ねこみんの投資生活

ふつうの塾講師が適応障害をきっかけに投資を勉強していくブログです

【読書47冊目】行動経済学が最強の学問である 相良奈美香

行動経済学の体系】
非合理的な意思決定メカニズム=行動経済学の本質
認知のクセ
・計画の誤謬
・自制バイアス
・身体的認知
・メンタル・アカウンティング
・真理の錯誤効果
・システム1vsシステム2
・確証バイアス
・解釈レベル理論
・快楽適応
・ホットハンド効果
・概念メタファー
・非流暢性
状況
・おとり効果
・ナッジ理論
・アンカリング効果
・プライミング効果
・系列位置効果
・感情移入ギャップ
・単純存在効果
・パワー・オブ・ビコーズ
感情
・アフェクト
・ポジティブ・アフェクト
・ネガティブ・アフェクト
・拡張ー形成理論
・不確実性理論
心理的所有感
・境界効果
・目標勾配効果
・キャッシュレス・エフェクト
(P.74)
 
【システム1VSシステム2】
人間の脳は、情報処理をする際に2つの思考モードを使い分けていて、それを「システム1vsシステム2」と呼びます。カーネマンは、システム1は直感的で瞬間的な判断であることから「ファスト」、システム2は注意深く考えたり分析したりと時間をかける判断であることから「スロー」と呼びました。「認知のクセ」を生む理論のうち、最も基本となるのがこの「システム1vsシステム2」です。(P.93~94)
→システム2の方がエネルギー消費が激しい。
 
【システム1を使いがちな6パターン】
人はどんなときにシステム1を使いがちかを明らかにした研究があります。それをまとめると以下の6つのときです。
・疲れているとき
・情報量・選択肢が多いとき
・時間がないとき
・モチベーションが低いとき
・情報が簡単で見慣れすぎているとき
・気力・意志の力(ウィルパワー)がないとき
(P.97)
 
【メンタル・アカウンティング】
カーネマンとトベルスキーが発表した有名なメンタル・アカウンティングの研究は「劇場の10ドル」という研究。この実験では、被験者に以下のような質問をしました。
「あなたは、劇場でチケットを買おうとして財布を開くと、10ドル札を失くしたことに気づいた。それでもあなたは財布から10ドル出して当日券を買いますか?」
その問いには88%の人が「イエス」と答えています。一方で、今度は以下のような質問をしてみました。
「あなたは事前に10ドルの前売券を買っておいたけれど、劇場に着いたら前売券が見当たらない。それでもあなたは財布から10ドル出して当日券を買いますか?」
この問いにイエスと答えた人は46%。半分以上の人はノーと答えました。
2つの質問のどちらの場合も、失くしたお金の価値は10ドルで変わりはありません。しかし、同じ10ドルであっても、お札を落とした場合と前売券を落とした場合とでその後の行動が変わっているということは、その10ドルに対して感じている心の会計が異なっているということです。(P.102~103)
→何のためのお金か、無意識に仕訳がされていて、心のなかでは失くしたお金は劇のために使うお金とは別会計になっている。
 
【フット・イン・ザ・ドア】
行動経済学を教養として身につければ、交渉の原理原則を使いこなせます。
そこで認知のクセの一つとして紹介しておきたいのは「フット・イン・ザ・ドア(Foot in the Door)」。「小さなお願いから始めよ」ということです。誰かを訪ねていって、いきなり家に入れてもらおうとすると拒絶されるでしょう。ですから、まずは一歩、足先を入れるー。つまり、頼みごとをするなら、最初から大きな依頼をせずに小さなことから始めなさいということ。(P.126)
→これまでに例のない新しい施策を取り入れる時にも使えそう。
 
【真理の錯誤効果】
「難しい理屈はいらないよ。営業は足で稼ぐものだ。一件でも多く顧客を訪問して契約を取りなさい。私も100件ノックし続けて、最優秀社員に選ばれたんだ」
上司の成功体験は数十年前のもので、セキュリティが厳しい集合住宅も増えた現在、足で稼ぐという営業は成り立ちません。むしろ会社にいたままインターネットを使った戦略で考えたほうが、より効果的かつ効率的なことは明らかです。
しかし、毎日毎日、上司の熱いトークを聞くうちに、チームの部下たちは「そうだよな、実績のある人の意見だから正しいに違いない」と信じるようになっていく。これが私が博士課程の卒業論文でも発展させた「真理の錯誤効果(Illustory Truth Effect)」です。(P.133~134)
 
【なじみのある情報が優先される】
日常でも、「○○○だと思うかもしれませんが、実は違うのです」という話し方やマーケティングを見かけることがあります。このような場合も、時間が経つと「○○○だと思う」という情報と「実は違うのです」という情報が別の名前のファイルで保存される可能性があります。結果として「○○○だと思う」という情報が別の名前のファイルで保存される可能性があります。結果として「○○○だと思う」ことが事実として頭に残ってしまうので、気をつけましょう。(P.135)
→真理の錯誤効果で、「○○○だと思う」(=なじみのある情報)が優先的に思い出されてしまう。
 
【快楽適応】
タイムマネジメントが上手くなる一助として、「快楽適応(Hedonic Adaptation)」を知っておいて損はないでしょう。
快楽適応とは、人は何が起こっても、繰り返しベースラインの幸福度に戻るという理論です。
(中略)
しかし、なぜこれがタイムマネジメントに生きるのでしょうか?
それは、快楽適応は実はネガティブな感情にも言えるからです。つまり、人が慣れやすいのは、ポジティブな感情だけでなく、ネガティブな感情に対してもということです。
おそらく、あなたは嫌だと感じる仕事ほど、途中途中に休憩を挟んでしまいがちではないでしょうか。しかし、このようなネガティブな感情のときは、逆に「一気に」やってしまったほうがよいのかもしれません。
というのも、その嫌な気持ちも、ずっと取り組んでいると慣れてきて、段々と感じなくなるからです。
逆に言うと、嫌な仕事を細切れにしてしまうと、その嫌な気持ちになかなか慣れることはできません。そうなると、なかなか再開できないことで時間がかかりますし、取り組んでも同じく嫌な気持ちのまま取り組んでいるので、なかなか進まないでしょう。(P.154~155)
→「一気呵成」には科学的根拠があった。
 
【単純存在効果】
電池コーナーの周りに他の客(協力者)がいないときには33%の被験者が一番高いメーカーの電池を購入し、他の客が1人いる場合は約10%増え42%もの被験者が一番高いメーカーの電池を購入しました。他の客が3人に増えると、なんと半数以上の63%が一番高いメーカーの電池を購入しました。
被験者にとって、電池コーナーの周りの客は知り合いでもなんでもないただの通りすがりであり、特にじっと見られたわけでも、何かを言われたわけでもありません。あたかも風景のようにその環境に他者がいるだけなのに、人間の行動が変わってしまいました。
これは「単純存在効果(Mere Presence Effect)」と言い、人間は他者の存在に影響を受けるという研究です。(P.178~179)
 
【過剰正当化効果を防ぐ】
内発的動機で努力している人のやる気を妨げないためにな、言葉や態度で報酬を出すこと。「ありがとう、こういう点が素晴らしかった」と丁寧に言葉で伝えたり、「動画編集を手伝ってくれて本当に助かるよ」とコーヒーを差し入れてお礼を言うなどです。
この場合のコーヒーは「報酬」ではなく、「ありがとうを伝えるもてなしの行為」「態度で示す感謝」となります。(P.181)
→内発的動機に基づく行動が、報酬を与えられることで報酬のために変わってしまうことを、過剰正当化効果という。
 
【自律性バイアスの活用】
アメリカで行動経済学を学び、現在日本企業の人事部で勤務されている方がこんな体験談を教えてくださいました。やりたいプロジェクトについて、上司に対して「これをやります」という一方的な情報共有をした結果、自分が知らないことを部下が勝手にやっているという不安や自分が頼られていないという虚しさを感じたのか、支援を渋られたそうです。そこで、彼は自律性バイアスを上手く利用して、「これをやりたいと思っているんですが、AとBどちらが良いでしょうか」という相談に切り替えました。本質的にはAとBでも良い選択肢を揃えて、上司に選んでもらったところ、上司を巻き込み周りからのサポートも受けられるようになったそうです。(P.242)
→自分の意思で決めたと思いたい性質を、筆者は自律性バイアスと呼んでいる。
 
【感情移入ギャップ】
朝、朝食を食べたばかりで元気がいっぱいだと、「今夜は忙しいけれど自炊して健康的な食事をしよう」と考えますが、実際に仕事が終わって空腹になると、ついジャンクフードを買って帰ってしまう。感情については次の章で詳しく話しますが、「未来の自分」を理想化してしまうこの状態を、カーネギーメロン大学の心理学者ジョージ・ローウェンシュタインは「感情移入ギャップ(Hot-Cold Empathy Gap)」と名付けました。(P.248)
→先送りや三日坊主が発生しやすい原因。
朝のうちに材料を買って職場の冷蔵庫に入れておくなど、決めた行動をしやすい「状況」をつくる工夫が考えられる。
 
【拡張-形成理論】
ポジティブな感情は、将来的に幸せになる上昇スパイラルの引き金となるー。これは理想論ではなく研究論文で、ノースカロライナ大学の心理学者バーバラ・フレデリクソンが「拡張ー形成理論(Broaden and Build Theory)」として最初に発表し、現在までに2万件以上の引用がされています。基本的に、ポジティブな感情は視野や思考の幅を広め、ストレスによる身体と心の不調を整えてくれます。そればかりか、打たれ強くなり、レジリエンス(精神的な回復力)も身についていきます。能力・活力・意欲が高まり、人脈や活動範囲が広がります。
つまり、ポジティブな感情は仕事の効率も質も上げ、心身のストレスを軽減させることができるのです。(P.272~273)
 
【認知的再評価】
ビシネスにも役立つ研究として知られるのが「認知的再評価(Cognitive Reappraisal)」。自分が抱いている漠然とした感情に目を向け、理解し、再評価し、もっと役立てるというものです。
ネガティブ・アフェクトは、言ってみれば「脳の中の小さな不安や不満」です。小声でつぶやかれているので注意しないと聞き取れませんが、放っておくと大きくなってしまいます。
そこでまず、脳の中のアフェクトに注意を払うクセをつけ、「脳の中にネガティブ・アフェクトがある」と気がつくようにする。次にそれを認めます。例えば「不安だな」と気がついたら、「不安だ」と声に出して言うのもいいでしょう。そして、「なぜ不安なんだろう?原因はなんだろう?」と考えます。「来週から始まる責任のあるプロジェクトに自信がないからだ」と原因がわかるだけで落ち着くでしょう。
また、そのことを再評価し、「あのような責任のあるプロジェクトを任されるなんて、期待されている証拠だ。これからも頑張ろう」と、ポジティブなアフェクトに変えることもできます。さらに仕事でミスをして落ち込んでしまっているときにも、「なんであんなミスをしてしまったのか」とずるずる悩むよりも、「いい勉強になった。次はもう大丈夫だ」と再評価するとネガティブ・アフェクトが減少するという研究結果も出ています。(P.281~282)
→「捉え直す」ことは日常的にやっていても、「認知的再評価」という学問的な裏付けのある行為だと理解してやるのとそうでないのとでは、効果も違ってきそう。
 
【ネガティブをポジティブへ】
不安や緊張というネガティブな感情は簡単に消えるものではなく、下手に「あがってなんかいない。私は大丈夫だ」と抑え込もうとすると逆効果になります。それゆえにネガティブ・アフェクトを認識し、その上で「やる気」などのポジティブ・アフェクトに変換するというグループ1の方法が良いという結論です。
(P.284~285)
→スピーチの前に「私はワクワクしている」とつぶやくグループ1と、「私は平常心で落ち着いている」とつぶやくグループ2では、グループ1の方が好評価を得たというアリソン・ブルックスの実験結果がある。
 
【現金の方が無駄遣いしない】
行動経済学では、キャッシュレスの人のほうがお金を使いすぎてしまうことがわかっています。なぜなら、キャッシュレスだとお金の決済の際の「透明性が低い」ということで、「お金を使ってしまった」という心理的痛み(Pain of Paying)を感じにくいからです。
また、いくら使ったという感覚も低く、「いっぱいお金を使ってしまった」ということに対するネガティブ・アフェクトも生まれにくくなってしまい、結果、簡単に使ってしまうのです。
逆に、現金の決済のほうが透明性が高い、つまり、リアルで目の前の商品に対する現金を手渡しすることにより、「どれだけどのように使ったか」という感覚が強くなるので、ネガティブ・アフェクトが生まれやすく、無駄遣いをしなくなります。(P.293)