【ビジネスモデルとは】
「ビジネスモデル」とは、その駅馬車や鉄道「事業」を構成する全ての要素やつながりを指すものだと思っています。「誰に対してどんな価値を、何をどこから調達・創造して提供し、どう対価を得るのか」とも言えます。(P.45)
【イノベーションのためにはビジネスモデルの学習が必要】
2002年、ハーバード・ビジネス・スクールのヘンリー・チェスブロウとリチャード・ローゼンブルームは
「技術だけではイノベーションが育たない」
「イノベーション実現のためには適切なビジネスモデル調査と学習が必要だ」(P.64)
→ビジネスモデルとは、イノベーション実現に向けた乗り物である、という考え方。
【三井財閥繁栄のメソッド】
三井高利に始まるこの300年超の繁栄は、1つの革新によってもたらされ維持されたのではありませんでした。
・顧客を富裕層から中間層にも広げた
・売り方や価格体系を簡素なものにし、提供価値を高めてコスト化した
・外部化していた縫製工程を一部、内部化した
・商品タイプごとの担当制を敷き、スタッフの専門性を高めると同時に早期育成を可能にした
・両替商を営み公金為替を手掛けることで、低コストでの資金・反物調達が可能になった
・多事業・組織を統括管理する持ち株組織を作った
(P.79〜80)
【計画的陳腐化】
ファッション化とはつまり、毎年の流行りで新しいものを買う、ということです。GM は毎年、商品をモデルチェンジしては大量の広告宣伝を打ち、消費者の手元にある車を「時代遅れ」にする、計画的陳腐化というマーケティング手法を取り入れました。そしてそれを実現するために、開発・生産方式、広告宣伝・販売方式、自社の組織を大きく変えていきました。
開発ではスタイル担当部門を創設し、エンジニアではなくデザイナーが車の外形デザインを担うように変えました。生産はフォードのように車種別の「専用機械」「専用部品」でなく、車種共通の 「汎用機械」「共通部品」を用いることで、多品種の生産、そして頻繁なモデルチェンジに耐えられるようにしました。
販売では、「中古車下取り」や「オートローン(割賦販売)」(フォードは「消費者を借金漬けにする行為」と嫌った)を導入して、消費者が新しい車に容易に買い換えられるようにしました。(P.95〜96)
【替え刃モデル】
本体を安く売り、その後の消耗品やサービスで長く(大きく)とし 稼ぐ この「替刃モデル」は、後に多くの商品で採用されることになります。
・インクジェット/レーザープリンタとインク/トナー(HP)
・携帯電話・スマートフォンと通話・データ通信量
・電動歯ブラシと替えヘッド(ブラウン)
・家庭用ゲーム機とゲームソフト(任天堂)
・コーヒーマシーンとコーヒーポット(ネスレ)
(P.102)
【従量課金モデル】
ゼロックスは、全く新しいリース方式「従量制課金モデル」を考案します。基本料金は月95ドルで、月の複写枚数が2000枚までは 無料、それを超える分については1枚あたり4セントを徴収する、というものです。
月の複写枚数が2000枚(毎日 60から70枚)であれば、ユーザーにとって 1枚あたりの複写 コストは4.75セントと、毎日1万枚であれば 4.15セントとであり、これは湿式複写機に比べて十分、対抗できる価格でした。これによってゼロックスは複写機でなく、複写サービスを提供する企業に変わったのです。(P.112)
→一定量までは通話料無料、というのもこのモデル。
【在庫回転率を高める流通センター】
フォルマートの躍進を支えたのは、多くの店舗を結ぶ 独自の流通センターでした。1970年に最初のセンターを開設し、1986年には8カ所合計 60万平方メートルに達しました。1 センターは半径240〜480km 内にある100〜175 店舗をカバーし、店舗はほとんど全ての商品を、どんな 少量でも、発注の48時間後には受け取れるようになりました。
これなら最低、売上2日分の在庫が店舗にあればいいので、在庫を店舗に山積みにしなくても、回ります。 Kマートなどに比べて店が田舎(小都市)にあって、店舗あたりの売上高が小さくとも、在庫回転率を高めることができましたし、返品や廃棄を格段に少なくすることができるようになりました。ウォルマートは、「大中都市立地」が前提だった ディスカウントストアのビジネスモデルを、「小都市立地」でも儲かるものに変えたのです。(P.138〜139)
→ニトリの物流センターに近い。
【Amazonが成し遂げた5つの革新】
創業から20年、リアル書店のナンバーワン、バーンズ&ノーブルの挑戦も退け、 Amazonの2013年の年間売上高は745億ドルに達しました。しかしその道のりは、唯一無二のプレイヤーであり続けるための戦い でもありました。海外への展開、本から他のカテゴリーへの拡大、書籍の電子化の促進、クラウドサービスへの進出。そして、それらを実現するためのさらなる物流 IT への巨額の投資…。
結果としてベゾスは、アマゾンを舞台に5つのビジネスモデル革新を実現してきました。
①直販EC:書籍だけでなく 玩具、音楽、ビデオ、家電などの総合型の直販ECサイトをITと物流力で成功させた。
③有料会員:当日配送 無料などの「Amazonプライム」の導入に成功。10億ドル近い収益を生み出している。
【無料を収益につなげる】
ネットマガジンWIREDの編集長だったクリス・アンダーソンが「ロングテール」(2006) に続いて書いた「フリー」(2009)は、無料という「値段」のインパクトと、それを軸に何で収益を上げ得るのかを洞察したものでした。
それらは、①内部補助型、②第三者補助型、③一部利用者負担型、④ボランティア型に分類できます。いくつか例を挙げましょう。
①来店を促すために街頭でティッシュをタダで配る(多数)
②配送料をタダにして売上増で儲ける(Amazon)
②コンテンツやサービスはタダにしてその広告で儲ける(民放、Google)
③閲覧側はタダにして作成側のソフトで儲ける(Adobe PDF)
③買い手側はタダにして売り手側への手数料で儲ける(クレジットカード、PayPal)
③ゲーム自体はタダにしてアイテム課金で儲ける(グリー、LINE)
(P.220〜221)
→理科実験教室を無料にするのは①にあたる。
【オープン・イノベーション】
「従来の自社中心のクローズド・イノベーションから、他者を幅広く巻き込む オープン・イノベーションへの転換」は、ビジネスモデル・イノベーションの中でも最大級のヒットコンセプトと言えるでしょう。日本企業も例外ではありません。味の素は2012年に入って、東レ、ブリヂストン、花王との提携を発表しました。東レとは植物原料からナイロンを作る共同研究、ブリヂストンとは植物が由来の合成ゴムの共同開発、花王 とは健康診断による生活習慣病予防などの共同事業のため。全てアミノ酸絡みです。
味の素はここ数年、自社のアミノ酸を中核とするコア技術を世に開示し、提携・共同開発することで、新しい価値創造に取り組んでいます。保有技術の産業化のために、オープン・イノベーションに舵を切ったのです。(P.268〜269)
【知財による参入障壁の構築】
・蒸気機関の開発に失敗し妻をなくし 2億円の借金を抱えた37歳のジェームズ・ワット(1736〜1819)を救ったのは、当時 イギリスでようやく制度化された特許(913号)だった
・タイガーウッズが2000年に驚異的な成績を残せたのは、新聞発のブリヂストン製ボールのおかげ。市場シェアトップのタイトリストは追随し大成功したが知財に引っかかり、ブリヂストンに1.5億ドルを支払ったと言われる
・Facebook はその知財戦略において競合よりはるかに優れている。ドメイン(Facebook . com )を20万ドルで買い、「ニュースフィード」「ソーシャル・タイムライン」などの機能に特許申請し、競合だったフレンドスターから4000万ドルで主要特許を買い取った
(P.292〜293)
→知財は強力な参入障壁をつくる手段となり得る。
【基本的なビジネスモデル一覧】
1990年頃までに、基本的なビジネスモデルのほとんどは、すでに確立されていたのです。
「儲け方(収益モデル)」としての替刃モデル、広告モデル、従量制課金モデル、プラットフォーム・モデル
「売り方」「作り方」の両方にまたがるSPA モデル
「決済・資金調達方法」としての国際決済・為替ネットワーク、トラベラーズ・チェック、クレジットカード、勧進帳、マイクロ・クレジット
【5つの発見力】
①関連づける力:異分野から生じた、一見無関係に思える疑問や問題、アイディアをうまく結びつける力 ②質問力:前提を覆そうとしたり、正反対の方向に振ったりすることでモノゴトの探求につながる質問をする力
③観察力:一般的な現象や潜在顧客の行動を詳しく調べることで、非凡なビジネスアイデアを生み出す力 ④実験力:学習のためには失敗しても構わないと考え、インタラクティブの実験を設計して、予想外の反応を起こす力
⑤ネットワーク力:自分の知識の幅を広げるために、自分とは異なるアイディアや視点の持ち主たちに会う力(P.357)
→クレイトン・クリステンセンらの調査に基づく、創造性あふれるビジネス・リーダーの特長
【ビジネスは誰のためにある?】
Amazon のベゾスは尋ねられても「競合」の名前を決して挙げません。それは彼の掲げる「顧客中心主義」に反するというのです。
「メディアに対して最大の競合他社の名前を挙げる。これは 競争相手中心であることの明らかな兆候です。競合の一挙一動にじっと目を凝らし、それがうまくいけば、迅速に真似をする。この戦略はある意味 難しい。だが、誰かの後ろについていくのは、顧客ではなく競争相手が中心にいるということです」
ベゾスが目指すものは、競合の打破でも真似でもなく、顧客を基点とした新しいビジネスを創造であり、新しいやり方の発明なのです。ECはもちろん、 AWS も電子書籍&Kindle端末も、配送無料 サービスもそれだからこそ生まれたのです。(P.373)
→競合に勝つためではなく、新しい市場を、そして未来を創造するためにビジネスはある。
【競争力は人材にあり】
村田製作所の最大の強みは その技術力にあります。扱っているのは 競合他社が模倣しづらい化学プロセス品で、技術開発に多くの資源を投じ続けています。主要商品では世界シェアの35〜60% を握り、圧倒的なNo.1プレイヤーの座を確保しています。
しかし不沈の激しい この電子部品業界でその業績を維持できている理由は、やはりその「意思決定スピード」にあるのです。取引先の無理難題に、商品担当の30代の係長が即断します。主要商品ごとに「若き意思決定者」が定められており、その数は 通信分野だけで100人に上ります。彼・彼女らに与えられた権限は強大で、商品の詳細仕様、開発スケジュール、量産時期と数量、価格と、ほぼ全てにわたります。
(中略)
この100人の「若き意思決定者」たちは、ただ 選ばれたわけではありません。村田製作所が組織として10年をかけ育成した「意思決定のプロ 」なのです。まずは各部門で活躍しコミュニケーション力に長けた若者を候補者として選び、数年から10年かけて複数の部門を経験させていきます。 開発、製造 、企画と。その中から適性を判断してようやく「意思決定者」として指名します。社内外の最先端技術を理解し、語学・コミュニケーション力を備えた人材は、一朝一夕では生み出せません。ニッチな技術領域であれば なおさらですし、業界外からの調達も難しい。だから競合他社も、容易には追いつけないのです。(P.407〜408)
→競争力は人材にあり。塾業界における参入障壁は何かをずっと考えていたが、やはり商品たる講師の指導レベルをおいて他に無さそうだ。