ねこみんの投資生活

ふつうの塾講師が適応障害をきっかけに投資を勉強していくブログです

【読書41冊目】教養としての「会計」入門 金子智朗

【株式会社の起源】
世界初の株式会社は、1600年にイギリスが香辛料などの東方貿易のために設立した東インド会社です。ヨーロッパから東南アジアまでの長距離にわたる航海は、当時は非常にリスクが高く、無事帰って来られる可能性は決して高いものではありませんでした。一方で、航海に必要な資金は多額に上りますが、そんなリスクの高いビジネスに1人で多額の資金を出す人などいません。
そこで東インド会社では、それまで一致しているのが当たり前だった所有と経営を分離し、出資額を小口化し、経営に携わらない人が少額の出資をできるようにしました。そうすれば、仮に航海が失敗しても、個々の出資者が被る被害は最小限で済みますから、資金を出しやすくなります。1人の出資額は少額でも、多数の人から資金を調達できるので、多額の資金調達が可能です。こうして、東方貿易というリスクの高いビジネスにおいて多額の資金を調達することを可能にしたのです。まさに、現在の株式会社の原型です。(P.21)
 
【貴族が出入金の報告=会計を求めた】
リスクは分散されたとはいえ、出資者となるのは貴族などのそれ相応の人たちが多かったと思います。お金を出した貴族たちは、乗組員たちが東方貿易を成功させ、出資額以上のお金を返してもらうことを期待しています。
しかし、港を出てしまえば乗組員たちは出資者である貴族の目の届かないところに行ってしまいます。長い航海です。もしかしたら、寄る港寄る港で酒を買いあさり、ギャンブルに明け暮れているかもしれません。
それでは困るので、貴族たちは乗組員たちに航海中のお金の出入りを記録させ、港に戻ってきたら貴族に報告させる仕組みをつくり、乗組員たちに課しました。
これが、財務会計です。(P.21~22)
 
財務会計は貴族=株主のための会計】
現在も、行われていることは基本的に全く同じです。現在の会社に置き換えれば、貴族が株主、船長が社長、乗組員が従業員、乗っている船が会社です。
会計期間は航海期間です。イギリスが設立した東インド会社は航海ごとに清算する方式を取っていましたので、実際に航海期間が会計期間になっていました。その後、オランダがイギリスに対抗して1602年に設立した東インド会社では、いちいち清算することをせず、企業は継続することを前提にしました。現在のゴーイング・コンサーンの原型です。これによって、人為的な会計期間である年度という概念が誕生したわけです。
そして、港に戻ってきたときに貴族に対して行う報告が、現在の定時株主総会です。定時株主総会のメインイベントは、決算報告に加えて、剰余金の分配に関して株主の承認を得ることです。剰余金の分配とは、いわゆる配当です。配当とは、今までの航海で稼いだ利益を貴族間で山分けすることです。
このために使われる会計が、財務会計なのです。ということは、財務会計は誰のための会計かと言うと、港で待っている貴族のための会計なのです。(P.22)
→歴史的な成り立ちを確認すると、物事の本質が見えてくる。会計も同様だ。
 
管理会計は乗組員=会社のための会計】
一方、乗組員たちは、そんな貴族たちとは置かれている立場がまるで違います。乗組員たちはヨーロッパから東アジアまでの長い道中、大海原で戦い続けている人たちです。たとえば嵐がやって来たら進路を変えるのか、航海そのものを止めるのか、判断しなければなりません。もしくは見知らぬ船が近寄ってきたら真っ向勝負で一戦交えるのか、逃げるのか、仲良くするのか、そういうことも判断しなければなりません。
嵐がやってくるというのはマクロ的外部環境の変化です。見知らぬ船が近寄ってくるというのは、思いもよらなかったライバル企業が出現したようなことです。
そういう変化に常にさらされていて、逐次判断をしなければならないのが乗組員の置かれている立場です。
そういう乗組員にとって有用な情報と、安全な港で結果を待っていればいい貴族にとっての情報が同じでいいわけがありません。乗組員には乗組員ならではの情報が必要なはずです。
それが、管理会計です。
ですから、管理会計は、乗組員のための会計です。乗組員にとって、海図や羅針盤となる会計なのです。(P.23)
 
【3桁ごとの数値の読み方】
日本の単位は4桁ごとに変わるのに、カンマは3桁ごとに打つということは、そこに1桁のズレが生じます。その結果、図表1-1(b)のように、カンマの左隣は千→万→億→兆と単位が1つずつ上がっていくのと同時に、ズレの分だけその頭に付く数は千→百→十→一と1つずつ下がっていくのです。このように考えると、少しは覚えやすくなるかもしれません。(P.31)
 
財産の増減を知るためには財産一覧表をつくる必要があります。ある時点で財産一覧表をつくり、一定時間経過後にまた財産一覧表をつくってみる。その2つを比べれば、財産が増えたのか減ったのかがわかります。
この財産一覧表が貸借対照表です。そして、正味財産が増えた状態が「儲かった」状態です。正味財産の増加分が利益です。
これで利益がわかりますから、財産一覧表である貸借対照表さえあれば良さそうなものです。では、なぜ損益計算書というもう1つの表が必要なのでしょうか。
ある一時点で作成する財産一覧表は、人間で言えば身長や体重などの体格を表す情報です。ある子供が身体測定で身長を測ったところ100cmだったとしましょう。その子が翌年の身体測定では身長が120cmになっていたとします。この2つの情報から、この子の身長が20cm伸びたことはわかります。その子は1年間でそれだけ成長したということであり、会社であれば、これが利益に相当します。
その子の身長が1年間で20cm伸びたことはわかりますが、これだけだと、なぜそれだけ伸びたのかがわかりません。その理由を知るためには、どのような食事をどれだけして、どのような運動をどれだけしてきたのかという、1年間の生活記録が必要です。
この生活記録に相当する情報が損益計算書です。損益計算書は、財産が増減するに至った一定期間のプロセスを記録したものなのです。(P.38~39)
損益計算書は売上高、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益当期純利益と、利益を段階に分けて計算していくため、どこで利益が生まれ、どこで減ったかが分かるようになっている。
 
【ストック情報とフロー情報】
財産一覧表である貸借対照表の情報は、ある一時点の瞬間情報を表しています。それはある瞬間に会社をカメラで撮影した、言わば静止画情報です。
それに対して、損益計算書は一定期間の幅を持った情報です。損益計算書は生活記録ですから、これは一定期間をビデオカメラで撮影した動画情報と言えます。
前者の静止画情報のことをストック情報と言い、後者の動画情報のことをフロー情報と言います。(P.40)
 
キャッシュ・フロー計算書は現金の増減プロセス】
「主要3表」と言われる財務諸表の最後の1つはキャッシュ・フロー計算書ですが、この「キャッシュ・フロー」とは何でしょうか。「キャッシュ」という言葉もありますが、なぜわざわざ「フロー」という言葉をつけているのでしょうか。
このフローは、先ほど説明したフロー概念のフローです。それに対して、「キャッシュ」はストック概念です。わかりやすく言えば、ある一時点における残高です。
キャッシュ・フロー計算書とは、キャッシュという特定財産の増減プロセスを見ているものということです。
ということは、財務諸表におけるキャッシュ・フロー計算書のポジションは、損益計算書と同じポジションになります。損益計算書が全財産の増減プロセスを表すものであるのに対して、キャッシュ・フロー計算書は、その中のキャッシュという特定の財産だけの増減プロセスを見ているという関係にあります。(P.41~42)
→キャッシュは現金預金のこと。
 
貸借対照表の左右の情報】
会社の資金調達先は、このように会社に出資してくれる人とお金を貸してくれる人に大きく分けられます。出資してくれた人が株主です。お金を貸してくれた人は一般的に債権者と言います。
債権者と株主のそれぞれから調達した資金の大きな違いは、会社から見て返済義務があるかないかです。債権者から調達した資金には返済義務があります。これを総称して、負債と言います。一方、株主から調達した資金には返済義務がありません。これを総称して、純資産と言います。
これらが、貸借対照表の右側の情報です。貸借対照表の右側は、会社が元手資金をどこから調達したかという資金の調達源泉を表しています。それを返済義務の有無に応じて負債と純資産とに上下に分けています。
起業の話の続きをしましょう。資金調達が終わると、会社は調達した資金を使ってビジネスに必要なものを買い揃えます。たとえば製造業ならば、土地、工業、設備、原材料などが必要でしょう。
これらが、貸借対照表の左側の情報です。貸借対照表の左側を総称して資産と言います。言わば、ビジネスに必要な"仕組み"です。貸借対照表の左側は、調達した資金を何に使っているかという、資金の運用方法を表しています。簡単に言えば、「調達資金の使途」ということです。(P.48~49)
 
貸借対照表が左右一対の理由】
現在の企業、特に上場企業の数多くの株主から資金を調達し、さらに銀行という債権者からも資金を調達するのは、特定の人の資金力に頼っていては到底できないビッグビジネスを可能にするためです。要するに、人様のお金を使ってビジネスをやっているということです。
株主と銀行から資金を出してもらううえでの約束は次の通りです。
●銀行に対して:期日になったら借りた資金は返済するまた、所定の利息を支払う
●株主に対して:調達資金は基本的に返済しない代わりに、正味財産が出資額を上回ったら配当として分配する
右記の「正味財産が出資額を上回った分」が利益です。つまり、利益とはあくまでも株主にとってのものであり、それは債権者に返済すべき分を控除した後の正味財産が、株主の出資額を上回った分だということです。それが明確にわかるようにするために、貸借対照表は左右一対の形をしているのです。(P.50)
→左側の資産が1000、右側の借り入れが600だとすると、400が会社の正味財産となる。株主の出資額(資本金)が300だとすると、利益が100となり、これが株主に配当として還元される。(内部留保=利益剰余金に回されるものもある)。これらを左右一対で分かるように表示したのが貸借対照表ということ。
 
【借方・貸方】
貸借対照表がそうであるように、会計は左右一対で情報を整理するのが好きです。左右はそれぞれ「左側」、「右側」と言えば十分なのですが、会計では左側のことを借方、右側のことを貸方と言います。
この不思議な日本語は、福沢諭吉によるものです。これは、資金提供者目線の言い方です。
福沢諭吉の時代、資金を提供する主役は銀行でした。ですから、決算書を主に利用するのも銀行でした。銀行からすれば、貸借対照表の右側は自分たちのお金を「貸している方」です。それに対して、貸借対照表の左側は「そのお金を借りてビジネスをやっている方」です。
これが、借方・貸方の由来です。そして、だから「貸借対照表」と言うのです。
貸借対照表の本質は財産一覧表ですが、その構造が「借方」と「貸方」を対比できる形をしているので、「貸」「借」を音読みして「貸借対照表」と言うのです。
英語で言えば、左右が常にバランスしていることから「バランス・シート(Balance Sheet)」と呼ばれるわけです。頭文字を取ってB/Sとも言われます。
貸借対照表という言葉もバランス・シートという言葉も、その構造上の特徴に由来しているのです。(P.51~52)
 
【資産と負債】
資産:将来、企業の経済的価値を増加させるポテンシャル
負債:将来、企業の経済的価値を減少させるポテンシャル
ここでの「経済的価値」は必ずしもキャッシュとは限りませんが、細かいことを抜きにすれば、ほぼキャッシュと読み替えて差し支えないでしょう。ということは、ざっくり言えば、資産とは、将来においてキャッシュを増加させる"正のポテンシャル"であり、負債はその逆の"負のポテンシャル"ということです。(P.52~53)
ロバート・キヨサキが「家は負債」と言うのは、個人の場合、家を購入してもキャッシュを増加させるどころか減少させるから。
 
【ワン・イヤー・ルール】
貸借対照表は左右とも、上から下に向かって流動性の順番で並んでいるのです。
流動性とは、換金性ということです。すなわち、どれだけ容易にキャッシュとして企業に入ってくるか、または出て行くかということです。
では、何をもって「容易」と言うのでしょうか。最も基本となる判断基準は、1年基準です。ワン・イヤー・ルールとも言います。すなわち、1年以内にキャッシュとして流出入が起こるものを「流動」、1年を超えてキャッシュとして流出入が起こるものを「固定」と言うのです。(P.55~56)
 
【資本と純資産】
会社を設立したときや増資をしたときは、株主が拠出した資金によって資産が形成されますから、このような場合は「資本」という言葉を使ったほうが実態に即しています。
一方、事業が回り始めた後は、知りたいのは資産から負債を控除した正味財産がどれだけになったかということですから、事業が回り始めた後は「純資産」という言葉を使ったほうが実態に即しています。(P.60)
 
【粗利=売上総利益=売上高-売上原価】
たとえば、ある企業が商品を70円で仕入れ、100円で販売したとします。100円がこの企業にとっての売上高であり、仕入の70円が売上原価です。その差額である30円が最初に出てくる利益です。この利益を売上総利益と言います。俗に、粗利とも言われます。
「粗利」は「そり」と読まないように気をつけてください。また、「あらり」という音に引きずられて「荒利」と書かないようにも注意してください。「荒っぽい利益」ではなく、まだすべての費用を引いていない「粗削りな利益」という意味です。(P.69)
 
【日本で経常利益が重視される理由】
日本では、伝統的に経常利益が非常に重視される風潮がありますが、実はこの経常利益、日本特有の利益概念です。IFRS(国際会計基準)にも、米国基準にもありません。
日本で経常利益が重視されてきたのは、日本における資金調達が長年、銀行からの借り入れが中心だったことが理由の1つとして挙げられます。株式を発行して株式市場から資金調達をするのがそれほど特別なことではなくなったのは、上場を目指すベンチャー企業が日本でも増え始めた2000年頃からではないでしょうか。それでも大企業においては、現在でも新株発行をして資金調達をするのは極めて稀であり、相変わらず銀行からの借り入れが主体です。
そうなると、無借金経営をしているごく一部の企業を除いて、銀行に対する利息の支払いは恒常的に発生する費用ということになります。ある意味では本業に係わる販管費(販売費及び一般管理費)に準ずるような費用ということになります。ですから、支払利息を控除した後の利益を見なければ、企業の利益の程度の本当のところが見えてきません。それで、支払利息控除後の経常利益が重視される傾向があるのです。(P.76)
小室直樹氏が日本は本当の意味で資本主義社会にまだなっていない旨の主張をしていたが、それはこのような実態が背景にあったのかもしれない。
 
【子会社とは】
子会社の定義を一言で言うならば、「ある会社が他の会社の意思決定を支配している場合の当該他の会社」となります。キーワードは「意思決定の支配」です。議決権を50%超、すなわち過半数保有していれば、最高意思決定機関を支配していることになりますから、この場合は無条件に子会社になります。
これに対して、議決権の保有比率が50%以下であっても、意思決定を支配していると言えば子会社になります。典型的な具体例は、取締役の過半数を派遣しているような場合です。株主総会という最高意思決定機関を支配し切れていなくても、取締役の過半数を派遣していれば、実務上の意思決定機関である取締役会は支配できます。ですから、こういう場合も子会社になります。(P.88)
 
【連結財務諸表】
連結財務諸表は、親会社と子会社の財務情報をあたかも同一の会社のように統合したもので、子会社は一部門のように見えます。
連結ベースでないと実態が見えない例として、たとえば情報システムに関する業務があります。
情報システムに関する業務を実現するためには、社内に情報システム部門をつくって実現する方法もあれば、専門の子会社をつくって実現する方法もあります。
後者の場合、連結ベースで見ないと、親会社の資産には高額のハードウエアもソフトウエアも計上されず、損益計算書にはそれに伴う減価償却費もランニングコストも計上されません。それなのに、高度な情報システムが実現されていることになります。これでは社内に情報システム部門を持つ会社と公平な比較ができません。(P.89~90)
 
また、親会社が純粋持株会社の場合は、親会社単体を見てもほとんど意味がありません。
純粋持株会社とは、自らは事業を行わず、子会社を束ねるだけの会社です。「××ホールディングス」という会社は大体が純粋持株会社です。
このような会社における貸借対照表の資産は、子会社の株式がほとんどというイメージです。
また、損益計算書の収益は、ほとんどが子会社からの配当金です。自ら事業は行いませんので売上高は基本的にありません。その結果、利益はマイナスであることがほとんどです。
このような場合も連結ベースで見ないと意味がありません。純粋持株会社である親会社の財務諸表には、事業の実態が何も計上されていないからです。(P.90)
→立ち上げた別会社(子会社ではない)に製品を売って売上高を計上し、連結外しをすることで黒字にするケースの粉飾が発覚したことがある。
 
【関連会社】
関連会社の定義は、「ある会社が他の会社の意思決定に重要な影響を与える場合の当該他の会社」です。子会社のように「支配」はしていないので好きにできるわけではありませんが、それ相応の影響を与えるということです。
具体的な判定は、やはり保有議決権比率が基本となります。議決権の保有比率が20%以上の場合、無条件に関連会社になります(50%超になると子会社になるので、50%以下であることが前提です)。
(中略)
関連会社の判定も実質基準で行いますから、保有議決権比率が20%未満であっても、たとえば代表取締役を派遣している場合などは関連会社になります。取締役会における意思決定はあくまでも多数決によりますから、代表取締役1人を派遣しているからといって、それだけでどうにかできるわけではありませんが、仮にも代表取締役ですから、少なくとも重要な影響は及ぼすわけです。(P.94)
任天堂から見た株式会社ポケモンが好例。任天堂は当該会社の株式を約32%保有している。また、子会社と関連会社をまとめて関係会社という。
 
【持分法】
関連会社の財務情報は、持分法という手続きによって取り込みます。
実務上は、関連会社についても「連結」という言葉が使われることがありますが、「連結」というのは子会社の財務諸表を統合するための手続き名ですので、関連会社について「連結」という言葉を使うのは厳密には誤りです。
持分法が連結と決定的に違うのは、持分法では財務諸表の合算を行わないことです。関連会社は、子会社のように支配はしていませんから、あたかも同一の会社のようにするわけにはいかないからです。
では、どうするかと言うと、総額に影響を与えない形で、持分比率相当分だけを財務諸表に取り込みます。具体的には、関連会社の利益の持分比率相当額を損益計算書に計上し、それと同額だけ保有している関連会社の株式を増加させます。(P.95)
 
【収益=売上高、営業外収益、特別利益】
「収益」は、損益計算書のプラスの総称です。日常用語の「収益」と何が違うかわかりましたか?まだ何も引かれていないのです。ここが日常用語における「収益」と決定的に違うところです。プラスの総称ですから、具体的には売上高、営業外収益、特別利益の総称です。収益を、その性質に応じて、売上高、営業外収益、特別利益に分けて計上しているとも言えます。
損益計算書のマイナスの総称は「費用」と言います。これは日常用語のイメージ通りだと思います。具体的には、売上原価、販売費及び一般管理費、営業外費用、特別損失の総称です。
これも、費用をその性質に応じて売上原価、販売費及び一般管理費、営業外費用、特別損失に分けて計上しているとも言えます。
収益と費用の差額が「利益」です。(P.120)
→収益-費用=利益という関係。
 
【収入=キャッシュ・イン】
さて、では「収入」はどういう意味でしょうか。
まず、「収入」は何に関する言葉かというと、キャッシュに関する言葉です。ですから、「収入」という言葉を使った時点で話題はキャッシュです。
「収入」とは、キャッシュが入ってくることです。キャッシュ・インということです。キャッシュが出て行くことは「支出」と言います。キャッシュ・アウトということです。
収入と支出の差額は「収支」と言います。(P.121)
→収入-支出=収支という関係。
 
【発生主義】
発生主義とは、「収益と費用は、収入と支出ではなく、その発生の事実に基づき計上する」というものです。
この1文は、先ほど説明した言葉の意味がわかっていなければ理解できません。
「収益と費用」は、「損益計算書のプラスとマイナス」という意味です。もっと簡単に言えば、「損益計算書の情報」ということです。
「収入と支出」は、「キャッシュ・インとキャッシュ・アウト」という意味です。
つまり、「損益計算書の情報は、キャッシュの動きと切り離されている」ということです。
お金をもらったときに売上高を計上するわけでもなければ、お金を払ったときに費用を計上するわけでもないということです。この点は、かなり勘違いしている人が多いように思います。
では、何に基づき計上するかというと、事実の発生です。「事実」とは、たとえば売上高だったら「商品の出荷」という経済的事実です。事実の発生に基づいて計上するので、「発生主義」と言います。
ちなみに、発生主義の反対は、現金主義と言います。現金の授受に基づいて収益・費用を計上するという考え方です。(P.121~122)
損益計算書が発生主義に基づくのに対して、キャッシュ・フロー計算書が現金主義に基づくと言える。
発生主義の考え方があるから、クレジットカードのような商品も成立する。
 
【黒字でも倒産⁉】
収益と収入、費用と支出が違うということは、当然、利益と収支も違います。つまり、利益があるからといって、現金があるとは限らないということです。
利益が黒字でもキャッシュがなくなることはいくらでもあり得ます。キャッシュがなくなれば倒産です。利益が黒字のままキャッシュがなくなって倒産することを黒字倒産と言います。シャレにもならない話ですが、そういう事例は山ほどあります。
逆に、利益がどんなに赤字でも、誰かがキャッシュを補填してくれれば、会社は倒産しません。キャッシュを補填してくれるのは一般的に取引銀行です。ということは、倒産の引き金を引くのも、多くの場合は取引銀行だということです。融資先の業績回復が見込めなければ、さすがの取引銀行も融資を打ち切ります。今まで貸したお金の返済も迫られるでしょう。それで資金ショートを起こして倒産するのです。(P.125)
 
【会計の諸原則】
・継続性の原則とは、「正当な理由がない限り、採用する会計処理方法等を変更してはならない」という原則である。利益操作防止の観点から重要である。
・資本取引・損益取引区分の原則とは、「株主との直接的な取引によって純資産が変動する『資本取引』と、日常業務の中で発生する『損益取引』とを明確に区別し、両者を混同してはならない」という原則である。株主から拠出された部分と、その運用部分を明確に分けるうえで重要である。
保守主義の原則とは、「バッド・ニュースこそ積極的に開示せよ」という原則である。多くの個別基準の理論的根拠となっている。
・重要性の原則とは、重要性の乏しい取引については簡便的な会計処理を容認する原則である。経理業務を過度に煩雑にさせないという実務上の観点から重要である。
・実現主義とは、「収益は、①第三者への商品・サービスの提供、②その対価として現金または現金同等物の受領、という2つの要件が満たされたときに計上できる」という原則である。
・費用収益対応原則とは、「費用は収益獲得の経済的犠牲であるため、収益獲得に貢献した部分を費用として収益と対応づけて計上する」という原則である。
・取得原価主義とは、「資産・負債の貸借対照表への計上額は、取得時の支出額に基づき計上し、資産・負債の保有中は、時価の変動があっても評価替えしない」という原則である。
(P.138)
→発生主義は収益と費用の両方に関わるが、実現主義は収益だけに関する原則。収益については「より確実性が増してから計上を認める」という考え方。
 
【費用収益対応原則】
棚卸資産に関して是非知っておいてほしい論点は費用との関係です。
次の例を考えてみてください。
1個100円の商品100個を10000円支払って仕入れました。このうち、期中に80個売れた結果、期末には20個が在庫として残りました。当期の費用になるのはいくらでしょうか。
これに対して、非常に多い答えは10000円という答えです。理由は「既に10000円支払ったから」です。
感覚的にはごもっともな答えです。ところが、会計上はそうではないのです。会計上、費用になるのは販売された80個分の8000円だけです。これが売上原価という費用になります。その理論的根拠は、第3章の3-3節の費用収益対応原則です。
費用収益対応原則とは、「費用は収益獲得の経済的犠牲である。したがって、収益獲得に貢献した部分を費用として収益と対応づけて計上する」というものです。
先ほどの例では、確かにキャッシュは10000円支払っていますが、このうち売上高という収益に貢献したのは実際に販売された80個分だけです。ですから、この販売された80個分に相当する8000円だけを売上原価という費用にするのです。(P.142~143)
→そして残った20個は将来的に売れればキャッシュになる資産=棚卸資産と呼ばれる。
もし売れずに廃棄処分となれば、そこで初めて費用として計上される。過剰在庫になると怖いのは、後々になって費用化されキャッシュが減ってしまうこと。
 
減価償却で長期的視点に立ったビジネスが成立】
18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命は、工業を中心とする産業構造へ社会を変える歴史的なターニングポイントでしたが、会計においても産業革命は重要なターニングポイントとなりました。
それまでのビジネスは人手が中心ですから、製造業だとしても費用の中心は仕入れる原材料と人件費です。ところが、産業革命において蒸気機関が発明されると、蒸気機関を用いた機械や装置を使ったビジネスが誕生するようになりました。
その皮切りが蒸気機関車を使った鉄道事業です。ただ、鉄道事業を行ううえでちょっと困ったことが起きました。鉄道事業を行うためには、蒸気機関車はもちろんのこと、レールや駅舎などの多額の初期投資が必要となりますから、株主や銀行から多額の資金を調達しなければなりません。
ところが、設備投資に使った資金をそのまま費用としてしまうと、投資をした年は利益が大幅な赤字となってしまいます。そうなると、会社の業績は悪いように見えます。そんな事業計画書を見せられてお金を出す株主も銀行もいません。これでは多額の資金を調達できません。
このような状況を打開するために、産業革命の時代に新たな会計処理方法が考え出されました。それは、設備投資に支払った金額を、その設備を使用する年数にわたって費用を分割計上するという方法です。そうすれば計上される費用が平準化されますから、設備投資した年が大赤字になることがなくなります。
こうして減価償却という会計処理が生まれたわけです。もし減価償却という考え方がなかったら、毎年のキャッシュの増減に一喜一憂することになりますから、どうしてもその年限りの短期的な視点になってしまいます。それでは多額の設備投資を長期的に回収する設備産業や装置産業はできません。減価償却というものが考え出されたおかげで、長期的視点に立ったビジネスモデルが初めて可能になったのです。(P.153~154)
減価償却がなかったら、新たなアトラクションへの投資を繰り返すあのDisneylandも生まれていないかもしれない。
 
減価償却の効果】
減価償却に関して経営上重要な性質は、キャッシュを社内に留保する効果があることです。
P/L(損益計算書)に減価償却費という費用が計上されているとき、キャッシュには何の動きもありません。すなわち、費用でありながらキャッシュ・アウトが起こらないのです。
一方で、減価償却費は会計上の費用ではあるので、その分、利益を減少させます。
利益が減少するということは、その分、税金がかからないということです。
つまり、減価償却費は費用でありながらキャッシュ・アウトを伴わないので、キャッシュ・フロー的には節税効果というプラスの効果だけが働き、その分だけキャッシュの流出を食い止めてくれるのです。具体的には、減価償却費の税率相当分(=減価償却費×税率)のキャッシュの流出が食い止められます。(P.163)
 
三菱商事株式会社と三井物産株式会社は2016年3月期に、同社が連結財務諸表を作成して以来初となる連結最終赤字に陥りました。いずれも原因は、資源安に伴い、保有権益という無形固定資産から多額の減損損失を出したからです。
減損損失三菱商事が4300億円、三井物産が2600億円に上りました。資源安の影響はすべての商社に及び、大手商社5社の減損額は合計1兆円近くに達しました。
三菱商事は、直後の6月に予定していた全役員の賞与支給を取りやめ、社長は賞与を含めた報酬の5割、資源分野の担当役員は3割を削減することを発表しました。
このニュースは日本経済新聞のトップ記事として大きく取り上げられました。大手商社が初の連結赤字に陥ったということで、記事もかなり深刻なトーンでした。
投資が失敗したことは確かに事実です。それが初の連結赤字で、しかも大赤字となれば、一定の経営責任を取るのもやむを得なかったかもしれません。
しかし、「初の連結最終赤字」というセンセーショナルな活字ほどの深刻さがあったのかと言うと、必ずしもそうではありません。
まず、多額の減損損失が出たからといって、経営上それほどのダメージはありません。減損処理によって会計上は多額の費用が発生しますが、新たなキャッシュの流出は何も起こらないからです。キャッシュの流出は投資の時点で済んでいます。減損損失は、「既に支払った額を回収するだけの十分なキャッシュの流入が今後見込めないことがわかった」ということです。その見込み違いの額を一気に損失として計上するので、費用は多額になるのです。(P.170~171)
減損損失を計上したからこそ、投資の失敗に気づいて次のアクションが迅速に取れるというメリットもある。実際に三菱商事は翌年度早々に権益の一部を売却している。
 
【のれんの由来】
教科書的には、のれんは「超過収益力」などと言われます。その意味するところは、「超過的に収益を生み出すと思われる何らかの力」ということですが、わかりやすく言えば、「買い手が企業に対して主観的に感じた魅力」ということです。
のれんとは、飲食店等の入り口にかかっている布のことです。従業員が元のお店の許しを得て新たに出店することを「のれん分け」と言いますが、その由来は、元のお店と同じか、それに近い店名の入ったのれんの使用を認めたことにあります。今風に言えば、ブランド名の使用を許可されるようなものです。
三者にとっては何の価値もないただの布切れですが、新たに出店する当事者にとっては無形の価値があります。まさに、当事者のみが主観的に感じる魅力です。(P.177)
→数値に表れないこの何とも言えない魅力があるところから、のれんと呼んでいる。
 
東芝の失敗】
2016年12月、株式会社東芝は約5000億円の損失を出し、それにより債務超過に陥りました。その原因となったのは、東芝の米国子会社が行った買収に伴うのれんから発生した多額の減損損失です。その額は6200億円を超えるものでした。
各メディアは「買収先の会社でコストが想定よりも大きく膨らんだために、のれんで多額の減損が発生した」という論調でしたが、事実はそんな単純な話ではありません。
買収は2015年12月に行われました。その際に東芝から発表されたのれんの額は105億円です。その全額が減損となっても、6200億円もの減損損失は発生しようがありません。
なぜ、そんな多額の減損損失が発生したかというと、のれんの額が105億円から6200億円超に修正されたのです。買収当初に発表されたのれんの額は暫定的なものであって、その後、約1年をかけて評価した結果、のれんは6200億円超になることが判明し、その全額が減損となったのです。
のれんの額を確定するのにそれだけの時間をかけることは制度的に認められてはいますが、それにしても修正額が大きすぎます。
なぜ、それほどの修正が起こったのでしょうか。
のれんとは、買収額が買収先企業の純資産額を上回る額です。買収額は客観的な取引事実ですから、変わりようがありません。そうなると、変更されたのは買収先の純資産しかありません。実は、買収先企業の決算が大幅に修正されたのです。
買収時には、デュー・デリジェンスと呼ばれる通常の監査よりも詳細かつ多面的な監査を行いますが、このケースではそれが十分に行われなかったと考えざるを得ません。
(P.181~182)
東芝は稼ぎ頭のメモリ事業を売却までして何とか上場廃止を逃れようと奮闘してきたが、その甲斐なく先日遂に廃止が決定した。
東芝 12月20日上場廃止決定 経営の安定化へ2023年11月22日 13時01分」
 
負債を大きくするとROEが大きくなる効果を、レバレッジ効果と言います。
レバレッジ(leverage)とは「てこの原理」のことです。レバー(lever)は、これと密接に関係のある言葉です。そもそも、レバーがてこの原理を用いています。
レバレッジ効果とは、株主は手元ではそれほど力を出していないのに、言わば債権者を踏み台にして、てこの原理を使って株主にとってのリターンを大きくするということです。
負債はいずれ返さなければいけないものですから、高すぎると資金繰りを圧迫します。支払利息も増えます。利益も圧迫します。したがって、「負債は少ないほうがいい」というのが普通の感覚だと思います。
実際、「有利子負債」と言えば、ほとんど脊髄反射のように「圧縮」と言う人が今でも多いと思います。
しかしその一方で、ROEを重視するならば負債比率は高いほうがいいということも広く知られるようになりました。その結果、ROEを重視する企業の中には、意図的に負債比率を高める企業も出てきています。(P.201~202)
ROE当期純利益×100/純資産=当期純利益×100/総資産(ROA)×総資産/純資産(財務レバレッジ)
ROEの式を分解すると、ROA×財務レバレッジとなる。負債は総資産に入るため、負債の「比率」が大きいほど総資産が大きくなり、相対的に純資産は小さくなる、つまり財務レバレッジが大きくなる。したがって、負債が大きいほうが、ROEの数値は高くなる。
実際にソフトバンクROEは30%台に達するが、その分負債額が大きいことが知られている。