ねこみんの投資生活

ふつうの塾講師が適応障害をきっかけに投資を勉強していくブログです

【読書35冊目】一生「投資」で迷わない行動科学の超メソッド 富の法則 ダニエル・クロスビー

【事象は基本的な原理の組合せ】
作家のジョン・リードは著書「Succeeing」(未訳)のなかでこう述べている。
 
ある分野について学び始めたときは、覚えなければならないことが無数にあるように思える。だが、実際にはそんなことはない。必要なのは、その分野を支配している、核となる原理を知ることだ。覚えなければならないと思っていた100万個の事柄は、この基本的な原理の様々な組み合わせにすぎないのだ。(P.15)
 
【良い投資行動は直感に反する】
良い投資行動をすることの難しさは、投資をする人がその重要性を理解しても、それは本来私たちにとって自然だと感じにくいものであることだ。(P.58)
→投資行動を仕組み化・ルール化することでその不自然だと思う感覚に抗うことができる。
 
【アドバイザーを利用するメリット】
手数料に敏感なことで有名な資産運用会社のバンガード[訳注/米国・ペンシルベニア州で創業された世界最大級の運用会社のひとつ]は、「アドバイザーのアルファ」と題した独創的な論文のなかで、有能なファイナンシャル・アドバイザーのサービスを利用することで得られる付加価値は、年間およそ3%であると見積もっている。ただしこの論文は、3%の差がスムーズかつ直線的に達成されるわけではないことを指摘している。アドバイザーを利用することのメリットは、投資をする人が大きな不安や欲を感じる時期に偏って得られている。この事実は、次に説明する第2の真実を予感させるものだ。それは「ファイナンシャル・アドバイザーを利用する最大のメリットは、資産運用よりもむしろ行動コーチとしての側面にある」というものだ。(P.60~61)
 
【予期することで狼狽は抑えられる】
「なぜ、自分の腕をくすぐってもくすぐったくないのか」と不思議に思ったことはないだろうか?その理由は、脳が「これから自分で自分のことをくすぐるぞ」と考えるからだ。実際に自分の腕をくすぐろうとするときには、あなたはそれを予期している。だから、誰かに腕をくすぐられたときのようなくすぐったさを感じないのだ。
「市場は変動するもの」という考えを持っていることも、同じ影響を生じさせる。予期することで、その影響は鈍らせることができるのだ。下落時にメディアの煽りに乗ってしまうと、経済的な損失だけではなく、行動上の損失という両刃の剣に切り裂かれることになる。だが、日頃から市場の下落は自然なものであり、逆にチャンスととらえられると考えていると、周りがパニックに陥っている状況で、利益を得られるようになるのだ。
(P.76~77)
 
【感情に振り回されないヒント】
感情は投資において、時間やリスク、適切な価格など、様々なものへの認識に影響する。感情に振り回されないようにするための実用的なヒントを紹介しよう。
1 激しい運動をする
2 問題を再定義する
3 カフェインとアルコールの摂取量を減らす
4 友人に相談する
5 すぐには反応しない
6 注意の対象をシフトさせる
7 感情に名前をつけて客観視する
8 考えや気持ちを書き出す
9 破滅的な思考に陥らないように気をつける
10 自分の力で変えられるものに目を向ける
(P.83)
 
【ストーリーの魔力】
IPO(新規株式公開)投資ほどストーリーの力が発揮される場もない。IPOはその定義上、新規性のある成長分野に焦点を当てていることが多く、対象となる企業は伸び盛りの時期に上場する傾向がある。ストーリーの力や、感情、見逃しへの恐れなどの要因が相まって、IPOはプロ投資家や個人投資家にとって極めて魅力的なものとなっている。だが、このような興奮は投資家に何をもたらすのだろうか。コリャティ、パレアリ、ビスマラらは、「IPOの価格設定:公開価格に含まれる成長率」と題した論文で、米国の平均的なIPOは、公開後の3年間で市場のベンチマークを年率21%下回ると述べている。このような大幅なアンダーパフォームにもかかわらず、今後IPO人気が衰えると考える十分な理由はない。そこには必ずストーリーがあり、投資家はそれに魅了されるからだ。(P.85)
 
【ゴールベースの投資】
個人のニーズをベンチマーキングすることは、業界用語で「ゴールベースの投資」の呼ばれている。各資産運用会社には独自のアプローチがあるが、おおまかな共通点は、個々のリターンニーズを明確にし、個人の目標に応じて資産をいくつかに切り分けて投資をすることである。
SEIインベストメンツは、早くからゴールベースの投資用のプラットフォームを展開してきた企業であり、幸運にも2008年の金融危機の直前からそれを実施してきた。そのため私のような研究者は、ゴールベースの資産管理のアプローチと、市場全体とリターンを比較する従来のアプローチの違いがどのような結果をもたらすかを観察できた。私が著書「ゴールベース資産管理入門:顧客志向の新たなアプローチ」(日経BPマーケティング)(ブリンカー・キャピタルの創業者チャック・ウィジャーとの共著)で書いたように、研究者はこの金融危機に際して2つの集団のあいだに次のような違いがあることを発見した。
 
【ゴールベース投資のパフォーマンス】
従来型の投資ポートフォリオを採用していた資産家
・50%が、ポートフォリオを完全に清算するか、少なくとも株式ポートフォリオ清算することを選択した。そのなかには現金をすぐには必要としない富裕層の顧客も含まれていた。
・10%が、株式の配分を大幅に変更し、25%以上削減した。
 
ゴールベースの投資戦略を採用していた投資家
・75%は変更なし
・20%は、当面のニーズに合わせて流動的な資産を増やしたが、長期的な資産はそのままにした。
(P.101~102)
→投資の目的と、それに合わせた計画を持つ投資家は、市場が変動しても慌てることなく投資を続けることができる。
 
ニュートンも株で大損⁉】
アイザック・ニュートンにまつわるある逸話は、自分自身の基準より他者との比較を求めようとする人に有益な教訓を示している。歴史上の偉大な思想家たちは、その死語に初めて天才として評価されるケースも少なくない。だがニュートンは存命中に称賛され、その名声から得られた経済的な利益を享受していた。ニュートンは巨額の資産をさらに増やそうと、国の借金を減らすために官民合同で設立された英国の株式会社「南海会社」に出資した。
英国政府は威厳を示すために、南海会社に南米との貿易独占権を与えたが、実質的に南米はスペインが支配していたために、この独占権は無意味なものだった。けれども、それを知らない投機家たちがこぞって南海会社の株を買ったため、同社の株価は高騰した。ニュートンはそれによってさらに資産を増やし、元金と多額の利息を手にして一度は撤退した。しかし、その後も南海会社の株価は上がり続け、(ニュートンよりもはるかに知性で劣る)友人たちはさらなる富を築いていた。
ニュートンはすでに十分な富を得ていたにもかかわらず、友人や隣人よりも資産が少ないという事実に耐えられず、株を買い戻した。だがその直後、株価は暴落してしまった。天才科学者だが、投資では他の人間と同じような行動を取ってしまったニュートンは、後に「星の動きは計算できるが、人間の狂気は計算できない」と語ったと伝えられている。
(P.106~107)
→世に言う「南海泡沫事件」である。世界史には、このような例は枚挙に暇がない。
 
【アナリストは中立ではない】
リサーチアナリストには、企業の株価を酷評するアナリストは、その企業から重要な情報源を与えられないという職業上の障害もある。会社の幹部との接触やIR担当者からの情報が、より「協力的」な他のアナリストにのみ提供されるというケースも十分に考えられる。アナリストの大半は顧客から直接報酬を得ていない。アナリストが作成した推奨事項やレポートが、所属する企業の株式ブローカーによって手数料ビジネスのして販売されることが収入源になっている。根深い問題のひとつは、アナリストが「買い」を提供することで得られる圧倒的なインセンティブである。(P.116~117)
→ジョエル・グリーンブラットの説明
 
【マイナス変動も売らなければ損失にならない】
「絶対に損をしない」を投資の第一のルール、「第一のルールを忘れない」を第二のルールとするウォーレン・バフェットについて再度考えてみよう。彼の率いるバークシャー・ハサウェイの株価は変動が激しく、1980年以降だけでも4度も約50%下落している。ある意味で非常にリスクが高いが、バフェットは一度もこのリスクを現実化したことはない。なぜなら、同社の株を一度も売却していないからだ。
ボラティリティを重視する投資家なら、この35年間で何度もバークシャーの株を売っていただろう。幸い、投資の神様と呼ばれるバフェットは、師であるベンジャミン・グレアムの「真の投資家は、保有株式の価格が下落したからといって損失を被ることはない。つまり、下落が起こるかもしれないという事実は、彼が真の損失のリスクを負っているということを意味しない」という言葉を理解している。(P.146~147)
ボラティリティは価格の変動だが、それは直ちに永久的な損失を意味するわけではない。下落したときに狼狽して売らない限りは。
 
【株式はリスク資産か】
過去30年間では、株式はインフレ調整前後で平均7.4%のリターンを上げているが、債券の実質リターンはわずか1.4%にとどまっている。年平均で年間500%アウトパフォームし、一貫性のある資産クラスを何と呼ぶべきかはわからないが、私はこれをリスク資産とは呼ばないだろう。(P.148~149)
 
【チェックする頻度が多いと損失を目にする機会も多くなる】
グレッグ・デイヴィスによれば、毎日証券口座をチェックしていると、41%の確率で損失を目にすることになる。人間には得をしたときの喜びよりも損をしたときの苦しみを2倍強く感じる特性があることを考えると、これはかなり恐ろしい。確率上、証券口座を確認するのを5年に一度にすると損失を目にする確率は12%程度になり、12年に一度にするとまったく損失を目にしないことになる。12年は長いと思うかもしれないが、一般的な投資人生の長さは40年から60年であることを忘れてはならない。(P.149)
 
【インデックスはパッシブではない⁉】
S&P500のようなパッシブインデックスには、実際にはパッシブではないという隠れた事実がある。同指数を算出している、スタンダード・アンド・プアーズ社の規程では、「主要産業における主要企業」を指数に含めることで、広範な米国経済を反映した銘柄のリストを選択すると定められている。ロバート・アーノットは著書「ファンダメンタル・インデックス」(東洋経済新報社)のなかで、同社の手法について次のように説明している。
「このプロセスは主観的であり、ルールに完全に基づいているわけではなく、定型的でもない。S&P500はインデックスではないと主張する人も多い。なぜなら、それは委員会のメンバーーメンバーが誰かは厳重に守られた秘密になっている!ーによって選ばれたアクティブ運用のポートフォリオであり、近年に見られたような追加と削除の歴史を通じて、著しい成長バイアスを示してきたからである。(中略)その結果、S&P500には、最近の業績低迷を改善する可能性のある銘柄よりも、"人気のある"銘柄や最近好調な銘柄が追加される傾向があるのだ」
つまり、市場指数とは人間のアクティブな介入の産物であり、それゆえ、一般投資家を悩ませるのと同じ様々なバイアスに陥りやすいのである。(P.172~173)
→ハイテク株が隆盛の折、規程を無視した銘柄追加が行われたことが分かっている。客観的なはずの指数が、実は主観的なものであったという衝撃の事実
 
【行動リスクの5つの側面】
エゴ
情報
感情
注意
保護
(P.190)
 
【エゴリスクの例】
・選択支持バイアスー過去の投資判断を肯定的に評価し、選択しなかったことを低く評価する傾向のこと。
・確信ー自分には実際以上の能力や知識があると感じること
・確証バイアスー自分の投資判断の正しさを裏付ける情報を探し出そうとし、不都合な情報を無視しようとする傾向のこと。
・授かり効果ー自分が所有しているという理由だけで、株式に実際以上の価値があると感じる傾向のこと。
・センメルヴェイス反射ー自分の大切な考えや意見に反する情報を反射的に拒否すること。
・コントロール幻想バイアスー実際以上に市場の結果をコントロールできると思い込むこと。
・フォールス・コンセンサスー自分の投資アイデアに他人が同意する程度を過大評価すること。
(P.190~191)
 
【情報リスクの例】
・事前確率の無視ー目を引く情報を優先し、確率を無視する傾向のこと。
・盲点バイアスー他人の思考の欠陥は認識できるが、自分の思考の欠陥は認識しにくいこと。米国の政治家ドナルド・ラムズフェルドは、これを「未知の未知(知らないことに気づいていないこと)」と呼んだ。
・情報バイアスー投資判断をする際に、どんなに些細なものでも、情報が多ければ多いほど良いという誤った思い込みのこと。
・曖昧さ回避ー未知のリスクより既知のリスクを好むこと。
・保守性バイアスー「未来は最近の過去によく似ている」という誤った考えに基づき、新しい情報を積極的に取り入れようとしないこと。
・凡俗法則ー些細な情報を重要視する傾向のこと。
・正確性バイアスー市場の暴落とその潜在的影響を過小評価すること。
(P.192~193)
 
【感情リスクの例】
・感情ヒューリスティックー現在の感情の状態にリスク認識が影響を受ける傾向のこと
・共感ギャップー意思決定時に、感情の影響を過小評価し、論理的思考を過大評価すること
・ネガティビティ・バイアスーポジティブな出来事よりもはるかに強力にリスク認識に影響を与える、ネガティブな出来事や思考に意識を向けてしまう傾向のこと。
・楽観主義バイアスー「自分は他人よりネガティブな出来事を経験しにくいはずだ」という誤った思い込み。
・ダチョウ効果ーリスクが存在しないふりをして、リスクを回避しようとすること。
・リスク補償行動ーリスクの主観的な経験に応じて、リスク行動を調整しようとする傾向(たとえば、シートベルトを着用しているドライバーは、スピードを上げやすくなる)。
・自制バイアスー激しい感情を経験していても、衝動をコントロールできるという誤った信念のこと。
(P.194~195)
 
【注意リスクの例】
・アンカリングー投資判断を行う際に、最初に目にした情報(たとえば、株式に支払った価格)に過度に依存する傾向があること。
・可用性バイアスー情報の思い出しやすさと、その影響や確率を混同してしまうこと。
・注意バイアスーあるテーマについてよく考えていると、それを過度に重要だと見なしてしまう傾向のこと。
・ホームバイアスー国内銘柄を、外国銘柄よりも安全でわかりやすいと見なしてしまうようなバイアスのこと。
フレーミング効果ー利益と見るか損失と見るかで、リスクが変わる傾向のこと。
・単純接触効果ーある企業のことをよく知っていると、その企業の株式のリスクが実際以上に低いと感じられる傾向のこと。
(P.196)
 
【保護リスクの例】
・損失回避バイアスー利益と損失の非対称的な関係。利益で得られる喜びより、損失で生じる痛みのほうがはるかに大きいと感じる。
現状維持バイアスー人間には現状維持を好む傾向があること。
・サンクコストの誤謬ー過去の損失を取り戻すために、さらなるリスクを負わなければならないと考えてしまうこと。
正常性バイアスー過去にあったものはこれからもずっとあると思い込むこと。
・ゼロリスク・バイアスーリスクを大幅に低下させ得る他の選択肢がある場合でも、対象となるリスクを完全に取り除こうとする傾向のこと。
・ディスポジション効果(気分効果)ー値上がりした銘柄を早く売り、値下がりした銘柄を長く保有しようとする投資家の傾向のこと。
・双曲取引ー将来発生する報酬を、現在発生する報酬よりも大幅に割り引く傾向のこと。
(P.198)
損切りせずナンピン買いに走るのは、サンクコストの典型例。
 
【行動の罠を避ける4つのC】
RBI(Rule-based Behavioural Investing ルールベースの行動科学的投資手法)というシンプルだがエレガントなプロセスによって、私たちが陥りやすい行動上の罠の大部分は避けられるようになる。このプロセスは次に示す「4つのC」によって簡単に避けられる。
①一貫性(Consistency)ーエゴや感情、喪失回避から解放されて、首尾一貫した方法での実行に注力できるようになる
②明確さ(Clarity)ー確かな裏付けのある情報を優先し、恐ろしいがありそうもないことを心配したり、刺激的だが役に立たないことを心配したりする誘惑にかられないようにする。
③勇気(Courageousness)ー逆張りのプロセスを自動化する。すなわち、頭では最善とわかっているが、心臓や胃の反応によって躊躇しているものを実行する。
④確信(Conviction)ー謙虚になるために十分に分散化され、長期的なアウトパフォームを実現するために十分に集中したポートフォリオを作成することで、思い上がりと恐怖の境界線をうまく歩けるようにする。(P.200)
 
【人はモデルの一貫性に勝てない】
ルイス・ゴールドバーグは1968年、精神疾患を評価するモデルベースのアプローチと、訓練を受けた臨床家の臨床判断のパフォーマンスを比較分析する研究を行った。この単純なモデルのパフォーマンスは、臨床家より優れていただけでなく、モデルへのアクセスを与えられた臨床家よりも優れていた。
またモデルは、最高裁判決、大統領選挙、映画の好み、刑務所での再犯率、ワインの品質、結婚生活の満足度、軍事的成功などをはじめとする45以上の領域における結果の予測において人間を上回っていることが示されている。ウィリアム・グローブ、デイビッド・ザルド、ボイド・ルボー、ベス・スニッツ、チャド・ネルソンが実施したメタ分析では、モデルは 94.12%の確率で専門家の意思決定と同等以上の成績を上げている。つまり人間の裁量による判断に5.88%しか負けていない。
(P.209)
→ルールやシステムに乗っかる方が、安定的に結果を出せる。
 
【長期投資ではタイミングはさほど重要ではない】
スター投資信託マネージャーであるピーター・リンチは、1965年から1995年までの30年間を対象とした研究で、タイミングは長期投資にほとんど影響しないことを明らかにした。リンチによれば、一年間のうち株価が最も低い日に毎年投資した場合、その期間のリターンは年率11.7%であったのに対し、一年間のうち株価が最も高い日に投資した場合は年率11%であった。(P.232~233)
 
【銘柄選択の5つのP】
①価格(Price)
②プロパティ(Property)
③落とし穴(Pitfall)
④人(People)
⑤プッシュ(Push)
(P.257)
 
【株価の下落は商品の値下げに同じ】
「あなたが、死ぬまでハンバーガーを食べ続けたいと思っていて、牛の生産者ではないのなら、牛肉の値段が高くなってほしいと思うだろうか、それとも安くなってほしいと思うだろうか?」
答えは明らかだ。ハンバーガーの消費者は、できる限り牛肉の価格が安くなることを望む。
バフェットは次のように続ける。
「では、ここで最終問題だ。もしあなたが今後5年間、ひたすら投資に励むとしたら、その期間に期待すべきは株式市場の上昇だろうか、それとも下落だろうか?投資家の多くはこの点を誤解している。これから何年も株を買い続けることになるにもかかわらず、株価が上がれば喜び、下がると落ち込むのだ。これは、これから買い続けることになるハンバーガーの価格が上がるのを喜んでいるのと同じだ。株価の上昇を喜ぶべきなのは、近い将来に株の売り手になる人だけだ。株を買うことを検討している人は、株価の下落を喜ぶべきなのだ」(P.261~262)
 
【ビオトロスキーFスコア】
ビオトロスキー教授は、後に「ビオトロスキーFスコア」と呼ばれるようになった、9つのクオリティ指標に注目した。Fスコアは、収益性やレバレッジ、営業効率を考慮して、現在、当該の企業がしっかりとした財政基盤を持っているか、そして何より良い方向に向かっているかどうかを判断するというものだ。Fスコアでは、各指標でポジティブに評価されると1ポイントが与えられ、最大9ポイントとなる。
9つの指標は以下の通りである。
①営業利益ー営業利益はプラスか?
②営業キャッシュフローー前年度比の営業キャッシュフローはプラスか?
総資産利益率(ROA)ーROAは前年比で改善されているか?
④収益のクオリティー前年度の営業利益率はROAを超えているか?
⑤長期債務と資産ー長期債務は資産と比較して減少しているか?
流動比率ー運転資本は増えているか?
⑦発行済み株式数ー前年に株式の希薄化はあったか?
⑧粗利益率ー利益率は前年比で増加しているか?
⑨資産回転率ー売上高は資産価値と比較して増加しているか?
(P.283)
 
【騙されやすさの構造】
心理学社のスティーブン・グリーンスパンの著書「Annals of Gullibility:Why We Get Duped and How to Avoid It(騙されやすさの歴史:人が騙される理由とその回避方法)」(未訳)には、トロイの木馬や、イラクでの大量破壊兵器の発見の失敗、常温核融合を取り巻く悪い科学など、人の騙されやすさが顕在化した有名な事例が概説されている。同書は逸話を中心にして書かれているが、最終章では騙されやすさの構造の解明に取り組み、それは以下の要因の組み合わせによるとしている。
・社会的圧力ー詐欺は、同じような宗教的背景を持つ人々など、「親しみを覚えやすい集団」の内部で行われることが多い。
・認知ー騙されるということは、ある程度、知識や論理的な思考が欠如していることを表している(ただし、必ずしも知性の欠如ではない)。
・性格ー思い込みが激しく、「ノー」と言えない性格の人は、利用されやすい。
・感情ー何らかの感情的報酬(簡単にお金を稼げるというスリル)を期待することは、騙されるきっかけになりやすい。
(P.292)
 
【パフォーマンスの事前検証】
平均的な投資家は、アンダーパフォームした銘柄を事後検証して問題点を探り、その教訓を次回に活かそうとする。だが優れた投資家は、期待されるパフォーマンスが何かを事前検証し、それに応じて軌道修正をしていく。
トレーダーで心理学者のブレット・スティーンバーガーはこの概念について、「私の勝ちトレードのほとんどは、ネガティブな視点で"もしも"のシナリオをリハーサルし、撤退戦略をシミュレーションすることから始まっていた。逆に、最悪のトレードはどれくらい利益が得られるかという見積もりから始まっていた」と述べている。
投資意思決定理論家のマイケル・モーブッシンは、この概念を理論化し、5項目から成るチェックリストを作成している。
①代替案を検討するー意思決定は他の選択肢を考えずに行うべきではない。意思決定が適切かどうかは、他の選択肢との比較によって初めて判断できる。「次善策は何か?」と自問しよう。
②反対意見を求めるー他人に、自分の考えの間違いを指摘してもらう。反対意見を拒絶せず、まずは受け入れてみよう。「私の考えはどこでズレているのか?」と自問しよう。
③過去の意思決定を記録するー意思決定を下した理由をその瞬間に書き留めておこう。記録を後で読み返し、明確な思考をしていたかを判断する。「過去の意思決定で失敗した原因は何か?」を自問しよう。
④極端に感情的になっているときは、意思決定を避けるーストレスや恐怖、貪欲、興奮はリスク認識に影響を及ぼす。意思決定には何らかの感情が伴うが、極端な感情は論理的な思考を鈍らせる。「今は感情的に正しい意思決定ができる状態だろうか?」と自問しよう。
インセンティブを理解するー金銭的なインセンティブが投資上の意思決定の原動力であるのは間違いないが、他にも考慮すべきインセンティブはある。投資家は、評判やキャリアに関するリスクも大きなモチベーションになっていることを認識すべきである。「私は何を得て、何を失う立場にあるのか?それが自分の認識にどう影響しているか?」と自問しよう。
(P.297~298)
 
【配当の変動幅は株式市場そのものより小さい】
配当が好ましいものである大きな理由は、保証はされていないが、株式市場そのものより変動が小さな傾向があることである。ベン・カールソンによれば、「1929年9月から1932年6月にかけて、インフレ調整後のS&P500指数で測定した株価指数は81%下落した。しかしその間、インフレ調整後の配当は11%しか減少していなかった。1973年1月から1974年12月にかけて市場が54%下落したときも、実質配当金は6%しか下落しなかった」。
配当は好況時に良いものであるだけでなく、不況時には欠かせないものだと言えるだろう。(P.319)
 
【低価格・高モメンタム】
高価格、低モメンタムのポートフォリオの年率リターンは期待外れの0.36%だったのに対して、低価格で高モメンタムのポートフォリオは19.44%という驚異的な数字を示したのである。モメンタムとファンダメンタルズを組み合わせるのをブードゥ教と呼ぶのなら、私は喜んで針と人形を手にするだろう。(P.333)
→まだ割安だが成長が目覚ましい企業に投資するリターンは大きいということ。勢いの観察と企業分析は両立すると考えてよい。