ねこみんの投資生活

ふつうの塾講師が適応障害をきっかけに投資を勉強していくブログです

【読書51冊目】決算書✕ビジネスモデル大全 矢部謙介

【決算書を読み解くにはビジネスへの理解が不可欠】
決算書は、いわば 会社にとっての「通知表」のようなものです。下の図に示すように、経営者は、決算書を見ることで自分たちのビジネスが成果を生み出しているかどうかを把握しています。また、こうした決算書のデータから、経営上の問題点などを分析し、次の打ち手や ビジネスモデルを考えるために活用しています。
つまり、決算書とビジネスはそれぞれが独立して存在しているのではなく、相互に結びついていると考えるべきです 苦点 経営の結果は決算書へと反映され、決算書を見た経営者はそれを元に次の手を考えているわけです。ですから、決算書の数字だけを見ていてもその意味を掴むことはできません。決算書を読み解くためには、その会社が手掛けているビジネス そのものに対する理解が必要不可欠なのです。(P.1〜2)
 
【ドラッグストアの収益構造】
一般にドラッグストアでは、食品の原価率が高い(粗利益率が低い)ため、安い食品を目玉として集客し、 医薬品や化粧品で利益を上げる構造になっていると言われます。しかし、コスモス薬品は売上の主軸の食品です そのため、コスモス薬品の原価率は80%と高いのです。
では、原価率が高いにも関わらず、なぜ コスモス薬品はツルハHDと同水準の売上高営業利益率5%を確保できているのでしょうか。
その理由は、「ローコストオペレーション」の徹底にあります。先に述べたように、コスモス薬品の販管比率はツルハHDに比べて低くなっています。原価率の高さを販管費率の低さでカバーしているのです。
ドラッグストアの販管費の多くを占めるのは 人件費です。そこで、売上高に占める人件費の割合(法定福利費を除く)を試算して比較すると、ツルハHD が10%であるのに対し、コスモス薬品では7%にとどまっています。また、コスモス薬品では決済 手数料のかかるクレジットカードや QR コード決済による支払いにもほとんど 対応していません。
コスモス薬品では、このような積み重ねによりローコストコスモス薬品では、このような積み重ねによりローコスト 経営を徹底し、低価格を売りにしたディスカウント業態でありながらも売上高営業利益率5%という 収益性を確保しているのです。(P.72)
 
【セリアが雑貨中心の理由】
セリアにおける2021年3月期の有価証券報告書における仕入れ実績と販売実績から、商品区分別の原価率を簡易的に試算してみると、雑貨 が 57%であるのに対し、菓子食品では 75%と高くなっています 。したがって、100円ショップの原価率を引き下げる上では、食品の割合は低い方が有利になります。雑貨の商品力を高めるとともに、食品の売上割合を引き下げてきたことが、セリアの高い収益性に結びついていると言えそうです。(P.80)
→他にも直営店での売上の割合が高いこと(フランチャイズ店への卸売りの場合は原価率が高くなる)や、スケールメリットといった要因も、セリアの利益率の高さに貢献していると考えられる。
 
ニトリの物流システム】
ニトリHD はSPAをさらに深めた「製造物流IT小売業」を自認していると言います。また、2020年11月20日付の日本経済新聞朝刊によれば、(2026年頃までの)5年間で国内の物流施設やシステムに対し 最大で2000億円を投資し、全国に自社物流センターを新設する予定で、物流センターと店舗の在庫情報を一元化する計画だとされています。2022年2月期の有価証券報告書においても、北海道、埼玉県、愛知県、兵庫県に物流センターを新設する計画が記載されています。こうした取り組みが、物流コストの削減や、棚卸資産回転期間の短縮に貢献していると推測されます。
(中略)
このように在庫を最適化するメリットは主に2つあります。ひとつは、売れ残った 在庫を値下げして処分する必要がないため、原価率の上昇を抑えることができる(粗利益率を高くできる)こと、そして もうひとつは 在庫に投じる資金が少なくて済むため、資金効率の向上につながることです。(P.111〜112)
→工場や物流センターを保有しているため、有形固定資産は大きいが、その分棚卸資産を圧縮するとともに、原価率や販管費率を低く抑えて高い収益性を確保している。
 
【製薬メーカーの原価率が低い理由】
新薬主体の製薬メーカーの場合、新薬を特許により独占的に生産することができるため、薬価は高く設定されます。そのため、新薬の原価率は非常に低くなります。医薬品メーカーの生命線が大型新薬の開発の製品にかかっているのは、こうした理由があるからです。
その一方で、新薬特許の有効期限は出願から20年程度とされています。特許切れ医薬品には 薬価の低いジェネリック医薬品後発医薬品)が登場するため、大型新薬が特許切れを迎えると、医薬品メーカーの収益性は大きく低下してしまう リスクを抱えています。医薬品メーカーの業績を見る際には、こうした点に注意しなければなりません。(P.116〜117)
 
【海外事業が中心のJT
JT では 度重なる海外企業の M & A と IFRS国際財務報告基準)の適用を経て、事業別営業利益のほぼ 7割を海外タバコ事業によって稼ぎ出す グローバル企業へと変貌を遂げました。
そんな JT は、2022年3月10日に ロシアでの事業に関して「新規の投資及び マーケティング活動について 一時的に停止」すると発表しました。発表時点ではロシアに保有する4つの工場の稼働 や 約4000人の従業員の雇用を維持する方針を明らかにしていますが、今後の事業環境が大幅に改善しない限り、ロシア 市場における製造を一時的に停止する可能性もあるとしています。加えて、JTウクライナで約1000人の従業員を抱えており、製造を含むオペレーションは停止している状況でした。
業績に対する懸念により、 JT の 株価(終値)は進行前の2022年2月18日における2344円から、進行後の2022年3月11日時点では 2012円まで下落しました(P.145)
→海外事業が国際情勢によって影響を受ける事例。JTもその例に漏れなかったとは。
 
【堅牢な財務でリスクヘッジするサカタのタネ
サカタのタネによれば、「育種10年」という言葉もあると言います。育種の間には、気候変動をはじめとした様々な環境変化が起こるため、種の開発がうまくいかないことがあります。育種は自然環境のリスクと隣り合わせで行われているのです。同社の坂田宏社長も種の開発は「無駄の繰り返し」だと述べています(日経ビジネス2020年7月20日・27日号)。
サカタのタネが財務的な安全性を追求しているのは、こうしたリスクに対応できるようにするためなのです。(P.159)
サカタのタネ自己資本比率は85%前後で推移している。
 
【CF計算書はごまかしが利きにくい】
CF 計算書は粉飾決算を見抜く上でも重要な武器となります。粉飾決算を行っている企業では、 PL はきれいに見えるよう お化粧されていますが、 CF 計算書には苦しい台所事情が現れてしまうのです。
なぜなら、預金の金額をごまかすことは難しいからです。会計監査を行うにあたって、会計監査人は必ず取引のある金融機関に対し、預金残高を直接確認します。 そのため、仮に現預金の残高を改ざんするような粉飾決算を行ったとしても、すぐに会計監査人に発見されてしまいます。(P.211〜212)
 
【営業CFがマイナスの企業に注意】
粉飾決算 企業や 倒産企業の営業活動によるキャッシュフロー(営業 CF )は、マイナスになっていることが多くなります。こうした会社では、そもそも 本業がうまくいっていないためです。営業 CF がマイナスであるということは、事業を継続すればキャッシュの流出が続くことを意味しています。こうなると、経営は危機的な状況ですから、投資活動によるキャッシュフローを(投資 CF )や財務活動によるキャッシュフロー(財務 CF )でなんとか 資金繰りをカバーしようとします。具体的には、資産売却により資金を捻出したり、あるいは取引のある金融機関から追加で借り入れを行ったり、といった 金策に走ることとなります。(P.212)
 
【売上債権や棚卸資産による粉飾】
FOIにおいて売上債権が大きく増加していたのは、架空売上を計上する 粉飾決算を行っていたためです。売り上げが架空である以上、その売上代金は決済されませんから、結果として 売上債権が滞留し、積み上がっていくこととなります。
また、売上債権の一部を棚卸資産に付け替えたり、棚卸資産を課題計上することで 売上原価を過小に見せたりすることも行われるため、粉飾決算企業では 棚卸資産も課題になっているケースが多いのです。
(P.222)
 
粉飾決算を見抜く上で有用な手法として、回転期間指標を用いた分析があります。
回転期間指標とは、 BS に計上された 売上債権(受け取り手形や 売掛金)、在庫(棚卸資産)、仕入債務(支払い手形や 買掛金)が 売上高の何日分に相当するのかを見る指標です。言い換えれば 、売上債権回転期間は売上債権が現金として回収されるまでの期間、棚卸資産回転期間は在庫を仕入れてから販売するまでの期間、仕入れ債務回転期間は在庫を仕入れてから仕入れ代金を支払うまでの期間の目安となります。
架空売上の計上や 売上計上の前倒しといった 粉飾 が行われた場合、売上代金のみ入金や入金の遅れなどが発生するために、売上債権回転期間が不自然に長期化するといった形で粉飾の兆候が現れることがあります。そのため、回転期間分析は粉飾を見抜く上で強力なツールになるのです。(P.261〜262)