ねこみんの投資生活

ふつうの塾講師が適応障害をきっかけに投資を勉強していくブログです

【読書21冊目】投資家の思考法 奥野一成

【利益は問題解決の対価】
お金は問題解決してくれた人や企業に集まります。難しい問題であればあるほど、解決できれば付加価値が高まります。
顧客が抱えた問題を大きく解決できる企業の利益率が高いのは当然なのです。日本人は利益率の高い企業を「儲けすぎ」などと羨み半分やっかみ半分で批判するきらいがありますが、そんなことは気にかける必要はありません。キーエンスやラショナルのように持続的に高い利益率を誇る企業は、顧客や社会の問題を大きく解決している偉大な企業なのです。(P.29)
→企業は、従業員に給料を払うために存在しているのではなく、人や社会の問題解決をするために存在している。利益はその対価。
 
【意味的価値に時代はシフトしている】
モノがあふれる現在の先進国では、顧客が抱えた問題が「機能」という具体的かつ画一的なものから「意味」という抽象的かつ多様なものに移っているのです。
このように機能的価値が満たされた先進国において、顧客に意味的価値を提供することは簡単なことではありません。なぜなら顧客自身が自らのニーズを把握していないことが多いからです。
このような意味的価値の世界では、顧客の問題は「解決」する前にまず「発見」しなければなりません。顧客自身も気づいていない問題を発見しようというのですから、非常に困難かつ複雑なプロセスです。顧客の問題を発見し、解決するには、自分の仕事や顧客のビジネスモデル、属する産業の構造を熟知しなければなりません。その第一歩は、顧客を観察し、顧客について知ることです。先述のキーエンス、ラショナルをはじめ、先進国で成功している高収益企業の多くが顧客との直接的な接点を重視するダイレクトセールスモデルを採っていることは決して偶然ではないのです。(P.37)
 
【お金を健全に増やす2つの方法】
「お金はありがとうのしるし」「利益は問題解決の対価」という、「お金の本質」を考えたとき、お金に困らない2つの方法が論理的に導かれます。
①自己投資:顧客・社会が抱えた問題を発見・解決できるビジネスパーソンになり、自分が働く。
→顧客の問題を発見・解決できる人材は、組織内外で高い評価を受けるので、組織の中で重宝され昇格・昇進します。転職するのも簡単。このような人材になるためには、顧客や取引先企業の事業(ビジネス)の経済性を読み解くとともに、それを解決するスキルが不可欠です。このような問題解決型人材になるべく自分に投資することが「自己投資」です。
②長期株式投資:顧客・社会が抱えた問題を発見・解決できる企業のオーナーになり、その企業に働いてもらう。
→こういった企業は、先述のキーエンスやラショナルのように非常に高い事業の経済性に支えられ、持続的に高収益を上げます。もちろん、キーエンスやラショナルのような素晴らしい企業で「ビジネスパーソンとして働く」のは素晴らしいことですが、誰もがそこに就職できるわけではありません。そこで私は誰でもできる方法として、「オーナーになること」をお勧めします。そのような高収益企業を見つけることができるのであれば、株主としてその素晴らしい事業の経済性に働いてもらった方が効率的である場合が多いと思います。これが、私がファンドマネージャーとして実践している「長期株式投資」です。
もうお気づきかもしれませんが、この2つには共通するスキルセットが必要です。どちらの場合にも、「顧客・社会が抱えた問題を発見・解決するポジショニング」を見極める必要があるのです。これを見極める土台になる考え方を「インベスターシンキング」として詳述するのがこの本の目的です。(P.39~41)
→自分に何ができるか(スキル)の前に、自分に何が求められているか(問題理解)が来なければならない。今まで、スキルを磨くことに夢中で過ごしてきたが、そのスキルがどのような場面で求められるのかについては、それほど考えられていなかったように思う。
 
【株価は利益の影、利益はビジネスの影】
株価は所詮、企業が将来的に積み上げてくる利益を反映して揺れ動く「影」のようなものです。影の実体は、企業の利益です。株価は、長期的には企業の利益に呼応して変動しますが、短期的には市場参加者の思惑や需給の影響で揺れ動きます。必ずしも実体の大きさを正しく映すわけではないので、「影」という表現を使っています。影というものが、光の当て方によって、濃くなったり形を変えたりして捉えようがないのと同様に、短期的な利益も捉えようがありません。
企業の利益も、その企業が営む事業の経済性の影です。ビジネスの強さの影と言ってもいいでしょう。その企業が、どんなに強い事業を持っていても、金融危機やコロナショックのような予想できない出来事が起これば収益性が悪化することはあります。
しかし本当に強い事業であれば、経済が正常化したときには収益性が必ず戻ってくるものです。危機で競合が市場から退出していくため、収益性が上がるケースもしばしばあります。つまり、事業の経済性を理解することさえできれば、影である企業の利益を将来に渡ってある程度の合理性をもってつかむことができるのです。(P.61~62)
 
【インベスターシンキングのメリット】
資本家的発想を持つと、ビジネスパーソンとしての生活が変わってきます。あなたが投資先として選んだ企業、経営者が、あなたのために働いてくれていることを想像してみてください。そうすれば、その事業を分析する際、モニタリングする際でも、目の前で動く株価をいったん切り離し、事業の本質を考えることができるようになります。
普段の生活の中でも、自らの投資先企業の事業を「自分が経営者だったら…」と主体的に考えるようになるので、自然と新聞の読み方も変わってくるでしょう。投資先企業の経営者のコメントが出ればクリップし、講演があれば聴きにいきたいと思うでしょう。株主総会個人投資家向けの説明会に出席して質問すれば、経営者が自ら答えてくれますが、良い質問をしようと思えば、会社が公開している資料を熟読し、事業について深く考えなければなりません。
こういった一連の過程において、自分がオーナーであるという感覚が育まれ、同時に事業を視る目を養うことができます。自ずとビジネスパーソンとしてのあなたの仕事の仕方も変わってくるはずです。(P.64~65)
→自分の会社の方向性も理解した上で動けるようになれば、仕事もしやすいかもしれない。
 
【企業の複利効果】
本当に強い企業というのは、投資に一定の資金を投入することによって、同業他社に対する優位をさらに高め、さらに大きな利益を持続的にあげることで、企業価値を向上させていくのです。
これこそが「企業価値複利効果」です。この、強い企業だからこそ許される企業価値複利効果は絶大です。まるで雪だるまです。
(P.69)
→事業投資の機会が巨大にあるアマゾンのような会社は、株主配当をしないことで知られているため。
 
【NVIC流企業分析】
私の会社(NVIC)の投資チームが企業を調べる時、まず最低でも20年分の財務情報をチャートにして眺めてみます。売上の伸び方や利益率の推移を見ると、その水準(高いのか低いのか)や方向性(上がっているのか下がっているのか)、安定性(安定しているのかジグザグか)などの特徴が見えてきます。優れた経済性を持つ事業を営んでいる企業は、安定的な売上成長、高い利益率、健全なバランスシートなど、共通した特徴が表れる場合が多いのですが、これらはあくまで結果です。
インベスターが見極めるべきは「なぜそのような形になっているか?」という原因、すなわち事業の経済性です。それに迫るために、企業の沿革から、財・サービスの性質、競合環境、ビジネスプロセス、顧客は誰でどのような問題を解決しているのか、等の非財務情報を徹底的に掘り下げていきます。
ここで重要なことは、これを事業単位ごとに見ることです。たいていの会社は3つ4つの事業を有しており、全体を統合した数字とセグメントごとの数字を公表していますが、顧客や競合環境は事業ごとに異なるからです。
財務情報と非財務情報、そして人口動態や経済状況等のマクロ情報を組み合わせて各事業の経済性に関する仮説がある程度見えてきたら、それを持って企業を訪問し、仮説をぶつけてみます。そこで「うちの会社はここが強い」という話が聞ければ、今度は競合会社にも行って反対側から見た話も聞きます。あるいは工場や研究拠点などを見学させてもらい、強さの源への理解を深めていきます。
このプロセスをぐるぐると回すことで、事業の経済性を規定する3つの要素(付加価値、競争優位性、長期潮流)に関する仮説を構築し、その事業特性に応じた財務モデルを組み立てることで初めて、企業価値(将来利益)を合理的に計算することができます。(P.83~84)
 
【事業のポジショニングの3観点】
事業のポジショニングを見極める上で大事な視点が3つあります。
①俯瞰的に見る
②動態的に見る
③斜めから見る
というものです。(P.112)
 
産業構造の中でのポジショニングを把握する上で役に立つフレームワークに「産業バリューチェーン」という考え方があります。産業バリューチェーンは、横軸に原材料→部品製造→組立て→販売といったように、財・サービスが生産されて顧客に届くまでのプロセスを取ります。縦軸にはそのプロセスにおける付加価値を取り、各プロセスの位置関係を曲線(バリューチェーンカーブ)で結ぶことで、プロセス間における付加価値の相対的な位置を考えるフレームワークができます。
一般的には、典型的なバリューチェーンカーブの形は、川上と川下が高く、川中で沈んでいるような形状になります。まるで笑っているような口に見えることから「スマイルカーブ」とビジネススクールでは言われたりもします。川中の「組立て・製造」の付加価値が沈むのは、組立てそのものは誰でもできるからと言われています。あくまでも一般的にこの形が多いというだけで、実際には産業ごとに異なりますし、また時代によっても変わるということも理解しておいてください。
(P.113~114)
 
【「テレビを楽しむ」のバリューチェーン
最も川上にあるのはテレビを放送する源泉としての「企画・コンテンツ」で、最も川下にあるのが視聴者への「配信サービス・プラットフォーム」です。この「テレビを楽しむ」というバリューチェーンにおいては、最も川上にあるコンテンツが非常に大きな付加価値を享受し、最も川下に位置する配信プラットフォームも顧客との直接の接点を持つことで一定の付加価値を得る反面、川中に位置するテレビというハード製造の付加価値が最も低くなります。単に「綺麗な映像を見たい」という機能的なニーズは十分に満たされ、「より面白いコンテンツが見たい」「より自分のライフスタイルにあった視聴方法で見たい」という意味的なニーズへと、需要者の求めるものが時代の流れとともに変化してきたためです。
かつては、家庭が映像コンテンツを楽しむ方法は、テレビしかありませんでした。番組内容、スケジュールが決められており、土曜の夜8時になればテレビの前に全員集合するしかなかったのです。ところが現代では、一人1台以上持っているパソコンやタブレットスマホなどを通じて、見たいときに見たいコンテンツを見ることができます。
コンテンツを楽しむためにもはや必須ではなくなってしまったテレビというハードには、ほとんど付加価値が残っていないと言わざるをえません。(P.116~117)
→テレビの製造というバリューチェーンをより大きな視点から俯瞰した場合。
 
【求められているのはコンテンツ】
私がはじめてこの「テレビを楽しむ」のバリューチェーンを描いたのは、職場での個人的な体験がきっかけです。ロンドンのUBS証券に勤務していた頃、日韓ワールドカップが開催されて、オフィスの個人用パソコンでリアルタイムの試合を観戦したことがありました。
日本では考えられませんが、会社から試合視聴用専用ソフトがオフィスにいる社員全員に配布されたのです。フットボール大国の英国では、そうしないと社員の大半が休暇を取って業務が回らないという事態が起きかねなかったのだと思いなす。
ただ、試合を観る画面はパソコンですから、10cm四方の小ささで、ボールはかすかにしか認識できませんでした。それでと、ベッカムジダンの活躍に同僚の外国人たちは熱狂していたのです。
その光景を見た私は複雑な思いを抱きました。小さな画面でフットボールに熱狂する同僚を見て、液晶テレビの解像度を競い続けていた日本の家電メーカーの凋落が頭に浮かんだからです。2002年当時、世界最先端の液晶技術を持つ日本のメーカーの一つが三重県亀山に建設した大工場は、「ものづくりニッポン」の象徴として日本の産業界、マスコミから持て囃されていました。
しかし、フットボールの試合を観たい時に「絶対に高解像度のテレビで観る!」なんて興奮する人はいませんよね。テレビでもパソコンでも映像がちゃんと映ればよくて、目的はフットボール(=コンテンツ)を観ることです。ユーザーにとっては、解像度の高いテレビで鑑賞することより、デバイスや視聴場所は何でもいいのでリアルタイムで観ることのほうが断然、価値が高い場合があるわけです。ハードウェアよりもソフトウェアのほうがはるかに有利なのです。既にユーザーの目的は「画素数の高いテレビ(=ハードウェア)」ではなかったのです。(P.118~119)
→実際に亀山工場を建設したメーカーは凋落の憂き目に遭い、鴻海精密工業の資本で再建に取り組むことになる。
 
【ディズニーはバリューチェーンの最上流】
ハリウッドの俳優たちと違って、ミッキーやミニーは歳を取りませんし、ギャラを上げろと要求することもありません。それどころか、映画に出演するだけではなく、世界中のディズニーランドで同時に働いてくれます。
これほど強力なコンテンツはありません。
いわばこれらのコンテンツはこれからも持続的に付加価値を生み出し続ける「儲けの泉」であり、その開発な買収にかかったコストは数十年に渡って平準化されているため負担は小さいのです。
私はディズニーが、産業バリューチェーンにおいて最も付加価値の高い最上流にポジションを持つ優良コンテンツを押さえているという仮説をもっています。だからこそディズニープラスというコンテンツ配信サービスを2019年にスタートして3年も経たない内に、2億人を超える(ESPN+やHuluなども含むストリーミングサービス全体)サブスクライバーを集めることができたのだと考えています。
(P.129~130)
 
【個人情報支配のこれから】
皆さんの購買データや好みなどの個人情報は、特定できないようにマスキングされているとはいえ、実際に広告会社に売り渡されています。これらの個人情報は個別ではそれほど価値がなくとも、統計的に有意なほどにたくさん集めることができれば、莫大な価値を生みます。これが「データこそ次世代のオイルである」と言われるゆえんであり、GAFA時価総額天文学的に大きくなっている理由です。つまり、GAFAが成し遂げたことは、一言で言うならば「個人情報支配」なのです。
ただ、この個人情報支配に関しては今後一筋縄ではいかないでしょう。いかに利便性を高めることができるからといって、民間会社であるプラットフォーマーに自分の個人情報を無防備に無料で提供することに対する違和感を持つ個人は多いでしょう。また国家からしてみれば、国民の個人情報の管理を適切に行う必要が高まるのは言うまでもありません。
今までは規制が追いつかなかったことを理由に、GAFAを始めとするプラットフォーマーは無料で個人情報を仕入れることができていました。しかし、今後は個人情報入手と管理について、国家による規制が導入されるのではないかと私は考えています。そうなればプラットフォーマーの産業バリューチェーンにおける付加価値は低下し、それに従って収益性と成長力は鈍化することになるでしょう。
(P.139~140)
 
任天堂の課題】
ディズニーの例で、「優良コンテンツは儲けの泉である」と言いましたが、その意味では、任天堂は世界に誇るコンテンツを保有している素晴らしい企業です。言うまでもないですが「マリオ」と「ポケモン」です。ただ、経営戦略上、残念な点があるのも事実です。
(中略)
ポケモンGO」ユーザーからの課金売上は、ゲームアプリの決済手数料としてプラットフォーマーのアップルとグーグルに約3割、残り7割を開発・配信元のナイアンティックと、ポケモンの権利を持つ株式会社ポケモンで分け合っています。
さらに、株式会社ポケモンの取り分は、同社の株式を保有しているゲームフリーククリーチャーズ任天堂の3社に分配されています。
会社名が多くてややこしいのですが、ゲームフリークは「ポケットモンスター」シリーズのゲームを制作する会社、クリーチャーズポケモンのカードゲームや本編以外のゲーム開発・企画を行っている会社。任天堂は「ポケットモンスター」の販売会社。そしてこの3社が共同出資して設立したのが、ポケモンのプロデュースやブランドマネジメントを担当している株式会社ポケモンで、任天堂の出資比率は32%です。つまり、ポケモンGOの売上から任天堂が得られるのは、ざっと10分の1以下と推計されます。
この収益構造を知ったとき、任天堂は付加価値の在り処がシフトしてきたことに対応しきれていない会社だなと思いました。
持ち分が3分の1以下しかなければ、ビジネスをコントロールできないばかりか、拒否権もありません。1990年後半にポケモンというキャラクターが誕生した後、金融危機などがあったので、他の2社から株式を買い取り過半数以上の保有比率に高めるチャンスはあったはずだと想像します。でもそれができていなかった。
それが、私が任天堂に対して非常に残念だと思っている理由です。(P.141~143)
→裏を返せば今後、任天堂株式会社ポケモンの株式保有比率が上がって収益構造を磐石にできる可能性があるということでもある。
経営陣も当然このことには気づいているだろうから、長期的には改善に向かうのかも。
 
セブンイレブンの付加価値シフト】
現代では、アマゾンに代表されるE―コマースが台頭し、商品棚がネット上に拡張されることで、取り扱える商品数に上限がなくなりました。メーカーは小売を「中抜き」して消費者に直接アクセスできますし、消費者も近所の店舗に大量陳列されている商品ではなく、ネットの口コミなどを参考にしながら、自分に合った商品を自由に選べるようになりました。
この小売からの付加価値シフトという構造変化に対して、いち早く川上の製造プロセスに登ったのがセブンのプライベートブランド(PB)「セブンプレミアム」です。
従来のPBが大手メーカー製品のラベルを貼り変えて売る程度のものだったのに対し、商品企画から開発、生産、流通まで一貫してセブンが主体的に関わり、高品質な商品を日本中どこでも買えるようにしたのが特徴です。これはセブンが創業時から進めてきた出店戦略による集積度の高い店舗網、効率的な物流網と、全国の専用工場(共同会社がセブン専用に運営する工場)が基盤になっており、他社には追随できていません。
セブンは、さらに品質を高めるために、最川上である原材料生産にまで事業領域を広げています。サンドイッチに挟むレタスのシャキシャキ感にまで徹底的にこだわる姿勢が、2007年に49品目で始まったセブンプレミアムを、今では3500品目、1.4兆円を売り上げるまでに成長させたのです。(P.147~149)
→学習塾業界においても、優良な学習コンテンツが川上にあると考えることができるが、これを現場の講師が作成・企画にあたり、現場でのフィードバックを直に取り入れ改善する仕組みを構築することによって、優良コンテンツ&有効に使いこなす講師集団という参入障壁が出来上がっていかないだろうか。
この場合、営業と教務の分担が必要になる。
 
【専門性の高い業務→水平分業へ】
人口増、新興国需要増以上に重要な潮流が「垂直統合から水平分業へ」というものです。
消費者ニーズが多様化し、製品ライフサイクルが短くなる現代の環境の中で、大手消費財メーカーや大手食品メーカーは、単一ブランドを量販店で大量に売るビジネスモデルから、多くのブランドを育てて保有するブランド管理型モデルへと転換を余儀なくされています。先に見た、小売店から消費者への付加価値シフトですね。
その中でメーカーがすべての機能を内製していたモデル(垂直統合モデル)から、各機能を専門性の高い企業に外注するモデル(水平分業モデル)へシフトするトレンドが見られます。
具体的には大手消費財メーカーは自らが注力するべき機能を「商品企画」「マーケティング」に集中し、研究開発・製造の中でも専門性の高い「香料開発」の機能をジボダンのような香料メーカーにアウトソースするのです。
(P.156~158)
→斜めから見る=アナロジーを働かせて他の業界も見る際の視点の一つ。
高い専門性や開発コストが求められる機能は、そうするのが合理的なのかもしれない。
 
セブン銀行は水平分業】
身の回りを見渡しても水平分業化は進んでいます。例えば、セブン-イレブンに入ると必ずセブン銀行のATMがあります。セブン銀行は、銀行といっても店舗は持たず、ATM周りの業務だけを行う企業で、際立ったビジネスモデルを持っています。
一般的な銀行にとって、ATMは顧客サービスのためのインフラではあるものの、収益源ではありません。ATMを1台運営するには、数百万円の初期投資に加え、システム利用やセキュリティ、地代等で年間数百万円単位のランニングコストがかかると言われています。ATMで預金を引き出す時などに手数料を取られて釈然としない思いをした経験がある方も多いと思いますが、あの程度の手数料収入だけではATMの維持費用を賄うことはできず、基本的に銀行の持ち出しで運営されています。
ATMをたくさん設置して入出金をしやすくすれば顧客の利便性は向上しますが、銀行、特に小規模行にとっては増やしたくても増やせないというのが実情なのです。
セブン銀行は、銀行にとってのコスト部門であるATM運営に特化し、そのアウトソースを受けることで、他行と競合することなく成長を遂げることができたのです。セブン-イレブンという既に存在するインフラをプラットフォームとして活用できたことで、設置場所や防犯といった問題をクリアし、低コストで運営できた点も大きかったといえるでしょう。セブン銀行は銀行業務の中のATM運営というところだけを切り取って多くの銀行からのアウトソーシングを受ける水平分業モデルなのです。(P.161~162)
 
【消耗品で稼ぐ】
ジレットの創業者であるキング・C・ジレットは、瓶の王冠を製造するクラウン社で営業を担当していました。自分が売っている商品が、栓を開けた瞬間に用済みのごみとして捨てられていくのを見た彼は、「使い捨て製品だからこそ、顧客は継続して買ってくれるのだ」ということに気付きました。
1903年ジレットは、使い捨ての替え刃と持ち手に分けた剃刀を開発し、商品化しました。当初はなかなか売れずに苦労したようですが、なんとジレットは在庫の剃刀を飲料のおまけとして無料で配ってしまいました。初めから本体で儲けるつもりはなく、男性がひげを剃るたびに磨耗し、買い替えが必要になる替え刃で収益を上げる魂胆だったのです。
つまりこれは、機械・器具などの製品は安く販売して利用者数を増やし、その製品に付随する消耗品や保守サービスなどで収益を上げるビジネスモデルです。消耗品の内容にもよりますが、本体製品が使用される期間中に利用者が消耗品に対して支払う金額の合計は、本体価格の5~10倍に及ぶと言われています。要するに、顧客の製品購入コストは下げても、スイッチングコストを払い続けてもらえばよいのです。(P.164~165)
→レーザー&ブレードモデルという。
 
【企業分析のプロセス】
①数値化する、可視化する
売上や、利益率、回転率、資産などの財務的な数字、人口動態などのマクロ統計の数字などを過去から並べて、Excelで数値化してグラフ化することを意味します。いろいろな事実を数値化したりグラフ化したりすることで想像力が働きます。想像力こそが仮説構築のスタートポイントなのです。事業分析であれば、単に利益率の数字を並べるだけでなく、グラフ化して、水準、トレンド、ブレなどを可視化することが想像力を掻き立てる上で重要です。「あれ?どうして利益率が5年前に比べて上昇しているのかな?」などの疑問からすべてがスタートするのです。
マクロ情報を数値化するときは「手触り感のある数字まで落としこむ」ことができればより意味のあるものになります。例えば、新聞などで日本の飲食市場(内食+外食+中食)が合計で70兆円という数字を目にしたとします。「70兆円」と言われても数字が大きすぎて全くイメージが湧きませんよね。
でも、日本人一人が一日に食べる金額が1500円弱(70兆円÷1.3億人÷365日)と考えればなんとなくイメージが湧くのではないでしょうか。ここまで落としこむことで、「1500円のうち朝食は100円くらいかな」とか、「客単価5000円のお店は3日分くらいの食費を使っているんだな」など、頭が動き始めると思います。
この「落としこむ」作業には、ある数字と別の数字を組み合わせることが重要です。
日本の人口が約1.3億人とか、GDPが500兆円ちょっととかいう数字は、大雑把でいいので覚えておいて使えるようにしておきましょう。(P.177~178)
 
②比較する
競合企業の数字との比較、分析対象の過去との比較(=時系列分析)、バリューチェーンの川上・川下と比較をすることで、関係性があるのかないのか、どちらが優れているのかなどの判断材料となります。もちろん、単にどちらが高いか低いかということだけでなく、「なぜそうなっているか」という問いに対して仮説を立てることが重要ですが、まずは差異を認識することが第一歩になります。これもグラフ化することで想像力が広がり、見えない関係性を見つけることにつながります。(P.178)
 
③分ける
企業業績であろうと、マクロ経済の数字であろうといろいろな要素に分解できるので、理解が容易になるレベルまで分解することが大事です。例えば企業業績であれば、事業セグメントごとに細分化されていることが一般的ですし、地域ごとに分けて開示されていることも多いです。
また、定型化されたフレームワークを活用することで数字を分解するのも便利でしょう。例えば、売上であれば単価と数量に分解したり、産業全体の規模とその企業の業界シェアに分解したりすることもできます。企業の収益性を表す総資産利益率(ROA)であれば総資産回転率と売上高利益率に分解できます。さまざまな前提を置くことでこの分解作業はほぼ無限の広がりを持ちます。仮説を導く時の肝になります。なれないうちは難しいかもしれませんが、手を動かす経験を積むことで徐々にできるようになります。(P. 178~179)
 
④捨てる
ここで紹介している5つの内で最も重要かつ困難な作業かもしれません。何かについて調べようとする時、多くの人はいろんな情報ソースにあたってなるべく多くの情報を集めようとします。しかし、大抵の場合、結果(事業の経済性に関する仮説の構築)に影響を与える本当に重要な部分は情報の2割程度です。
ネット上含め世の中に溢れる情報があれもこれも重要に思えてしまい、全部を並べないと気が済まないという気持ちもわかります。しかし分析に使える時間は有限ですから、情報収集にかける時間とその情報を基に自分で考える時間は反比例します。
そもそも仮説には絶対の正解はありません。論理的に正しい必要はありますが、すべての論点を網羅する必要はないのです。常にゴールである「事業の経済性に迫る」という意識を強く持ち、枝葉の情報は思い切って捨ててしまいましょう。この「捨てる」という作業を繰り返すことで、本当に重要なものに集中する能力が磨かれます。(P.179~180)
 
⑤組み立てる
ここまでのプロセスは、事実を集め、目に見える形に整理した後、さまざまな角度から見つめたり、他のものと比較したりすることで差異や特徴を浮かび上がらせ、その背景にある要素を分解して、本質的に重要なものを抽出する抽象化のプロセスです。これらを経ることで、「事業の経済性を規定するものが何なのか」に関する何らかの仮説が得られているはずです。
組み立てるということは、その抽象的な仮説を基に再び具体的なビジネスに落としこんでいくプロセスです。もともとの分析対象企業の未来を予測することももちろんですが、同じ仮説を当てはめることが可能な別の企業に対象が移っていくこともままあるでしょう。
(P.180~181)
 
【自己投資は確度の高い長期投資】
あなたが時間とお金を投じて、自分という資産の価値を増大させることは、誰への遠慮もなく、あなたが選択できることです。ただし中長期的にあなたの「市場価値」に跳ね返ってくれば儲けもの、多くは長期的に反映するものだと割り切っておくほうがよいと思います。それは異動・昇進かもしれませんし、転職かもしれませんが、必ずチャンスは来ます。チャンスの女神の前髪をつかむことができるのは、日々着々と「自分資産」の価値を増大させて備えている者だけです。努力が必ず報われるではありませんが、努力しない限り報われることは100%ないのです。(P.208)
→評価は他人が決めるものだが、自己投資にかける時間やお金は自分で決めることができる。
 
【国家は価値を生む主体ではない】
往々にして国債の利回りはインフレによる物価上昇に勝てません。バフェットは、過去47年間の米国のインフレ率と米国債の税引き後利回りが同じ4.3%であったというデータを示し、「過去数世紀にもわたって国債を中心とする貨幣ベースの商品は人々の購買力を奪ってきた」事実を指摘しています。この事実には構造的な背景があると思います。
政府の経済面での役割は、究極的には国民間での所得移転です。簡単に言えば徴収した税金を、国民の安定的な生活のためのインフラ投資に回したり、働けない人々、低所得者、高齢者に配分したりすることです。何が言いたいかというと、政府は、創られた価値や富を再配分する主体ではあるものの、自らが価値を創出する主体ではないということです。そもそも価値を創出する主体ではない国家にお金を貸して、それが付加的な価値を戻してくれることを期待することが間違いなのです。(P.224)
 
【インデックスに投資するリスク】
米国市場は世界でも稀に見るほど新陳代謝の激しい市場です。S&P500インデックスに投資するということは、その新陳代謝の「枠組み」に投資するということなのです。したがって、この「枠組み」は市場全体がバブルに沸く時には、大いにそのバンドワゴンの中で盛り上がりますが、バブルがはじけると大暴落を起こします。「枠組み」に投資するのであって、個別企業の利益を見極めて投資するのではないことから、簡単にバブルに踊ってしまうという欠点を持っているのです。それを理解した上で、S&P500に投資をすべきです。
(P.252)
 
【FIREは自立ではない?】
「早く遊んで暮らしたいから(早く仕事をやめたいから)、投資などでお金をたくさん貯めて早期リタイアしたい」という人は、お金が有機的なつながりから生まれる産物だという本質を理解していないのだと思います。そういう人は、相場に恵まれれば記号としてのお金を集めることはできるかもしれませんが、ひとたび相場が崩れたり、予想外のインフレなどが起こったりしてしまうと一瞬にしてお金を失い、二度と立ち上がることはできないでしょう。
いっぽう、お金が「ありがとう」に集まってくるという本質を理解している人は、人や社会が抱えている問題発見・問題解決をしようと心がけ、その問題解決の対価としてお金を集めることができるので、外部環境の変化にビクビクする必要はありません。
なぜならその人は、勤め先に依存することなく、自分自身と人とのつながりの中でできた信用をいつでもお金に換えることができるからです。これこそが「会社ニュートラル」な生き方であり、本当の意味で「自立する」ということなのです。(P.263~264)
→少し前まではまったく同意見だったが、病気になった今は典型的な「強者」の見方だと感じる。若い人がなぜFIREに惹かれるのか、その本質を理解していない。問題解決に正当な対価が支払われるどころか、意味を感じられない業務指示や過重労働、給料も増えない状況に辟易して一刻も早く逃げ出したいというのが多くの若者の本音ではないのか。そのような希望を持ちにくい労働環境にしてしまっていることを、筆者のような「強者」の立場の人間こそ"想像力を働かせて"省みるべきだろう。