ねこみんの投資生活

ふつうの塾講師が適応障害をきっかけに投資を勉強していくブログです

【読書15冊目】サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット モーガン・ハウセル

【経済的な成功の大きな要因】
なぜファイナンスの世界では、清掃員のリードがトップエリートのフスコーンに負けない成果を出し得るのか?
それは2つの理由から説明できる。
1つは、経済的な理由は、知性や努力とは無関係の「運」に左右される部分が大きいからだ。これはファイナンスの世界の真実であり、本書でも以降の章で詳しく説明する。
もう1つの理由は(私はこちらのほうがより一般的だと考えている)、経済的な成功は「ハードサイエンス(物理学や数学などの分野)」では得られない、というものだ。
経済的な成功は、何を知っているかよりも、どう振る舞うかが重要な「ソフトスキル」の問題なのだ。私はこのソフトスキルを「サイコロジー・オブ・マネー(お金の心理学)」と呼んでいる。化学や物理学のようなものではなく、複雑で測定が難しい人間の心理や行動が大きく関わっているからだ。(P.9)
 
【人は若いころの体験で投資判断を行う傾向がある】
2006年、全米経済研究所の経済学者ウルリケ・マルメンディエとステファン・ナーゲルは、アメリカ人のお金の使い方を詳しく調べた「消費者金融調査(Survey of Consumer Finances)」の50年分のデータを分析した。
理論上は、「人々は、それぞれの経済的な目標や投資対象の特徴を加味して投資判断を行っているはずだ」と考えられた。
しかし、実際にはそうではなかった。
分析の結果、人々の生涯にわたる投資判断は、その人が同時代に経験したこと、特に成人して間もない頃の経験に大きく左右されることが明らかになったのである。
たとえば、インフレ率が高い時代に育った人は、低い時代に育った人に比べて、その後の人生で債券に投資する額が少なかった。同じく、株式市場が好調な時代に育った人は、株価低迷の時代に育った人に比べて、その後の人生で株式に投資する額が多かった。
この分析を実施した経済学者は「分析の結果は、個人投資家がリスクをどれくらい負うかは、その人の過去の体験に大きく影響されることを示唆している」と書いている。
知性でも、教育でも、教養でもなく、「いつ、どこで生まれたか」という偶然の要素が投資の判断を左右していたのだ。(P.27~28)
バブル崩壊を経験した世代とそうでない世代で、株式投資への考え方が異なるという話もある。
 
【再現可能な部分と運を見分けるのは難しい】
どんな投資戦略が効果的で、どれが効果的でないのか?
どんなビジネス戦略が効果的で、どれがそうではないのか?
どうすればお金持ちになれるのか?貧乏にならないためにはどうすればいいのか?
私たちは個別の成功例や失敗例を見て、「あの成功者がしたのと同じことをしよう」「あの失敗者がしたことは避けよう」というふうに、そこに教訓を見いだそうとしてしまう。
だが、これらの結果のうち、再現性のある部分と、偶然の運やリスクによってもたらされた部分の割合を正確に知ることは、魔法の杖でもなければ不可能だ。個々の成功例や失敗例を見て、見習うべき特性や避けるべき特性を見極めるのは、恐ろしく難しいのである。
(P.49)
→「個々の」と言っていることがポイント。事例を複数観察して、共通項を抜き出して実行するのは、成功する可能性が高い(経験則)
 
【成功も失敗もいい加減な教師】
ビル・ゲイツはかつてこう言った。
「成功とはいい加減な教師だ。賢い人にも、"自分は負けるはずがない"と思わせてしまう」
物事が順風満帆に見えるときも、自分が思っているほどすべてがうまくいっているわけではないという戒めの気持ちを忘れてはいけない。無敵な人間などいない。成功をもたらしたのが運であるのなら、そのきょうだいであるリスクがすぐそばにいて、状況を簡単にひっくり返してしまいかねないことを自覚しておくべきだ。
同じことは逆の場合にも当てはまる。
失敗はいい加減な教師だ。たまたま運悪く現実化してしまっただけの場合でも、賢い人に"自分の判断は最悪だった"と思わせてしまう。
失敗にうまく対処するコツは、1度や2度、投資に失敗したり、経済的な目標を達成できなかったりしたとしても、自信を失わないようにすることだ。必ずいつかは偶然が自分にとって良い方向に働くときが来ると信じながら、プレイし続けるのだ。(P.57)
→永遠の失敗があるとすれば、それは退場して戻ってこなかった場合。
 
【十分の感覚の欠如が判断を狂わせる】
現代の資本主義は2つのことに長けている。「富を生み出すこと」と「羨望を生み出すこと」だ。この2つは良い効果を生むこともある。ライバルに負けたくないという気持ちは、努力の燃料になるからだ。
だが、「十分」の感覚がなければ幸せは遠のく。古くから言われているように、幸福とは、「結果から期待値を差し引いたもの」なのだから。(P.68)
適応障害をきっかけに、自分の「十分」なラインが分かった。
大切に想える人がいて、暖かく過ごせる家があって、時々ちょっと美味しいものが食べられて、年1~2回旅行に行けて、書店に行けて好きな本が読めて、疲れたらポケモンで息抜きして…それで「十分」幸せ。
 
【現実のあらゆるところに見られる複利効果】
1900年代前半、セルビアの科学者ミルティン・ミランコビッチは、他の惑星に対する地球の位置を分析し、氷河期が起こる理由を説明する仮説を考え出した。
現在では、この仮説が正しかったことが証明されている。太陽と月の引力は、太陽の周りを好転する地球の軌道の傾斜に穏やかな影響を与えている。この変化は、数万年単位で周期的に発生する。その結果、この長い周期のあいだに、地球の2つの半球が浴びる太陽の光の量がごくわずかに変動する。
ここからが面白いところだ。ミランコビッチの仮説では当初、地球の地軸が傾くと、この惑星全体を凍らせるほど寒い冬がやってくると考えられていた。しかし、ミランコビッチの研究を掘り下げたロシアの気象学者ウラジミール・ケッペンが、その変化は劇的なものではないという興味深い事実を発見した。
つまり、地球の表面が厚い氷で覆われる原因は、凍えるように寒い冬ではなく、わずかに涼しい夏が訪れることだったのである。
それは地球の地軸が傾くことで夏がわずかに涼しくなり、前年の雪を溶かすほど気温が上がらなくなることから始まる。氷が残ると、次の冬に雪が積もりやすくなる。すると、その次の夏にも雪が残りやすくなり、次の冬はさらに雪が積もりやすくなる。万年雪は日光を反射するので、気温が下がり、冬には雪が多く降るようになる。このサイクルが数百年間続くことで、季節的な積雪が大陸を覆うほどの巨大な氷床に成長し、地球全体が氷に包まれていくのだ。(P.75~76)
→気候における「複利的な」作用の例。小さな変化が、時間の経過と共に驚異的な変化をもたらすことがある。投資についてもこれがいえる。
 
【バフェットの成功要因は時間】
バフェットが本格的な投資を始めたのは10歳のとき。30歳の時点で、純資産はすでに100万ドル(現在の930万ドルに相当)に達していた。
もし、バフェットが人並みの人生を歩んでいて、たとえば10代や20代は見聞を広めるために世界を放浪し、30歳の時点で純資産2万5000ドルから投資を開始したとする。
そして現在の彼と同じように驚異的な年間収益率(年間22%)で投資を続け、60歳で引退して、後はゴルフを楽しんだり孫と遊んだりする日々を過ごしているとしよう。
その場合、バフェットの現在の純資産はいくらになるのだろうか?
845億ドルではない。1190万ドルである。現在より99.9%も少ない純資産しか持っていないことになる。
つまり、ウォーレン・バフェットの経済的成功の秘密は、若い頃に経済的基盤を築き、長期間にわたって投資し続けたことにある。バフェットの投資の技術は優れている。だが、成功の最大の要因は"時間"だった。これが複利の力だ。(P.79)
→彼の資産のほとんどは、60代後半以降に得られたものだと言われている。
 
【バフェットが何をしなかったか】
私たちは、バフェットがいかに驚異的な「投資収益率」を達成できたのか、その解明に何年も費やす。どのように値打ちのある企業や、優秀な経営者を見抜いたのか、と。だがそれよりも簡単で、かつ重要なことがある。それはバフェットが何をしなかったかを明らかにすることだ。
バフェットは、投資に熱中するあまり過度の借入をすることはなかった。
14回の不況を経験したが、パニックになって売りに走らなかった。
ビジネス上の評判も落とさなかった。
特定の戦略や世界観、トレンドに固執しなかった。
他人の金にも頼らなかった。
燃え尽きて資金を止めたり引退したりすることもなかった。
バフェットは生き延びた。サバイブしてきた。だから、長期にわたって投資を継続できた。10歳から89歳まで一貫して投資を続けられたからこそ、複利の恩恵を存分に受けられたのである。それが、彼の成功を語るうえでもっとも重要な点なのだ。(P.94~95)
 
【大成功する1%を保有するために】
ユダヤ系ドイツ人のハインツ・ベルクグリューンは、1936年にナチスの手を逃れて米国に亡命した。米国では西海岸で暮らし、カリフォルニア大学バークレー校で文学を学んだ。誰が見ても特別な才能がある若者ではなかった。だが1990年代には、大成功を収める美術品商になっていた。
2000年、ベルクグリューンは、ピカソ、ブラック、クレー、マチスなどの膨大なコレクションの一部をドイツ政府に1億ユーロ以上の価格で売却した。この額は、ドイツ政府が事実上の寄付とみなしたほど割安だった。個人取引の場合なら、優に10億を超える値のつくものだ。
1人の人間が、これほど膨大な量の名画を集められるのは驚異的だ。芸術作品は限りなく主観的なものである。目の前にある絵画が、将来的にその世紀を代表する作品として評価されるかどうかを見抜くには、どうすればいいのだろうか?それは「技能」なのだろうか。あるいは「運」なのだろうか。
投資会社のホライゾン・リサーチは、「技能」でも「運」でもない、3つ目の要因について説明している。それは、投資家にとっても重要なことだ。
「優れた美術品商は、膨大な量の美術品を投資対象として購入する」と同社は書いている。
「多くの美術品を長期間保有すると、その一部が優れた投資対象であることが判明する。その結果、ごく一部の高リターンな美術品により、コレクション全体が黒字になる。これが、成功する美術品商のビジネスの仕組みなのである」
優れた美術品商は、インデックスファンドのような仕組みでビジネスをしているのだ。
まず、めぼしい作品があれば根こそぎ買う。気に入ったアーティストの作品を集中的に購入するのではなく、さまざまなアーティストの作品をポートフォリオとしてまとめて購入するのである。そして、そのうちの数点が高く評価される日をじっと待つ。それがすべてだ。
一生をかけて手に入れた作品の99%は価値のないものかもしれない。しかし、残りの1%がピカソのような芸術家の作品であるなら、すべての失敗を帳消しにできる。ほとんどが間違いでも、トータルで見れば大正解だったことになるのだ。(P.106~107)
→大科学者と呼ばれるような人でも、評価されている論文は数多く発表した中のごく一部だったりする。
 
【インデックスのリターンはわずかな構成銘柄でもたらされる】
J・P・モルガン・アセット・マネジメントが、1980年から2014年までの「ラッセル3000インデックス」(大規模で広範な株式公開企業群の株価指数)のリターンの分布を分析し、公表している。
この期間中、ラッセル3000の全構成銘柄の4割が70%以上値下がりし、回復することはなかった。実質的に、このインデックスのリターンのすべては、標準偏差2個分以上の差で優れた業績を上げた、わずか7%の構成銘柄から得られていた。(P.111)
 
【冷静さを保って長期投資すること】
たとえば、1900年から2019年まで、毎月1ドルずつ貯金したとする。そのお金は、どのように投資するのが有効だろうか。
この1ドルを、上げ相場だろうが下げ相場だろうが、とにかく毎月、米国の株式市場に投資するとしよう。経済学者が、迫り来る不況や新たな下げ相場について声高に警告していても関係ない。ただ投資を続ける。この方法で投資する人を「スー」と呼ぶ。
しかし、景気後退時に投資するのは怖いと考える人もいるだろう。その場合、毎月1ドルを株式市場に投資し、景気が後退したら株式を売却して毎月1ドルを現金で貯金する。
そして景気後退が終わったらその貯金をすべて株式市場に投資する。この投資家を「ジム」と呼ぼう。
または、景気後退に怖気づき、市場に復帰するまでに数ヶ月かかる人もいるかもしれない。この場合、基本的に毎月1ドルを株式に投資するが、景気後退になったら6ヶ月後に株式を売却し、景気後退が終わって6ヶ月したら投資を再開する。この投資家は「トム」と呼ぶ。
この3人の投資家は、1900年から2019年までのあいだに、どれくらいの資産を築けるだろうか?答えは以下の通りだ。
・スーは43万5551ドル
・ジムは25万7386ドル
・トムは23万4476ドル
圧倒的にスーの勝ちだ。
1900年から2019年のあいだには1428ヶ月ある。そのうち300ヶ月が景気後退の期間だった。
つまり、スーは景気が後退していた、あるいは後退しかけていた全体の21%のあいだに冷静さを保って投資を続けたことで、ジムやトムより4分の3近く多くの資産を築くことができたのだ。(P.114~116)
 
【人生のコントロール感が幸福をもたらす】
1910年生まれのアンガス・キャンベルは、ミシガン大学で心理学者としてのキャリアを積んだ。当時は、うつ病や不安神経症統合失調症などの疾患に心理学の関心が集まっていた。
しかしキャンベルは、何が人を幸せにするのかを知りたかった。1981年に出版された著書「The Sense of Wellbeing in America(アメリカ人の幸福の感覚)」では、冒頭で「心理学が想定しているより、人は概して幸せである」と指摘している。
キャンベルは、他と比べて明らかに幸福度が高い人々がいることを明らかにした。ただしその要因は、収入や地域、教育などではなかった。収入が高くても、良い地域に住んでいても、教育レベルが高くても、慢性的に不幸を感じている者は大勢いた。
幸福度の高い人々に見られた一番の共通点は、もっと単純なことだった。キャンベルはこう述べている。
 
従来の心理学が観察してきた客観的な諸条件のどれよりも、人間に幸福感をもたらす信頼性が高い要因は、「人生を自分でコントロールしている」というはっきりとした感覚があることだ。
 
つまり、どんな高い給料よりも、どんなに大きな家よりも、どんなにステータスのある仕事よりも、「好きなときに、好きな人と、好きなことができる」生活を送れることのほうが、人を幸せにするのである。(P.126~127)
→お金はそのための手段である。
 
自分でコントロールできないスケジュールに従ってまで好きなことをするのは、嫌いなことをしているのと同じだった。
この感覚には名前がある。心理学では、これを「心理的リアクタンス」と呼んでいる。
ペンシルベニア大学マーケティングを教えるジョナ・バーガーは、これを次のように的確に説明している。
 
人は、自分が主導権を握っていると感じたいのである。つまり、運転席に座りたいと思っている。だから、誰かから何かをするように仕向けられると、急に無力感を覚える。自分で選択したのではなく、他の誰かに指示されたと感じるからだ。そのため、その行動そのものは好きだとしても、拒絶したり、他の行動を取ろうとしたりする。
 
この考えが腑に落ちた人なら、好きなときに、好きな人と、好きな場所で、好きなことを好きなだけできる人生を過ごすためにお金を蓄えることが、とてつもないリターンを生み出すという意味がわかるはずだ。
(P.129~130)
→この感覚が私は周りの人より強い。こうして書籍から学ぶのも、その表れかもしれない。
 
【富と物質的豊かさの違い】
私たちは「ウェルス(富)」と「リッチネス(物質的豊かさ)」の違いを明確にしなければならない。これは単なる言葉の意味の違いの問題ではない。この違いを知らないことが、数え切れないほどのお金の判断ミスにつながっているからだ。
リッチとは、現在の収入が多く、それを使って贅沢な買い物をしていることだ。10万ドルの車に乗っている人は、たいていは高収入だ。ローンで購入していたとしても、月々の支払いをするになある程度の収入が必要になる。大きな家に住んでいる人も同じだ。リッチな人を見分けるのは難しくない。リッチな人は、わざわざ自分からお金持ちだとアピールする場合も少なくないからだ。
だが、富(ウェルス)は目に見えない。それは、使われていない収入のことだ。富とは、後で何かを買うための、まだ取られていない選択肢だ。その価値は、将来的に今よりも多くのものを買う選択肢や柔軟性、成長をもたらすことにある。(P.147)
 
【思い入れは合理的な戦略】
投資資産に思い入れを持たないことは、投資家にとって冷静で理知的であることの証明だと見なされ、名誉なことだとも思われている。
しかし、採用している戦略や保有している株式銘柄に思い入れがないと、困難に陥ったときに簡単に手を引きやすくなる。
合理的な投資家は、理詰めで考えれば欠点があるような戦略を好む。そのため、困難な状況でもその戦略を簡単には放り出さない。それが結果的に、長い目で見れば優位に立てるのである。
前述したとおり、不況時にも同じ戦略を貫くことほど、長期的に投資のパフォーマンスを上げる要因はない。リターンの割合も増えるし、一定期間にそれを獲得できる確率も高まる。過去の実績に基づけば、米国市場で利益を上げられる確率は、1日なら50%、1年なら68%、10年なら88%、20年では(現在のところ)100%になっている。ゲームに参加し続けるほど、はっきりと勝率は上がっていくのである。
「好きなことをしなさい」という言葉は、幸せな人生を送るためという観点ではたわいもないアドバイスに聞こえるかもしれない。だが投資における忍耐力を高めるという観点では、これほど重要な戦略もないのである。
(P.174)
 
【わずかな違いで未来は変わる】
経済史を大きく動かしてきたのは、誰もが驚くような出来事だ。そうしたサプライズが起こるのは、経済のモデルが間違っているからでも、私たちの知能が低いからでもない。
もし、アドルフ・ヒトラーの両親が不仲になり、アドルフを授からなかったら世界は今どんな風に違っているだろう。医学者のジョナス・ソークがワクチンの開発に疲れて途中で匙を投げ、結果としてビル・ゲイツが幼少期にポリオに罹って命を落としていたら、テクノロジーの未来が今とは大きく変わっていたかもしれない。米同時多発テロが起きた2001年9月11日、空港の警備員が搭乗口でハイジャック犯のナイフを没収していたら、おそらく学費ローンの状況は現在とは大きく違っていただろう。これらはすべて、紙一重の確率で起こり得たのである。
つまり、あらゆる出来事は結び付いていて、わずかな違いで未来は変わり得る。だからこそ、未来を予測するのは難しいのだ。
(P.186~187)
ヒトラーに関して言えば、ファシズムを歓迎する雰囲気が当時のドイツ国内には醸成されていたわけで、ヒトラーでなくてもヒトラー的な人物が現れて結局似たような結果になったのではないだろうか。
 
【グレアムの投資の公式は現在は通用しない】
グレアムの名著「賢明なる投資家ー割安株の見つけ方とバリュー投資を成功させる方法」(土光篤洋監修、増沢和美・新美美葉、パンローリング)は単なる投資理論ではなく、投資家が賢明な投資判断をするための計算式など、実践的な方法を示した本だ。
私は10代の頃にこの本に出会い、初めて投資について学んだ。本書の公式は、いわばお金持ちへの道筋を明確に示したものであり、とても魅力的だった。その通りに実践すれば、すべてがうまくいくように書かれていて、投資がとても簡単なものに思えた。
だがこの公式を実践してみてわかることがある。それは、そのほとんどがうまく機能しないことだ。
グレアムは単純に言うと、現金資産からすべての負債を差し引いた正味流動資産よりも少ない額面で取引されている株の購入を提唱した。これは素晴らしい方法のように聞こえる。だが実際には、たとえば不正会計で告発されたペニー株のようなものを除けば、それほど安く取引されている銘柄はほとんどない。
手堅い投資をするためには、簿価の1.5倍以上で取引されている銘柄を避けるようにとも推奨している。もし過去10年間このルールに従っていたら、保険や銀行の株を除けば保有できる株はほとんどなかっただろう。グレアムの投資ルールは、もはや現代には通用しないのだ。(P.193)
→グレアムの公式は、1934年から1972年のあいだに4度も破棄され、更新された。
 
【現金を保有する意味】
誤りの余地をつくることは、リスクをあまり取ろうとしない人や、自分の考えに自信がない人のための消極的な方法だと思われがちだ。だが、誤りの余地を適切に使えば、まったく逆の効果が得られる。
誤りの余地を残しておくほど、どんなことにも耐えやすくなる。この耐久力があるからこそ、時間を味方につけ、長期間にわたって勝負を続け、低確率の結果からしか得られない最大の利益を手に入れやすくなるのだ。
最大の利益を手にする機会はめったに起こらない。なぜなら、そもそも発生する頻度が少ないし、福利の効果が生じるには時間がかかるからだ。
たとえば、現金を十分に保有することで誤りの余地を残しておき、別の資金で株式投資をするとしよう。この場合、ある戦略(現金)で余裕をつくっているので、別の戦略(株式)で厳しい状況が続いてもそれを途中で投げ捨てることなく、長く持続できる。一方、誤りの余地を設けていない人は、株で失敗するとそれに耐えられず、ゲームオーバーになってしまう。(P.205~206)
→証券口座に投資金額と同等の現金を預けておくと、リスクヘッジになる。
 
【貯金の目的は無くていい】
私はたくさん貯金をしている。だが、その貯金を将来何に使うのかはわからない。既知のリスクに備えるだけのファイナンシャルプランでは、現実社会を生き延びるための安全域を確保できないからだ。あらゆる計画についてもっとも重要なのは、計画通りに進まないことを想定して計画を立てることなのである。(P.215)
 
【どの投資ゲームに参加しているのか自覚すること】
「今日、自分はグーグルの株をいくらで買うべきだろうか?」と自問してみてほしい。
その答えは、「あなた」が誰であるかによって決まる。
30年という長期的なスパンで投資を考えている人なら、グーグルの今後30年間の割引キャッシュフロー[DCF:将来のキャッシュフローの予測に基づいて算出した投資資産の現在価値]を冷静に分析すれば、価格を見極められる。
10年以内に売却したいのなら、IT産業の今後10年間のポテンシャルやグーグルの幹部が同社のビジョンを実行できるかどうかを分析することが、妥当な価格を割り出すのに役立つだろう。
1年以内に売りたいのなら、グーグルの現在の製品販売サイクルや、下げ相場になる可能性に注目すべきだ。
デイトレーディングをしている人なら、長期的な視点での賢明な価格など「どうでもいい」ことになる。今この瞬間からランチタイムまでのあいだに起こる変化から、わずかな差額を搾り取ろうとしているだけだからだ。儲かるのであれば、どんな価格でもかまわない。
どんな資産クラスでも、投資をする人によって、目的や時間軸は異なる。そのため、ある人にとっては馬鹿げた価格でも、別の人にとっては意味のある価格になる。人によって、何を重視するかは違うからだ。(P.243~244)
→自分がどのゲームに参加しているのかを明確にする。他のゲームのルールに引き摺られないように、紙に書いて貼り出すくらいのことをしてもよい。
 
【悲観論の影響が大きい理由】
成長は複利によって大きくなるが、その実現までには時間がかかる。一方で、破滅はわずか数秒で起こる。単一障害点や、一瞬で起こる信頼の喪失によって生じる。
悲観論に基づいてストーリーをつくるのは容易である。ストーリーの材料となる出来事が、まだ人々の記憶に新しい場合が多いからだ。一方、楽観論に基づいてストーリーをつくるには、「成長とは長い時間をかけて実現される」ことを示す歴史に目を向ける必要がある。そのためには、遠い記憶を辿らなければならない。
医学の進歩を例に取ろう。去年1年だけ見ても、大きな医学の進歩は感じられないかもしれない。10年単位で見ても特段の進歩は見当たらないだろう。だが過去50年を振り返れば、驚異的な進歩が見えてくる。
たとえば米国立衛生研究所(NIH)によると、心臓病による1人当たりの年齢調整死亡率は、1965年以来、7割以上も減少している。これは、毎年、アトランタの人口と同等の約50万人もの米国人の命が救われていることを意味する。(P.270~271)
→この読書メモも、10年、20年と続けると大きな違いを生むかもしれない。