、これは大きな課題です。そんな現況でNTTが開発した光電融合技術は、コンピューター内の回路同士の処理を電気と光を融合させることで 省電力・低遅延を実現し、上記のデータセンターのような課題を解決してくれると期待されています。まさに世の中が求めている技術といえるでしょう。(P.100)
光電融合技術について、NTTのHPより
 
【高配当株の指数】
「日経連続増配株指数」の主な特徴
・国内証券取引所の全上場銘柄が対象
・実績ベースの増配を原則10年以上続ける銘柄のうち、連続増配の年数上位から70銘柄を上限に採用
・年1回定期見直しを実施、6月末に入れ替え
時価総額ウエート方式で算出(日次終値ベースで算出)、各銘柄のウエート上限は5%
・2010年6月末を起点(10000)として遡及算出
「日経累進株指数」(愛称:しっかりインカム)の主な特徴
・国内証券取引所の全上場銘柄が対象
・実績ベースで減配せず増配か配当維持(累進配当)を10年以上続ける銘柄のうち、日経の予測配当に基づく配当利回りが高い順に30銘柄で構成
・年1回定期見直しを実施、6月末に入れ替え
時価総額ウエート方式で算出(日次終値ベースで算出)、各銘柄のウエート上限は7%
・2010年6月末を起点(10000)として遡及算出
(P.111〜113)
日本経済新聞社が算出・公表している
 
【中期経営計画を読もう】
成長に着目した投資戦略の根底にあるのは「株式投資とは、投資先企業の一部を保有すること」という投資哲学です。投資先企業で働いている人たちが どのような仕事をしているかをイメージすることで、投資の精度を向上させていくことができます。また、多くの企業では、3〜5年程度の中期的な目標を定めた中期経営計画を策定しています。企業が考える成長戦略を確認できる資料ですので、今後の成長性を占う上で参考になります。
例えば、積水ハウスの「第6次中期経営計画2023−2025」では、2025年度の EPS 目標を331.20円としています。また、中期的な平均配当性向を40%以上としており、業績が計画通りに進捗すれば、 EPS 331.20円×40%(配当性向)=132円程度が、2025年度に想定される配当額となります。中期経営計画を見ることで、こういった確認が可能となるのです。(P.124)
積水ハウスの過去の中期経営計画の乖離率は10%未満で推移しており、精度の高さがうかがえる。
 
【現金は暴落時に価値が出る】
定期的に発生する株価の暴落に対処するためには、現金は極めて重要と言えるでしょう。精神安定剤という意味で、現金は株価暴落時において比類がないほど価値が出てくるのです。資産運用によりリターンを得るためには、その大前提として、投資を長く続けていくことが必要です。焦らずとも長く投資を続けていれば、リターンはついてきます。そして、長く続けるためには、現金の価値を過小評価しないことが大切なのです。(P.143)
→現金を確保しておけば、暴落時に優良株を買い出動できるというメリットもある。
 
株主優待が営業となるパターンもある】
食品株における自社製品の贈呈といった自社に関連した製品やサービスの提供は、新しい顧客の開拓(営業)という測面も併せ持っています。企業としても株主優待を実施することに対外的な説明がしやすく、そのような株主優待は廃止される可能性が相対的に低いのではないでしょうか。(P.170)
→PILOTのボールペン贈呈も続きそう

【読書61冊目】新NISAで始める!年間240万円の配当金が入ってくる究極の株式投資 配当太郎

【企業選びの指針】
新NISA を使って、これから配当株投資を始める人であれば、どんな企業の株を買えばいいのか、迷うことも多いと思います。そんな時は、自分の日常や感情に引きつけて考えることが大切です。そのアプローチ法には、次の2つがあります。
考え方①「なければ困る」サービスを提供している企業
自分が生活している上で、「これがないと困るよな」と感じるサービスを提供している業種の中から、トップ企業を選ぶことです。
・銀行がなくなると、生活が不便になる
スマホが使えないと、連絡ができない
・車がないと、移動に支障がある
日常生活や仕事、趣味などで、「絶対にこれが必要だ」と思うようなサービスを提供している企業は、多くの人にとっても必要不可欠であることが多く、潜在的な需要もあるため、そうした企業は着実に利益を上げています。日頃からなじみのあるサービスを提供している企業であれば、その動向や変化に気づきやすいというメリットもあります。
考え方②子供の就職が決まったら、素直に喜べる企業
あなたに大学生の子供がいたとして、「三菱商事に就職が決まったよ」と報告を受けたらどのように反応しますか?「商社なんて、この先どうなるかわからないから、やめておけ」という人はごく少数で、ほとんどの人は、「いい会社に決まったね。おめでとう!」と祝福するのではないでしょうか。それは、 NTTやトヨタ自動車東京海上であっても事情は同じです。誰もが社名を知っているような、日本を代表する大企業に就職が決まれば、「仕事が大変だろうな」と心配することはあっても、「そんな会社は危ない!」と考える人は滅多にいないと思います。就職先というのは、ある意味では、人生を託す企業でもあります。自分の大切な子供の人生を託せないような企業であれば、大事なお金を安心して託すことはできないものです。こうした視点で考えれば、どんな企業の株を買えばいいのか、無理なく答えが出るように思います。(P.42〜45)
 
【増配のパターン】
企業による増配には、大きく分けて3つの種類があります。
①「普通増配」企業の業績が良かった時に株主に還元
②「記念増配」創業何十周年など、企業が節目を迎えた時に株主に還元
③「特別増配」固定資産の売却 など、特別な理由で利益が出た時に株主に還元
一般的に増配という場合は、①の普通増配 のことを指します。増配できるということは、その企業の業績が良かったことを示しており、企業が利益を出し続ける限りは、増配を期待することができます。それが長く続けば、配当金ダルマはグングンと成長することになります。増配する企業には、着実に増配を続ける企業もあれば、業績に応じて凹凸がありながらも増配する企業など、様々なパターンがあります。配当株投資は、最低でも10年は続ける必要のある投資ですから、大事なのは 過去10年前後を振り返ったとき、1株配当がどのくらい増えているか…を見ることによって、その企業の増配力を判断することです。(P.59)
 
【増配による恩恵】
企業が配当金を増配すると、どんな恩恵が得られるのか ?増配がもたらす効果を、簡単なモデルケースで紹介します。現在、1株当たり10円の配当金を出している企業が、毎年1円ずつ増配を続けたとすると、10年後の配当金は2倍の20円になります。この株を1株配10円の時に1万株買って持ち続けていれば、10年後に受け取る配当金は2倍の20万円に増えているということです。この間、企業は毎年1円ずつ増配していますから、最初は10万円だった年間配当金が、翌年は11万円、その次の年には12万円と増えていって、毎年その金額を受け取りながら、10年後には20万円に達していることになります。これが増配の恩恵であり、配当株投資の真骨頂と言えます。新NISA の「成長投資枠」を使えば、得られる配当金は無期限で非課税となるため、総計165万円は丸ごと利益として受け取ることができます。企業による増配を得ることで、新NISAの一番のメリットを存分に生かすことが可能になるのです。(P.60〜61)
 
【持ち株数が多いほど増配の恩恵は増える】
配当株投資を始めた当初は、増配の恩恵を小さく感じる かもしれません。年間3万円の配当金を得られるようになり、仮に10%の増配があったとしても、増加額は3000円です。この金額をどう考えるには、個人差があると思いますが、配当株投資で大事なのは、増配の効果が大きくなるまで、諦めずに株を買って、持ち続けることです。受け取る配当金が大きくなるにつれて、増配の効果も大きくなり、同じ10%の増配でも、配当金が100万円ならば10万円、200万円ならば 20万円になります。この10万円の増配分を自己資金の新規投入だけでまかなおうとすると、配当利回り3%の銘柄でも300万円以上のお金が必要になりますから、企業による増配 がいかに 威力が大きく、いかに魅力的であるか…が理解できると思います。こうした増配の恩恵を享受するためには、持株数を増やしていくことが「マスト」の条件となります。
(P.66〜67)
 
【増配額ではなく増配率で考える】
増配の「小さな金額」に惑わされてしまったのでは、配当株投資の本質を見誤ることになります。大切なのは、増配額ではなく、「増配率」で考えることです。
ここでも、「三菱UFJフィナンシャル・グループ」のケースで、増配率の意味を紹介します。三菱UFJの1株配は、2023年3月期が「32円」で、翌年の2024年3月には 「41円」となっています。増配の威力を理解していなければ、「32円が41円になったところで、大した金額ではないな」と思ってしまうのではないでしょうか?この金額を増配率で計算してみると、実に「28%」という驚異的な数字であることがわかります。「28%」という増配率の凄さは、サラリーマンの年収で考えてみれば、そのリアリティが理解できます。現在の年収が500万円の人が、会社の社長から、「あなたは業績向上に貢献したから、年収を28%アップさせる」と言われたら、翌年の年収は640万円にハネ上がる…ということです。現実的には30%近くも年収が上がる サラリーマンは滅多にいませんから、増配率を自分の生活に落とし込んで考えれば、そのインパクトの大きさがリアルに理解できると思います。(P.69〜70)
 
【取得利回りが上がるとき】
取得利回りが上がるのは、「増配の恩恵を受け続ける」か、「株式市場の受給の関係で株価が下がった時に買う」のどちらかですから、配当金ダルマを大きく育てるためには、淡々と株を買い進めることによって、この2つを上手に取り込んでいくことが大切です。長期的に株を買い続けていくと、株価が大きく下がるような局面に遭遇することになりますから、その時は一段ギアを上げて買うことを意識していれば、配当利回りの恩恵を即座に受けることができます。配当株投資を始めると、「できるだけ株価が安い時に買いたい」という気持ちが芽生えますが、株価が下がるのを待っている間に、企業が増配して、株価がさらに上がってしまう…というケースは意外によくあります。利回りを上げて配当金ダルマを大きく育てるためには、株価の値動きばかりに目を奪われるのではなく、「自分が買える時に買う」→「買って持ち続ける」→「その過程で株価が下がったら、さらに多く買う」…という意識を持つことが大切です。
(P.78〜79)
 
【1株益の伸びに注目する】
配当株投資の対象となるのは、長期的に見て 1株益が増加しており、それに伴って1株配も増加している企業です。新NISA を活用して、配当金を増やしていくためには、連続増配に目を奪われるのではなく、1株益の伸びに注目することが大切です。1株益が増加していなければ、その投資がリスクになる可能性があると考える必要があります。(P.84)
 
【高配当ランキングに注意すべき4つの理由】
たまたまその年だけ特別増配したかも
業績が良ければ 株価が上がり、利回りは下がるはず
特需によりたまたま1株配が上がっただけかも
業績が悪くても無理して増配すれば、高利回りになる
(P.86)
→アステラスや花王が好例。
 
【公共事業のジレンマ】
電力事業 のような公益性の高い業種は、大きく利益を出せば、国や 利用者から電気料金の値下げを迫られ、翌年の利益を圧縮せざるを得ない…という特殊な事情を抱えています。配当金についても同様のことが起こり、業績好調で増配をした場合には、「株主に増配できるほど儲かっているなら、電気料金を下げて利用者に利益を還元するべきだ」という議論が巻き起こって、各方面から圧力をかけられることになります。電力会社の場合は、利益が出るのは電気料金への価格転換に成功しているということですから、利用者の反発を買いやすい構造になっているため、今後も大きく増配するとは考えにくいのです。この先、水道事業が民営化されて上場するようなことがあれば、同じようなジレンマに陥る可能性があります。(P.92)
→鉄道事業も同様の構造がありそう。
 
【自社株買いの効果】
株主還元の方法には、「自社株買い」と「配当」の2つがあります。自社株買いとは、上場企業が過去に発行した株を、自らの資金を使って買い戻すことを指します。企業が自社株買いを実施すると、純利益に対する発行済株式総数(自己株式を除く)が減少するため、1株益の上昇につながります。自己株式とは、企業が保有する自社株のことです。大まかな流れは、「企業が自社株買いをする」→「1株益が上がる」→「PER(株価収益率)が下がる」→「割安感が生まれる」→「株が買われる」→「株価が上がる」というプロセスを経て、 PBRが1倍を超えることになります。1株益が上がれば、企業は配当の原資を増やすことができるため、配当性向の基準を定めている企業であれば、増配が可能になります。これが、自社株買いの効果です。
PBR1倍割れの改善策として、企業が増配を選択するというのは、貯まっているお金を有効に活用できていない状態のため、株主に還元することによって、資本の効率化を図ることを目的としていますから、 PBR1倍割れの企業というのは、株主還元に積極的になりやすいと見ることができます。(P.95〜96)
 
【配当金を増やす3つのエンジン】
エンジン1 企業による増配
エンジン2 配当金からの再投資
エンジン3 給料などからの追加投資
(P.115)
 
【長い目で見れば増配による利益が株価の差を打ち消す】
配当株投資は、「超長期投資」と考えて取り組む必要がありますから、原則的には、上下 10%程度の値動きは、誤差の範囲と考えて買い進める 姿勢が重要になります。限られた資金の中でやりくりすることを考えれば、「少しでも安く買いたい」と思ってしまいますが、その気持ちを乗り越えることが正念場となります。少しくらい高い株価で買ったとしても、配当金ダルマが大きく育った10年後に振り返れば、その利益の大きさが、わずかな株価の違いを吸収してくれるため、それが「誤差の範囲」であったことに気づくことになります。三菱UFJフィナンシャル・グループの株を1株1000円で買っても、1100円で買っても、企業の増配によって配当金が増えていれば、大きな違いはありません。持株数を増やして、増配の恩恵を存分に受けることができれば、目先の10%くらいの株価の違いは、あまり気にしても仕方がない…と考える必要があります。明るい未来を信じて、前を向いて突き進む気持ちを持つことが、正念場を乗り越えるための原動力となります。世界経済と日本経済が堅調であれば、多少の凹凸はあったとしても、企業の業績は伸びていきます。その過程で1株益が上昇して、企業が継続的に株主還元をすれば、市場原理が働くことで、株価は上下に動きつつも、右肩上がりになるものです。「株価が上がるのは、投資先企業が元気な証拠」と考えて、企業を信じ、自分を信じて前を向けば、正念場と向き合う勇気が湧いてくると思います。(P.130〜131)
 
【新NISAと増配株投資は相性抜群】
ポイント①増配の力で、年間 240万円の配当収入は可能
3つのエンジンをフル稼働させて、個人投資家の武器である時間軸を使えば、年間 240万円の配当金という理想郷を手に入れることは、決して夢物語ではなく、実現可能なリアルなチャレンジになります。
ポイント②「新規投資額1200万円」程度で実現が可能
このシミュレーションの1年目から33年目までの「新規投資額」の合計は「804万5512円」ですから、12万円の「核」を作るための投資額400万円と合わせると、総計「1204万5512円」となります。利回りに若干の変動があったとしても、3つのエンジンをフル稼働させれば、新規投資額は1200万円程度で理想郷を手に入れることができます。
ポイント③新NISAを活用すれば投資効率が高まる
新NISAの「成長投資枠」を活用すると、再投資と新規投資の合計が「生涯投資枠」の1200万円に達するまでは非課税の恩恵を受けられるため、配当株投資の投資効率(投資に対する利益率)が格段に高まります。
新NISA によって、恒久的に「20.315%」の税金がかからなくなったメリットは、3つのエンジンのフル稼働を強力にサポートしてくれるだけでなく、自分のライフスタイルに合わせた無理のない「長期投資」が可能になります。
「新NISA」を活用することで、「非課税」の恩恵を受けて、「増配率10%」を実現しながら3つのエンジンをフル回転させれば、個人投資家の最大の武器である時間軸を使うことで、「1200万円」ほどあれば理想郷を手に入れることができる。これが、本書「年間240万円の配当金が入ってくる究極の株式投資」の核心部分と言えます。
(P.135〜136)
 
【増配が期待できる「厳選22銘柄」】
NTT
京セラ
三菱HCキャピタル
ヒューリック
(P.154〜246)
 
【新NISAは5年で使い切れ】
新NISA は、2024年にスタートしたばかりですが、私はこの制度が いつまで継続されるのか、少し懐疑的な目で見ています。非課税保有期間は無期限になっても、この制度を無期限に続けるとは、どこにも明記されていません。18歳未満が利用できる「ジュニアNISA」が、いきなり廃止になったという前例もありますから、悠長に構えていたら、「やっぱり無税ではなく、5年後から10%の課税に変更します」などということが、意外に起こるような気がしています。新NISAには、「少子高齢化で年金を増やせないから、老後の生活は自分で何とかしてくださいね」という国のメッセージが込められていることは、誰もが認識していると思います。国から言われるまでもなく、本当に自分で何とかしなければいけない状況であることは、多くの人が感じているのではないでしょうか。決して無理をする必要はありませんが、もし可能であれば、1200万円の非課税投資枠(成長投資枠)は5年で使い切るくらいの勢いでロケットスタートを切るなど、最大限の工夫をすることが大切です。それが不可能であれば、できるだけ早く第一歩を踏み出すことです。素早く始めれば、個人投資家の一番の武器である時間軸を、その分だけ有効に活用することができます。配当株投資は長期投資を前提としていますから、早くスタートを切ることは、それだけ多くのアドバンテージを生み出すことができるのです。(P.267〜269)

【読書60冊目】得する株をさがせ! 会社四季報公式ガイドブック 会社四季報編集部

四季報の項目】
四季報誌面はブロックごとに 以下の情報が収められています。
●どんな特徴の会社で(①業種、②社名・本社住所等)、それを誰が所有し(⑦株主)誰が経営を任されているか (⑧役員・連結会社)
●短期中期業績はどうか(③記事、④業績数字)、前号 比、会社予想比の利益修正率はどうか(⑤前号比修正矢印・会社予想比マーク)
●配当はいくらか(⑥配当)、安全か(⑨財務)、株式市場はどう見ているか(⑩資本移動・株式推移など⑪株価チャート)、株価は割安か割高か(⑫株価指標)
(P.19)
 
【業界担当記者が業績を独自予想】
四季報が独自予想できるワケ
・約3800社の全上場企業に担当記者が付き、定期的に取材している業界別に担当しているため、同業他社との比較ができる
・会社は業績予想の修正に慎重になる傾向があるが、記者は客観的に判断ができる
・記者が作った予想数字や記事を、複数のベテラン編集者が何度もチェックする
弱気な計画を出す傾向の会社イメージ(期中に上方修正 しやすい)
・原材料や部品などを作っている会社で、儲けすぎると 納入先の目が気になる
・経営トップが経理畑出身で、下方修正の発表を避けたい
・為替は変動が大きく先が読めないため、実勢より慎重にレートを設定している
強気な計画を出す傾向の会社イメージ(期中に下方修正しやすい)
・最終消費財を作っていて、強気の販売目標で社内の士気を高めたい
・経営トップが営業畑出身で、強気な計画を出したがる ・業績が悪化している会社が、裏付けなく利益急回復の計画を出すことも
(P.21)
 
【「四季報」が株式投資で重視される3つの理由】
1.全上場企業をカバーする雑誌は「四季報」だけ!
・紙の雑誌で全上場企業の会社データ、業績予想を掲載するのは「四季報」だけ!
・誰もが知る大企業から時価総額10億円未満の会社まで、1社1取材をしている
2.海外投資家を含め多くの投資家が参考にしている!
・「四季報」の記事や業績予想などのデータは、証券会社や海外投資家などにも販売
・発売から数日で全2000ページ超を読破する個人投資家もいる
3.創刊から80年、時代に合わせて紙面が進化!
・創刊は1936年、80年以上にわたり 企業の変化を追い続けてきた
・会社予想比マーク新設など、利便性向上を継続している!
(P.25)
 
【見出しに注目】
業績欄の記事を一瞬で把握するのに便利なのが、業績の勢いをひと言に凝縮した見出しです。見出しには大きく分けると過去実績との比較、「四季報」前後に掲載した業績予想との比較、会社計画との比較という3つの評価基準があります。
1つめの、会社実績との比較には【大幅増益】や【反発】といった見出しがあります。【大幅増益】は、文字通り 前期と比べて営業利益を大幅に伸びること、【反発】は前期がその前の期に比べて減益となったものの、今季は増益となることを示します。単なる増益、減益という表現だけでなく、できるだけ中期的な業績の推移を見出しでコンパクトに表現できるように工夫しています。
2つ目の「四季報」前後との比較には、【増益幅拡大】や【下振れ】などがあります。今号も四季報予想の営業利益が、3ヶ月前に発売した 前号の予想に対し増えたのか、減ったのかを表しています。会社計画との比較ではなく、あくまで「四季報」の独自予想の前号比増減であることに留意してください。
3つ目の会社計画との比較には【独自増額】などがあります。これらの見出しは、記者が独自の予想をしていて、なおかつ会社計画との差が大きい場合に使っています。
(P.28)
 
【紙の四季報の強み】
紙には一覧性の強みがあります。以前、「雪印メグミルク(2270)を調べようと『四季報』のページを開いたところ、たまたま近くに載っていた 六甲バター(2266)の記事が目に止まり投資したところ、株価が急上昇した」という投資家の方がいました。こうした偶然の出会いは、デジタル版には望めません。紙媒体の「四季報」ならではの強みと言えそうです。「四季報」の読み方に正解はありません。それぞれに工夫して、自分なりの活用法を見つけてください。(P.33)
 
証券コードを覚えておくメリット】
気になる会社の証券コードは覚えておくと何かと便利なものです。「四季報」はコード順に掲載していますし、他の株式投資雑誌もコード順に掲載することがほとんどです。証券コードがわかれば、目次や索引を使うことなく、知りたい会社のページを素早く開けます。「四季報オンライン」でも、証券コードを入力するだけで該当する会社の株価情報や会社概要、関連記事などを簡単に手に入れられます。電話で株式の売買注文などを出す際も有用です。金型メーカーの「鈴木」と、自動車メーカーの「スズキ」は、ともに読みが「すずき」です。「6785の鈴木」、「7269のスズキ」と言い分ければ、間違いなく伝えられます。 株式会社には、会社の前に株式会社がつく前株、後ろにつく後株の2つがありますが、「四季報」では、前株の場合は(株)をつけて表記し、後株は省略しています。前株と後株に大きな意味の違いはありません。ただ、歴史のある大企業が多い東証1部(東証=東京証券取引所)では6割強が後株です。一方、新進気鋭の会社が多い新興市場では前株が多い傾向があります。
(P.44)
 
【利益の源泉となっている事業を見極めるには】
会社を研究する際の基本は、その会社の利益の源泉となっている事業がどの事業かを把握することです 。そのとき便利なのが「四季報」の【連結事業】(単独決算企業は【単独事業】)です。 この欄では、直近決算期時点での主要事業の売上高構成比(全売上高に占める各事業の割合)を記載しています。構成比の後ろにある( )内の数値は、それぞれの事業の売上高営業利益率(各事業の営業利益÷各事業の売上高)を表し、▲印はその事業が赤字であることを示しています。【連結事業】を見れば、その会社の主力事業が何かわかるだけでなく、どの事業が儲かっているのかが一目瞭然です。5年前、10年前、などを時系列で比較したり、ライバルとなる会社と比較したりすれば、その会社の姿を、よりはっきりとつかむことができます。(P.52)
→例 東洋紡(3101)の場合
【連結事業】フィルム・機能樹脂47(9)
フィルム・機能樹脂事業が全体の売上高の47%を占め、営業利益率は9%ということが読み取れる。
 
【売上高÷従業員=会社の生産性】
【従業員】を有効活用するには、「四季報」に記載されている売上高や営業利益を従業員数で割ってみることをおすすめします。1人当たりの売上高や利益を計算でき、人員の効率性を図る指標にすることができます。「四季報」2020年新春号でトヨタの1人当たり売上高を計算してみると、約8100万円でした。「四季報」2015年新春号では約7500万円でしたので、5年間で1人当たりの売上高が600万円程度増え、生産性が向上したことが 読み取れます。自動車メーカー 国内2位のホンダ(7267)で同様に計算すると、約7200万円で、トヨタより1割ほど少ないことがわかります。このように、気になった会社はどんどん計算してみてください。トヨタの経営効率を上回る中堅企業などの、優れた優良企業を見つけることができるかもしれません。(P.60〜61)
 
カストディアン】
カストディアンという証券管理業務に特化した信託銀行が、多くの会社で上位株主として名を連ねています。日本トラスティ・サービス信託銀行日本マスタートラスト信託銀行資産管理サービス信託銀行外資系のステート・ストリート・バンク&トラストなどです。カストディアンは証券の保管や配当の受け取りなどの業務を委託されているに過ぎず、本当の株主は別にいます。多くの場合、真の株主は年金基金投資信託などの機関投資家です。機関投資家は株価の値上がりや配当をしっかり出すことを強く求めます。こうしたカストディアンが大株主に登場している会社は、株価上昇や配当に対するプレッシャーが強いと考えて良いでしょう。
最近では、オーナー経営者への注目も高まっています。創業者やその資産管理会社が筆頭株主の場合、トップダウンで迅速に経営判断をすることが可能になり、急速に業績を拡大することがあります。 SPA(製造小売業)世界 大手で、ユニクロを運営するファーストリテイリング (9983)では、創業者の柳井正会長兼社長が約20%の株式を保有し、筆頭株主になっています。オーナー企業の場合、こうした強みがある 一方、独善的なワンマン経営 に陥るリスクも 孕んでいる点に注意しましょう。
(P.68〜69)
 
ROE/ROAで収益力を測る】
中長期的な投資を考えた場合は、持続的成長ができそうかどうかの確認が大切です。持続的成長性は、収益力と信用力の2つで測れます。収益力は、「四季報」の【指標等】にあるROE自己資本利益率)、 ROA(Return on Assets:総資産利益率)といった効率性指標をチェックしてください。採算性を表す売上高営業利益率を計算してみてもよいでしょう。一方の信用力は、貸借対照表(BS)の重要な数値を掲載した【財務】欄の自己資本比率や、【キャッシュフロー】欄にある営業キャッシュフロー(CF)の増減や正負からわかります。これらは安全性の指標とも言い換えられます。(P.142)
 
自己資本比率で財務の健全性を見る】
資本金は、株主が会社に払い込んだお金です。一方、利益剰余金は過去に稼いだ利益が積み重なったものです。利益剰余金は過去に稼いだ利益の積み重ねですから、期間利益で赤字が続けば、利益剰余金は減少し、結果として自己資本も少なくなり、場合によっては マイナスになってしまいます。自己資本がマイナスになった状態は債務超過といい、会社の資産よりも負債の方が多い状態です。2期連続で債務超過になると原則、上場廃止となります。ですから、会社の安全性を見るためには、自己資本が十分にあるかどうかを確認することが重要なのです。それを知るために自己資本比率という指標を使うことができます。(P.148)
 
【取引先への影響も見る】
任天堂は 2017年発売のゲーム機「スイッチ」が大ヒットとなり、業績を伸ばしました。注目したいのは、主な取引先を示す【仕入先】【販売先】などの情報です。【仕入先】にはゲーム機の機構部品を手掛けるミネベアミツミ(6479)、組み立てを行うホシデン(6804)が載っています。ホシデンは任天堂向け売上高が6割を占める会社です。2018年3月期には大幅に業績を伸ばすなどスイッチ効果を享受したことが伺えます。任天堂が【販売先】となっている会社を探すと、ゲーム用ミドルウェア 大手のシリコンスタジオ(3907)、半導体 ファブレスメーカーのメガチップス(6875)、ゲーム連動サービスなどを任天堂と共同開発するはてな(3930)などがあります。任天堂からヒット商品が出た場合、こうした会社も 業績を伸ばすことが予想されます。(P.192)
→比較会社欄で、2番手3番手企業の動向もチェックしておくことも重要。業界全体が盛り上がるような材料がある場合、そうした企業も恩恵を受ける可能性がある。
 
【業界のトップ企業に注目する】
なぜ業界内の地位や世界シェアでトップ企業であることが重要なのでしょう。それには2つの理由があります。
1つは業界のトップ企業は新聞や雑誌などのネタとして扱われる機会が多いため、株式市場でも比較的人気が高いということです。2つ目は、こうした会社は他社にはない強力な値上げという“武器”を持っているからです。先陣を切っての値上げはトップ企業にしかできません。逆に2番手、3番手企業が値上げした場合、トップシェアを握っている会社は値段を据え置いたまま体力勝負の持久戦に持ち込み、下位企業を叩きのめすこともできるでしょう。値上げは消費者目線では好ましいことではありませんが、投資家目線ではポジティブに受け止められることが多いようです。それは、値上げという切り札によって売上高を維持したり、ときには利益の急増をもたらしたりするからです。こうした例は食品メーカーに多く見られます。(P.230)

【読書59冊目】図解いちばんやさしく丁寧に書いた青色申告の本 今村正監修

【確定申告とは】
どんな内容であれ、一定の所得を得た人は、それに見合った税金(主に所得税)を納めなければなりません。この税金の額を決めるために行うのが確定申告です。税金の額は、その人の1年間の収入や売上(得たお金の総額)から、その収入や売上を得るためにかかったお金(必要経費など)を引いた、所得によって決まります。(P.12)
個人事業主の場合、年間の所得が48万円以下であれば確定申告の必要はない。
ただし確定申告をしなくていい所得額だったとしても、所得控除があったり源泉徴収の対象であったりする場合には確定申告をすることで、納めすぎた税金が還付される可能性もある。
 
【2種類の確定申告】
確定申告には、「青色申告」と「白色申告」の2種類があります。会社をつくらず、個人で仕事をする人(個人事業主)は、どちらかを選択できます。2つの大きな違いは、事業にかかわるお金の出入りを記録する「帳簿」をつける義務があるかどうかでしたが、現在は白色申告の場合もすべて記帳が義務づけられています。ただし、青色申告の帳簿つけは「複式簿記」などややハードルが高いものです。
その代わりに、青色申告ではさまざまな「税金が安くなる特典」を受けられます。その分、使えるお金が増えるのです。「個人事業主青色申告をするべき」といわれるのはこのためです。(P.12)
 
青色申告は正確な帳簿の記帳が義務】
青色申告は、国が認めた、税金を軽くできる制度です。税務署は、個々の収入や取引内容を把握するのが難しいため、個人が正しくお金の出入りを記録し、正しい申告と納税をすれば、税金が安くなるようにしているのです。青色申告では、正しく税金を計算しているか確認できるよう、「帳簿」の記帳が義務づけられます。帳簿とは、その事業にかかわるお金のやりとりを「簿記」という一定のルールにしたがって記録するものです。帳簿は、お金のやりとりの内容に応じて、数種類が必要になります(事業内容によって必要になる帳簿は異なる)。また、当然ながら、帳簿には正確さが求められます。
以前は簿記の知識を身につけたうえで、手書きで帳簿をつけていました。複数の帳簿があれば、それだけ書き写したり、計算したりする手間がかかったのです。そのため、青色申告は難しい、面倒くさいと敬遠する人も多くいました。しかし、現代はパソコン時代。専用の会計ソフトを使えば、簿記の知識が必要な部分や面倒な計算は、自動的にソフトがしてくれます。帳簿が複数あっても、それぞれに自動転記されるため、手間はかかりません。
また、白色申告でも所得金額にかかわらず、原則として帳簿が必要です。青色申告より簡便なものでよいのですが、会計ソフトを使うなら、そう手間は変わりません。どのみち帳簿が必要なら、節税効果の高い青色申告を選ぶべきでしょう。(P.18)
 
【帳簿のつけ方で控除額が変わる】
青色申告特別控除」は、青色申告をしているだけで、所得金額から無条件で10万円または55万円(65万円)を引けるというものです。例えば、年間700万円の所得がある場合、白色申告で700万円を基礎として所得税を計算しますが、55万円の青色申告特別控除を受けられる人なら、700万円−55万円=645万円により税金の計算が行われます。それだけ 税金が安くなる、つまり 残るお金が増えることになります。
青色申告特別控除の金額の違いは 帳簿の付け方によります。家計簿程度の簡単な帳簿「簡易簿記」「現金式簡易簿記」なら10万円の控除額。取引やお金の動きを 「勘定科目」 や「仕訳」により詳細に記帳する「複式簿記」なら 55万円の控除額が認められます。もっとも会計ソフトを利用すれば、複式簿記も恐れる必要はありません。(P.26)
 
【白色申告では推計課税が行われるケースも】
青色申告がいくら節税できると言っても、帳簿をつけるのは面倒 」、そう考えて、白色申告で済ませている人もいるでしょう。白色申告の人にも 帳簿付けの義務ありますが、白色申告の帳簿は 簡便なもので済みます。一方、青色申告では届け出により必要な帳簿が決められており、より詳細な記帳が求められます。申告内容におかしな点がある場合、白色申告では税務署の判断で「推計課税」が行われることがあります。同業の事業者などと 比較して、適切と思われる税額を課すのです。青色申告をしていれば、帳簿を調査してからでなければ、税額を修正されることはありません。申告内容自体も、白色申告より青色申告の方が疑われることは少ないでしょう。(P.36)
 
青色申告には届出が必要】
メリットがたくさんあるから今日から青色申告にしようと思っても、勝手に青色申告にはできません。まずは 税務署に届け出が必要になります。まず、個人事業を始める時には、通常 「個人事業の開業・廃業等届 出書」を提出します。青色申告を始める場合は 「所得税青色申告承認申請書」が必要です。開業時 に、この2つの書類を合わせて提出することが多いようです。また、家族を青色事業専従者にして給与を支払う場合は、「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要です。初めて 従業員に給与を払うなら「給与支払い事務所等の開設届出書」なども必要です。(P.42)
 
青色申告の申請期限】
「今年から青色申告します!」と税務署に伝える「所得税青色申告承認申請書」で重要なのは 提出期限です。1日でも送れると1年待たなければならなくなります。提出期限は、新規に事業を始めた場合「開業日から2ヶ月以内」、開業日が1月1日から15日か、白色申告から切り替える人は「青色申告をしたい年の3月15日」までです。「令和6年分の確定申告は 白色から青色申告へ」と 考える人は、令和6年3月15日が締め切りです。申請書は自宅の住所を管轄する税務署に提出します。自宅と事業所で管轄の事業所が異なり、事業所を管轄する税務署を選ぶ場合は、「所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書」 を、自宅と事業所を管轄する税務署 双方に提出します。申請内容に問題がなければ、税務署から連絡はありません。
(P.44)
 
【現金式簡易簿記】
帳簿付けは 青色申告する必須条件です。帳簿をつけるからこそ、青色申告特別控除などのメリットを得られるのです。青色申告に必要とされる帳簿の付け方には2種類、選べるコースは3種類あります。1つは 「簡易簿記」です。日々の取引(出金・入金・掛け売り・掛け買いなど)を、その都度、それぞれの帳簿に記入していくだけです。さらに「現金式簡易簿記」を選べば 、つけるのは現金の手入れは明らかにする 現金出納帳だけで済みます。ただし、事業所得が300万円以下の人に限られます。いずれも、青色申告特別控除額は10万円と低くなります。もう1つの帳簿の付け方は「複式簿記」です 。お金の流れを 借方・貸方という二方向から捉える 「仕訳」という作業してから 帳簿に記入します。 この仕訳により、決算時に財政状況が一目でわかる「貸借対照表」という書類が作成できます。簡易簿記 より大変そうですが、会計ソフトの登場により、実際の帳簿付けの手間は、どちらもそう 変わらなくなりました。(P.52)
 
【現金式簡易簿記は現金出納帳のみ】
どうしても複式簿記に踏み切れない人は、簡易簿記からトライしてみましょう。簡易簿記では仕分けの必要がないため、超越は家計簿や小遣い帳と同じ感覚でつけることができます。ただし、事業では現金の入出金だけでなく、掛け売り・掛け買いや 固定資産が生じるため、最低でも5種類の帳簿が必要になります。「現金出納帳 」「売掛帳」「買掛帳」「経費帳」「固定資産台帳」です。その他必要に応じて 「預金出納帳」「手形記入帳」「債権債務記入帳」などを使います。青色申告特別控除は10万円と少ないですが、その他の青色申告のメリットは複式簿記と同じように受けられます。帳簿は 簡単に済ませたい、でも青色申告のメリットを得たいという人に向いています。現金式簡易簿記なら、帳簿は現金出納帳だけで済みます。売上などで現金が入ってきたら 記帳し、仕入れや 経費などでお金が出ていったら、そのつど記帳すれば良いのです。売掛金や買掛金も、入金、出金があるまでは 記帳 しません。ちなみに、現金が動いた時に記帳する方法 を「現金主義」と言います(通常の簿記では、取引が生じた時に記帳する「発生主義」。)ただし、300万円以下の事業所得の人が対象です。また、貸し倒れ引当金などが必要経費にならず、青色申告のメリットは少なくなります。(P.54)
→現金式簡易簿記を選択するには、「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」が必要。
 
【会計ソフトの例】
MJSかんたん!青色申告
やよいの青色申告
みんなの青色申告
青色申告らくだ
freee会計
クラウド確定申告
(P.65)
 
【プライベートの口座と分ける】
もし、プライベートのお金を使う口座と、事業用にお金を動かす 口座が同じなら、すぐに 事業用の口座を作り、仕事上のお金のやり取りは、全て その口座に集中させましょう。プライベートのお金が一緒になっていると、いちいち 振り分ける作業をしなければならず、とても 煩雑で間違いも 起こりやすくなります。日々の生活費は、月に一度 まとめて 事業用の口座から引き出し、プライベートの口座に移してから使うようにします。預金出納帳には、銀行口座を通したお金の入出金を記録します。事業専用の口座なら、預金出納帳の入力はその転記だけで、正しく行うことができます。(P.70)
 
【課税事業者】
消費税は当店 商品の売り上げなどにかかる税金です 。税率は10% (国税 8% + 地方税 2.2%)です。①酒類・外食を除く飲食料品、②週2回以上発行の新聞(定期購読契約)には8%の軽減税率(国税 6.24% + 地方税 1.76%)が適用されます。日々の取引では、この消費税を支払ったり 受け取ったりしています。原則として、受け取った 消費税と支払った消費税を相殺して、税務署に税額を申告、消費税を納めます。しかし、前々年(または前年1月から6月)の売上(消費税のかかる課税売上高)が1000万円以下の事業者は「免税事業者」として、消費税の申告納税を免除されます。申告 納税義務がある事業者を「課税事業者」と言います。ただし 売り上げによらず自らの希望で課税事業者になることもできます。(P.132)
 
【交通費も必要経費】
仕事のために、電車やバス、タクシー など、様々な交通機関を利用するでしょう。これらの交通費は必要経費です。「旅費交通費」という勘定科目でまとめます。短い移動の電車賃やバス代など、領収書のない交通費は、「仕事で使った」ことを証明するために、日付、利用区間、金額、訪問先をはっきり 記録しておきます。交通費は毎日のように発生するでしょうから、その都度帳簿に入力するのは面倒です。そこで交通費は一定期間(1週間、1ヶ月など)単位で交通費精算書につけておき、一定期間ごとに 事業のお金と精算することにすれば、帳簿入力の回数を減らせます。最近では、 SuicaPASMO といった 交通系 IC カードなどで、交通費を支払うことも多いでしょう。こうしたカードは、駅の売店などで、交通費以外に使える場合もあるため、交通費との区別が必要です。自動販売機で使用明細をプリントアウトして、振り分けるようにしましょう。(P.148)
 
e-Tax
これまでの確定申告書の提出方法は、税務署に出向くか 郵送でした。しかし、国税の電子申告 納税システム 「e-Tax」 を利用すれば、パソコンやスマホで申告を済ませられます。画面上で入力するため、修正も簡単です。計算が必要なところは、自動的に行われるため、計算間違いもありません。さらに 複式簿記とともに「e-Tax」を行うことで、青色申告特別控除が65万円となるメリットもあります。申告書はインターネットを通じて送信します。さらに、納税も、ネットバンキングなどにより パソコン上で行うことができます。(P.188)

【読書58冊目】金利を見れば投資はうまくいく 堀井正孝

政策金利とは】
政策金利とは、よく聞く「利上げ、利下げ」の「利」にあたるものです。
米国景気は2009年6月ころから成長を続けてきた一方、その景気拡大が長期化・成熟化した結果、企業の人手不足が深刻化し、輸送能力が限界に近づくなど、企業活動を阻害するリスク要因が現れ始めました。長期金利は、2018年11月ころから低下し始めます。これは、金利が景気の変化、ここでは景気減速の兆しを感じだった動きの1つです。
さらに、2019年3月には、11年ぶりに政策金利短期金利)が長期金利を上回りました。これは、長短金利差の逆転という現象で(詳細は第3章)、景気の減速が止まらず、近い将来景気後退局面が来るかもしれない、という重要なサインなのです。(P.24)
金利は炭鉱のカナリア
 
【景気の変化に最初に反応するのは金利
リーマンショック前後の米国の金利・株式・商品市場の推移を見てみましょう。シャドーは景気後退局面です。
・景気後退局面に突入する前、高値をつけて下落に転じた日
金利:2007年6月12日/株式:2007年10月9日/商品:2008年7月2日
・景気回復局面(景気後退局面の終了)を迎える時、安値をつけて上昇に転じた日
金利:2008年12月30日/株式:2009年3月2日/商品:2009年3月9日
どちらの局面でも真っ先に景気の変化に反応したのは「金利」です。
もし、この金利動向が何らかの「警報」かもしれないとわかっていれば、好景気まっただ中にいても、2006年頃からの住宅価格の陰りがもっと深刻な事態として目に映ったかもしれませんし、サブプライムローン問題が世界景気にもたらす影響の甚大さにもっと早く気づけたかもしれません。(P.34〜35)
 
【景気の気は気持ちの気】
景気の「気」は気持ちの「気」です。ようは、センチメント (市場心理)が契機に現れます。例えば、本屋の経済コーナーで 新刊 本のタイトルを見てみてください。「デフレ」「崩壊」等、経済にとってマイナスとなる言葉が目立つなら、景気が悪いはずです。 「FX 」「割安(大化け)株」等投資の本が並び、投資意欲の高まりを感じるなら、景気が回復し始めていると思われます。だんだんと、「日経平均4万円」等、景気を楽観視する言葉があふれ始めたら景気はピークです。そして「撤退」等で景気減速を感じ、いずれ 「デフレ」「崩壊」等のタイトルに戻ります。本のタイトルから景気を感じることができるのです。金利は、より正確にセンチメント を表します。金利動向から今の景気を把握すれば、きっと投資での大きな失敗を回避できるはずです。(P.42〜43)
 
【ISM製造景況指数】
ISM 製造業景況指数とは、 ISM (全米供給管理協会)が発表する 製造業の景況感を示す指標の1つで、米国の主要指標の中で最も発表が早く(当月分を翌月第1営業日に発表)、景気変換の先行き指標として注目されています。 ISM製造業景況指数の推移は、米国景気の良し悪しを表し、指数 50を基準として、50を上回ると景気拡大、50を下回ると景気後退を意味します。簡単に言えば、指数が50より上の場合は景気が良いと感じる人が多く、50より下の場合は景気が悪いと感じる人が多いということです。(P.58〜59)
 
【景気の3つのサイクル】
信用サイクル
景気と企業の信用力(財務面から見た健全性)の関係を表します。概ね10年のサイクルで、「調達金利の低下(景気上向き)→借入拡大=信用悪化→調達金利の上昇(景気下向き)→借入縮小=信用回復」を繰り返します。
金融政策サイクル
景気と金融政策の関係を表します。概ね5年のサイクルで、「景気回復→金融引き締め(利上げ)→景気減速→金融緩和(利下げ)」を繰り返します。景気が良い時には、株の配当金が増えた、ボーナスが増えた、ローン金利が上がったなどと感じるはずです。しかし、良い時期はずっとは続かず悪い時期が訪れるのが世の常です。私たちが一番身近に感じる景気の良し悪しやその移り変わりを表すのが金融政策サイクルと言えます。
在庫サイクル
景気と生産(出荷)・在庫の関係を表します。概ね2.5年のサイクルで、「売行き好調での在庫の減少(景気回復)→生産増による在庫の増加→売行き不振による在庫の増加(景気減速)→生産減による在庫の減少」を繰り返します。この在庫の増減は、食品や医療品など日常生活の買い物で多少は経験しているので、イメージが沸きやすいはずです。商品が人気で品薄になると、生産を拡大します。人気が恐れると売れ行き不振で在庫は残り、生産縮小やセールで在庫が減るという流れです。(P.62〜64)
→これらの景気サイクルは米国から始まる。米国の動向に敏感になっておくことは、これからの投資環境を読み解くことに繋がる。
 
【利上げ・利下げ】
金融政策とは、中央銀行が、景気を安定的に拡大させるため、政策金利を変更し、市中に出回るお金の量( 通貨供給量)を調節することです。中央銀行は、景気がいい時には、政策金利を上げて通貨供給量を減らし、景気が悪い時には、政策金利を下げて通貨供給量を増やします。言い換えれば、金利を高くして、お金を借りる人を減らしたり、金利を低くして、お金を借りる人を増やしたりするのです。この政策金利を引き上げることを「利上げ(金融引き締め)」、引き下げることを「利下げ(金融緩和)」と言います。つまり、政策金利は、金融政策の影響を大きく 受けます。(P.49)
→以前は公定歩合と言われていた。短期金利といえば、この政策金利を指す。
 
長期金利とは】
短期金利が、期間を1年未満とするのに対し、長期金利とは、一般的には期間が1年以上の金融資産の金利をいい、10年国債利回りは、長期金利の指標の1つです。債券とは、国や企業が、期間や利率を決めて、一般投資家から資金調達をするために発行するものです。そして、10年国債とは、国が期間10年で資金調達をするために支払う利率を決めて発行する債券のことです。(P.51)
 
長期金利短期金利に先行】
長期金利は景気の変化に敏感で、素直に反応します。春に景気が回復し始めると資金需要が高まるため、長期金利は上昇し、逆に秋に景気が減速し始めると資金需要は減退するため、長期金利は低下します。景気の変化と並走する長期金利は、景気の変化は 見極めるまで動かない 短期金利に対し、先行して動くことになります。経験的には、金融政策の様子見 期間は1年程度であることが多く、金利の動きにも1年程度のタイムラグが生じると考えられます。まさに 長期金利は、景気の今を表す「バロメーター」と言えるでしょう。(P.72)
 
長短金利差とは、文字通り2つの金利の差で、長期金利から短期金利をマイナスして求めます。通常、長期金利短期金利よりも高く、ほとんどの期間はプラスで推移します。(P.73)
長期金利短期金利に先行して動くため、長短金利差もそれに伴い変動する。差が大きいときは景気拡大、差が小さい、あるいはマイナスになると景気後退。
 
【長短金利差から読み取る景気後退】
長短金利差がボトム(最下値)をつけると、景気後退局面が訪れる、 ISM 製造業景況指数がボトムをつけています。さらに、過去のデータから、長短金利差と ISM製造業景況指数の関係には、注目すべき具体的数値が現れます。
見逃すな、1%と0%割れ
①長短金利差 の1%割れは、 ISM 製造業を提供 指数の50 割れを懸念すべき。
②長短金利差 の0%割れは、景気後退局面入りの可能性大、1年後に要注意。
景気後退局面を予測したいなら、長短金利差の動向を置くのが有効な手段の一つです。(P.87)
 
スタグフレーション(Stagflation)とは】
不況や景気停滞を意味する「スタグネーション(Stagnation)」と「インフレーション(Inflation)」を組み合わせた言葉で、景気停滞にもかかわらずん物価の上昇(インフレ)が続く現象を指します。通常は、景気が停滞すると、所得の減少や商品力の限界から、物の値段が下がるはずですが、原材料価格が上昇している時は、景気が停滞しても物の値段が上がることがあるのです。例えば、不況で給料や所得は上がらないのに、原材料価格の上昇を理由に、光熱費(電気代、ガス代)やガソリン代が上がり続ける状態です。
(P.178)