ねこみんの投資生活

ふつうの塾講師が適応障害をきっかけに投資を勉強していくブログです

【読書7冊目】教養としての投資 奥野一成

【投資で成功するには】
投資で成功するために重要なのは「総合力」です。総合力とは、バラバラになっているものを一つにまとめ上げる力のことです。
小学校、中学校、高校までの勉強は、すべてが縦割りのカリキュラムになっています。
国語、数学、地理、歴史、公民、物理、化学、英語、というように科目が分かれていて、地理だったらひたすら地理、歴史だったらひたすら歴史の勉強だけをします。
しかし、社会人になってから必要になるのは、一つひとつの教科の知識ではありません。それまで学んできた各科目を組み合わせる能力です。
たとえばNHKの「ブラタモリ」はとても面白い番組ですね。私はこの番組の大ファンで毎週欠かさずに視ているのですが、どうして面白いのかを時々考えます。
もちろんタモリさんのキャラクターが素晴らしいこともあるのですが、やはり総合力の妙なのだと思います。タモリさんがいろいろな街を散歩しながら、その街に昔から残されている建物、神社仏閣、坂、川、などについて独自の観点から探っていくのは、まさに地学と地理と歴史、さらには経済学も合わさった組み合わせによる面白さだと思うのです。
(P.7~8)
→授業もそう。総合力。
 
村上世彰の実像】
村上世彰さんという投資家をこ存じでしょうか。彼は通商産業省(現在の経済産業省)を経て、退官後は4000億円超の資金を運用する投資会社を率いていました。村上ファンド事件などもありましたが、彼の資産家としての血は、投資家だった父親譲りと言えるでしょう。何しろ小学校3年生の時に父親から大学生までのお小遣いとして100万円を渡されて、大学を卒業する時には、それを1億円にしたことで知られています。これは私の想像に過ぎませんが、きっと村上さんのお父さんは、自分の経験から投資で成功するための秘訣を、自分の息子にいろいろ伝えたのだろうと思います。投資ノウハウというより、より重要な資本家のマインドセットが自然に伝授されたということです。(P.26)
→「村上ファンド事件」は中学生の頃にニュースで頻繁に取り沙汰されていたことを記憶している。当時は悪い人がいるんだな、くらいの印象でしかなかったが、こうしたエピソードを読むと見方も変わる。彼の著書「生涯投資家」を読んでみよう。
 
【投資の始まり】
東インド会社」はイギリスの他、オランダ、フランス、スウェーデンデンマークなどが設立しましたが、設立順ではイギリスが最も早く、1600年12月31日に設立されました。その目的は、アジアで採れる香辛料や綿花、お茶を対象にした貿易の独占です。
特に香辛料は欧州の食肉文化のなかで需要が高まり、高い値段で売ることができました。
そこでイギリスの貿易商人は、1回の航海ごとに出資者を募り、無事に船が戻ってきたら積み荷を売却し、そこで得た利益から元本と配当を得るという方式で、航海に必要な資金を集めました。当時のイギリス人は、航海が上手な人にお金を渡して船を出させ、さらにアジアでにおいては香辛料などの栽培に長けた人にお金を渡して香辛料や綿花、お茶を栽培させ、それを欧州に持ち帰れば、儲けることができると知っていたんですね。
もちろん、航海に出た船が難破することもあるでしょうし、思ったような価格で香辛料が売れないことだってあるでしょう。そういったリスクとリターンのバランスを考える。これがまさに投資です。イギリス人は事業にお金を投じることで他人を働かせ、そこから利益を得る術を身に着けていたのです。その時の考え方が脈々とイギリス人の中には生きているので、現代においても資本家と呼ばれる人たちが大勢、欧米社会には存在しているのです。(P.31~32)
エリザベス女王が海賊に免状を与え、敵国の船を襲わせ、その上納金で海軍を強化したという例もある。イギリス人は他人を働かせるのが実に上手い。
 
【名だたる経営者を「部下」にする⁉】
日本電産永守重信さん、ソフトバンクグループの孫正義さん、信越化学工業金川千尋さんなどは、いずれも日本を代表する著名経営者です。社会人になってまだ数年しか経っていない人からすれば、まさに雲上人といっても良いかも知れませんね。とてもじゃないけど、一緒に食事をしに行ったり、あるいはお酒を呑んだりなんてことは、考えられないことだと思います。
でも、そんな人たちでも自分の部下にすることは出来るのです。
方法は簡単で、たとえば永守さんを部下にしたいと思ったら、日本電産の株式に投資すれば良いのです。そうすれば、永守さんはあなたのために経営戦略を練り、さまざまなビジネスのアイデアを考えながら、日本電産の社員を叱咤激励して働かせて、継続的に利益を稼いでくれるでしょう。その利益の一部を持ち分に応じて得ているのが、日本電産の株式を保有している投資家なのです。
もちろん、株式ですから永守さんがしっかり働いているかどうかをチェックする必要があります。何しろ、あなたの大事な資金を日本電産に託しているわけですから、日本電産がどういう会社で、どのような売上構成を持っていて、かつ業績や株価はどう推移しているのか、同業他社に比べて利益率はどうなっているのかなどについて、きちんと把握しておかなければなりません。
でも、痛快じゃないですか。イマイチな上司から理不尽な命令が飛んできたとしても、「フン、俺はかの永守重信に部下として働いてもらってるんだ」と思えば、腹の虫も納まるというものです。(P.34~35)
→これは精神衛生上とてもいい。全世界株式の投資信託を買えば「世界中の経営者が自分のために働いてくれている」と思うこともできる。
 
【単元株の今昔】
ある1社の株式を買うのに100万円以上必要だった時代もありましたが、あれはバブルピークで株価が非常に高いうえに、1000株を1単位として売買しなければいけなかった時代の話です。
今は随分と安いですよ。すべての企業が100株で買えるようになっていますから、日本を代表するような大企業の株式でも数十万円単位で投資できるものがかなりあります。その他、ミニ株投資制度などを利用すれば、数万円単位で株式に投資できます。(P.39)
 
【自分以外を働かせる】
正直なところ大半の人たちは、自分自身で働くよりも、永守さんに働いてもらった方が良いわけです。もし米国企業に投資するならば、アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾスに働いてもらった方が、良い結果がもたらされる可能性が高いと思います。自分より優秀で、稼いでくれそうな自分以外の仕組みにお金の一部を投じること。投資をするというのは、つまりそういうことなのです。自分が働いて稼ぎ出す総金額を大きく増やすことが難しいという前提の上で、予想以上に延びてしまった寿命をまっとうするには、自分以外を働かせるしかないことを理解していただけたでしょうか。(P.44~45)
 
【バフェットの投資法】
バフェットは投資先企業の持続的な競争優位性を徹底的に分析し、そしてその株式を保有する時には、まるで企業買収をするかのような企業価値評価を行います。そしてその企業のオーナーの一人として永久に保有しようとします。バフェットは、時間の経過とともに持続的な企業価値増大が見込めるような企業の株式を金融市場で頻繁にディーリングすることは、無意味だといいます。市場が悲観的になって株価が下落すれば、バーゲンセールだとばかりに、素晴らしい事業性をもった企業を買いあさり、手放さないのです。(P.75)
→「バフェットの投資術」を読んでみよう。
 
【外国人観光客が増えている理由】
最近、インバウンドなどと称して日本に来る外国人観光客が増えています。日本が持つ観光資源が再評価されたからでしょうか。
たぶん違います。もちろん、それも一理ありますが、最大の理由は、日本なら安く旅行できるからです。いくら笛を吹けどもインフレにはならず、物価はほぼ横ばい。日本以外の国では、経済成長に伴って賃金も物価も上がっています。結果、相対的に日本の物価が安くなり、それを目当てにした外国人観光客が流れ込んできているのが、本当の姿でしょう。日本で1泊2、3万円程度のグレードのホテルに米国で泊まろうとすると、恐らく7、8万円は取られます。これだけの格差が生じているのは、日本がどんどん貧しくなっているからです。(P.92~93)
→米国の経済成長が大きいだけでは?という見方もできるが、平均賃金ではフランスに抜かれているし、韓国にも並ばれている。日本はほぼ横ばい。様々なデータが、日本が貧しくなっていることを示しているようだ。
 
【個人金融資産の日米差】
日本の個人金融資産は、現預金が53.3%と半分以上を占めているのに対し、米国の預貯金はたったの12.9%です。
そして投資信託が、日本の3.9%に対して米国は12.0%。株式は日本が10.0%であるのに対して米国は34.3%もあります。
個人金融資産のうち投資信託と株式に見られる日米差は、この間の株価上昇によって、両国の個人金融資産の総額に大きな影響を及ばしました。株式市場全体の値動きを示す株価インデックスを日米で比較すると、よく分かります。米国の株価インデックスはS&P500、日本はTOPIX(東証株価指数)で比較してみましょう。1988年12月末時点のS&P500は277ポイント、2019年12月末時点のそれは3230ポイントでした。つまり、11倍以上にもなっているのです。
それに対して1988年12月末のTOPIXは2357ポイント、2019年12月末のそれは1721ポイント。3割ほど下回っています。
もうお分かりいただけたと思います。なぜ日米の個人金融資産の額が、この24年間でこうも大きな差が開いたのか。それは米国の場合、株式や投資信託保有比率が高いだけでなく、米国企業の成長に即して株価が着実に値上がりしたからです。日本のように現預金が資産の半分以上を占めており、しかも日本企業が生み出す利益がほとんど伸びない状態では株価も上がるはずがなく、個人金融資産が増えないという状況に陥っているのが現実の姿なのです。(P.94~95)
社会保障の乏しい米国では、"そうせざるを得ない"事情もあることを考慮する必要はあるだろうが、米国企業の成長と株価の値上がりは厳然たる事実。
 
【日本人に資本家マインドが乏しい理由】
自ら資金を出し、リスクを引き受けて投資を実行する。そして大勢の社員を雇って働かせる。財閥の長はまさに資本家そのものといっても良いでしょう。日本の資産家マインドは、明示時代の幕開けとともに欧米から入ってきて、根付いていったのです。
ところが、日本において資本家マインドは一部の財閥経営者を除けば、ほとんど浸透しませんでした。
なぜでしょうか。私はこの裏側に、日本が経験した第二次世界大戦における敗戦があったのではないかと考えています。敗戦によって日本では、次の世代に向けて資本家マインドが定着する機会を失った、とでも言えば良いでしょうか。
それは2つの点で、日本人の資本家マインドを喪失させたと考えられます。
第一は財閥解体です。皆さんも、歴史の教科書で少し聞いたことがあるのではないでしょうか。これは連合国による日本の占領政策のひとつです。どうやら連合国側には、日本の財閥が軍国主義を制度的に支援したという認識があったらしく、これを解体すれば軍国主義は消滅すると考えていたようです。この政策によって三井本社、三菱本社、住友本社、安田保善社といった持ち株会社は解散させられ、かつこれら4大財閥の構成員や持ち株会社の役員、監査役は産業界から追放されました。これによって資本家としての成功体験が完全に失われました。
(中略)
資本家マインドが失われた第二のポイントは、焦土と化した日本で皆、生きていくために、労働者として働かざるを得なかったことが挙げられます。全員が労働者1.0になってしまったのです。投資をしようにも「お金」がないのだからどうしようもない。労働力しか売るものがなかったのです。
このように考えると、世間で「日本人は投資が嫌い」とか、「日本人は投資が苦手」などと言われていることが、いかに的はずれであるかが分かります。日本人だって本来、資本家マインドを持っていた。にもかかわらず、それが育まれていく一歩手前で敗戦を迎え、その機会を失ったまま今に至っているというのが、本当の姿だと思います。(P.99~101)
 
【投資と投機の違い】
投資(オーナーシップ)
焦点
・価値を見極める
判断材料
・対象を保有することで得られるキャッシュフロー
ゲームの性質
・プラスサム
時間とリターンの関係
・時間の経過とともに変化する「価値」がリターンとなる
社会や生き方への影響
・あり
 
焦点
・将来の「価格」を予想する
行動
・現在の価格<将来の予想価格の時に買う
・より高値で買ってくれる他人を見つけて売却する
判断材料
・市場環境/マクロ予想
・需給予測
・カタリスト
ゲームの性質
ゼロサムまたはマイナスサム
時間とリターンの関係
・期待リターン(多くの場合、マイナス)に収れんする
社会や生き方への影響
・なし
(P.120)
→農地を買うことにたとえると、その土地からどれだけの作物がとれるかを考えるのが投資、その土地がいくらで売れるかを考えるのが投機といえる。
 
【株式市場は長期で見れば価値の計測器】
ベンジャミン・グレアムの言葉を紹介したいと思います。
「株式市場は、短期的には人気投票の場に過ぎないが、長期的に見れば『価値』の計測器として機能する」
わかりやすく言うと、株価とは短期的に見ると、その時々の人気によって大きく上下にブレる。人気が高まっている時は株価もどんどん上昇しますが、人気が無くなると一気に下落する。それが延々と繰り返されるわけですが、不思議なことに長期的な株価の動きをグラフにすると、利益の増え方とリンクしている。利益はその会社の価値の源ですから、株式市場は長期的に見ると価値の計測器になるということです。(P.122)
→長期的に見ると株価と営業利益はリンクする 例)ナイキ
 
【日本経済衰退の理由】
いつまでも単純な「モノづくり」とその成功体験にこだわっていると歴史の渦の中に飲み込まれます。
多くの日本企業が、発展途上国型ビジネスモデルから脱することが出来ず、しかも参入障壁の低い産業だったことが、1990年代以降の低成長の根本的な原因であると私は見ています。
ビジネスモデルを考えるうえで一番肝心なのは、いかに自分たちのビジネスの周りに高い参入障壁を築くかという点に尽きます。そこを疎かにしたことが、日本企業が利益を伸ばし続けられなかった原因だと思います。結果、多くの日本企業の株価は、ナイキの株価のように綺麗な右肩上がりのトレンドを描くことが出来ず、上下のブレの中で、ギャンブル的なトレードが横行するようになったと考えられるのです。(P.128)
 
【株価が総崩れするときはむしろチャンス】
株価が合理的な株価よりも大きく値下がりした場合、これについて「悲観は友達」であると、ウォーレン・バフェットは言っています。株式を保有している人たちは、株価の下落を「リスク」と捉えます。でも、これから買う側からすれば、合理的に計算された価値に対して、株価が大きく下がれば、その分だけ割安に投資できるわけですから、リスクが大きくなったのではなく、むしろリスクが小さくなったと捉えることも出来るのです。
リーマンショック東日本大震災の時には、株価は総崩れしました。そして時間をかけて回復していきました。私たちにはそのときの経験があるので、今回のコロナショックでも動じることはないばかりか、むしろチャンスと捉えています。(P.132)
→企業本来の価値が損なわれていないのであれば、コロナのような災害時に株価が下がってもまた回復していく。長期の株式投資において見極めるべきは、企業価値そのものといえる。
 
【バフェットがコカ・コーラに投資する理由】
私が手本としているウォーレン・バフェットは、コカ・コーラの株式をずっと保有し続けています。投資し始めたのが1988年ですから、かれこれ32年間も持ち続けていることになります。そしてこの間に、コカ・コーラの株価は20倍にもなりました。
(中略)
バフェットがコカ・コーラに目を付けたのは、この会社のビジネスが将来、確実に大きく伸びると思ったからです。その根拠は世界的な人口増加でした。
ざっくりした数字で言うと、1987年の世界人口は50億人でした。それが1998年に60億人になり、2015年には73億人ですから、急激に増えているのが分かります。
(中略)
コカ・コーラのような清涼飲料水は、中産階級人口が増えることによって需要が高まります。
つまり中産階級になれば、コカ・コーラが飲める程度にお金の余裕が出てくるということです。その中産階級人口が、世界の総人口よりも速いペースで増えると予測されているので、コカ・コーラの市場はさらに拡大していくと考えられるのです。(P.143~145)
 
コカ・コーラの参入障壁】
今更、コカ・コーラの向こうを張って炭酸飲料の市場に参入しようとしたら、生産設備と販売網構築への投資、加えてブランド構築のための広告宣伝費等が莫大にかかるということです。コカ・コーラの牙城を崩すにはあまりに莫大な資金が必要で、まるで商売にならないということです。まさにコカ・コーラは完璧なまでに参入障壁を築き上げた会社といっても良いでしょう。
これだけ高い参入障壁があると、たかだか炭酸入りの砂糖水でも、新規参入者はほぼ現れません。世界人口は2100年までを見通しても、まだまだ増えていきますから、コカ・コーラの利益はこれからも長期的に増えていくという蓋然性を持つことが出来ます。(P.145)
 
【構造的に強靭な企業の3つの要素】
では、どうしたら売らずに済む会社を見つけることが出来るでしょうか。私は常々、「構造的に強靭な企業」に投資しましょうと言っています。
強靭な構造とは、3つの要素に支えられています。「高い付加価値」、「高い参入障壁」、「長期潮流」です。この3つの要素を持っている会社は、構造的に極めて強靭であり、かの3つの要素が弱まらない限り、その株式を保有し続けられると考えて良いでしょう。(P.146)
「構造的に強靭な企業」であれば、コロナショックのように株価が暴落するような事態があっても、状況が収束すれば、再び成長軌道に乗る可能性が高い。
 
【①高い付加価値】
まず、高い付加価値とは、「本当に世の中にとって必要か?」ということです。必要性が高ければ高いほど良い。言い換えると、会社の存在意義です。その会社が存在する意義はどこにあるのかということを、見極める必要があります。
(中略)
ディズニーが存在しない世界を想像してみてください。ディズニーランドはもちろん、映画館だって成り立ちません。デートでどこへ行けばいいか分かりませんよね。
実は私も最近ディズニーのありがたさを実感しました。先日、私の部下に子供が生まれ、何か子供向けの贈り物をしたいと思ったのですが、何を贈れば喜んでもらえるかわかりません。でも、恐らくディズニーキャラクターであれば、ママも子供も気に入ってくれるのではないかと考え、「くまのプーさん」のベビーウェアを贈りました。
このように、ディズニーは単に遊園地や映画を提供しているわけではなく、彼女や子供など、「大切な人に喜んでもらいたい」という消費者の課題を解決しているのです。
(P.147~148)
 
【②高い参入障壁】
次に、「高い参入障壁」です。これは先ほどのコカ・コーラのように「今更その人たちの向こうを張って勝負しようだなんて、誰も思わないほど圧倒的に強いか?」ということです。
誰が、今更ネズミのキャラクターを作って、世界中のTシャツや文房具やクレジットカードに描かれたミッキーマウスを、一つ一つ塗り替えていこうと思うでしょうか?
ディズニー以外の誰かが、今更、「シンデレラ」や「美女と野獣」などの誰でも知っているありふれた童話を原作に映画を作っても、世界中の映画館で上映されるなんてことにはならないわけです。
ディズニーは、数十年の時間と莫大な費用をかけて、これらのコンテンツに投資をし、育ててきました。だからこそ、今のエンターテイメント産業における圧倒的な地位がありますし、そのコンテンツを映画、テレビ、テーマパーク、おもちゃなどのグッズ、ライセンス提供など、あらゆる媒体を通じて何度も繰り返し収益化することができるのです。
(P.148~149)
 
【③長期潮流】
最後に「長期潮流」です。後で詳しく述べますが、これは「今これが増えている」とか、「来年は何が流行りそう」といった中短期的なブームや予想とは全く違います。もっと普遍的で、不可逆的なものです。
最もわかりやすいものでいうと「人口動態」。先に見たように、30年前に50億人だった人口が現在70億人になり、90億人、100億人と増えていきます。これは未来の話ではありますが、予想ではなく、ある意味「事実」です。
人口が増える中で、ディズニーランドに行ったり、ディズニーの映画を見たりする人は確実に増えていくのです。(P.150)
→不可逆的であると言い切れるもの。「長生きしたい」という欲求など。
 
【日本で長期潮流に乗る企業は少ない】
海外でも通用するような参入障壁による強靭な構造に支えられた企業であれば、日本企業でも未来はあります。そのような日本企業であれば、その株式に投資しても良いでしょう。もちろん、日本国内でも長期潮流を満たしている事業はあります。たとえば、東京圏のみのスーパーマーケットであれば、人口はまだ増え続けています。あるいは人口は減っていても、世帯数はまだ増えています。すなわち少人数の世帯が増えていて、これを背景にいわゆる中食市場は拡大しています。これらをマーケットにしている会社は、日本においても長期潮流に乗っていると言えます。
では、そういう日本企業がどれくらいあるのか?これはあくまでもざっくりした私の実感ですが、東京証券取引所に株式を上場している3702社(2020年2月現在)のうち、200社あるかないかです。率にして5%です。(P.167)
 
もし日本企業の株式に投資するのであれば、銘柄を厳選しなければなりません。少なくともTOPIXのような、市場全体を買うインデックスファンドへの投資は、日本株に関して言えば全く無意味です。日経平均株価指数は企業の選別度合いという意味では少しはましかもしれませんが、やはり参入障壁を持たない企業が多数含まれています。最近、インデックスファンドへの関心が高まっているようですが、これらの長期的に利益を増やすことができない企業が多数含まれるインデックスのファンドを買うのは、いくら長期保有を心掛けたとしても、時間の無駄以外の何物でもないことを申し上げておきましょう。(P.167)
→VTやVTI、eMAXIS Slim 全世界株式などが推されるのはそのため。
 
【競合参入=参入障壁が蝕まれたとき】
高い参入障壁を持っている会社を見つけて投資したら、あとはその参入障壁が失われていないかどうかをチェックしなければなりません。参入障壁がある限りは保有し続けられます。もし参入障壁が無くなったと判断した時は、売るタイミングです。
問題は、何をもって参入障壁が失われたのかを判断するかですが、これは競争環境をチェックするようにして下さい。
たとえばコカ・コーラの場合、1社だけであの炭酸水を造り続けているのであれば、他に参入障壁を蝕む競争相手が出てきていないわけですから、そのまま保有し続ければ良いでしょう。
ところが、そこに2社、3社とどんどん参入して、競争が激化してくるようだと、参入障壁はかなり蝕まれたと判断できます。コカ・コーラの場合、ペプシコーラという長年の競合相手はいるものの、世界規模で見てそれ以外の新規参入者は全く出てきておらず、炭酸飲料の世界シェアは5割ほどで安定推移しています。そのため、参入障壁は崩されていないと判断できます。だから、バフェットもコカ・コーラ社の株式を保有し続けているのです。(P.170~171)
 
【大事なのは利益を稼ぐ構造があるかどうか】
今、その会社がどういう状態に置かれているのかを知るために、売上や利益率、それ以外の財務諸表に記載されている数値を読み込む。そのうえで、この会社の株価が今、割高なのか、それとも割安なのかを把握するために、PERやPBRなどの株価指標をチェックする。こうした作業は、株式投資をする時に大切です。
でも、こうした数値はあくまでも過去のことしか語りません。たとえば3月決算の会社の売上は、前年の4月から3月までに積み上げてきたものですから、過去の活動によって得た売上になります。確かに過去から現在までの状況を把握するには役に立ちますが、数値は未来を語りません。それは売上だけでなく、利益率にしてもそうですし、PERやPBRにも当てはまります。
私たちは今、株式に投資することでその会社のオーナーになり、その会社が将来に稼ぎ出す利益の一部を得ようとしているわけですから、大事なのは過去ではありません。未来に向けて、その会社がどの程度の利益を稼ぎ続けてくれるのか、という将来の見通しこそが大事なのです。(P.175~176)
 
【倒産を回避する自己資本を有しているか】
長期的に損なわれない競争力の他にもう一つ重要な条件があります。それは、中長期的に倒産しないだけの強い自己資本を持っていることです。具体的には借入金などの負債が小さいことです。これをファイナンス用語では「財務レバレッジが低い」と表現します。
強靭な競争力を背景に、数年後にその収益性が回復するとしても、その数年の間に倒産してしまっては元も子もありません。もし銀行からの借入金がなければ、他人から倒産の引き金を引かれることなどあり得ないのです。
(P.209) 
 
【参入障壁がきちんとしていれば株価は回復する】
参入障壁が全く蝕まれておらず、一時的な経済のショックで株価が全体的に下げているのであれば、ここは買い増しても良いくらいです。長い間、投資をしていると、経済環境全体の不調で株価が大きく下げる場面には何度も直面します。
たとえば2000年にはITバブルの崩壊、2001年には同時多発テロ、2007年にはサブプライムショック、2008年にはリーマンショック、2010年の欧州ソブリン危機、2011年の東日本大震災、2015年のチャイナショックというように、幾度となく世界的な経済の停滞と株価の急落を経験しています。
それらすべてのケースで共通しているのは、ちゃんと参入障壁を持った会社の株式に投資さえしていれば、経済環境がこうした一時的なショックから徐々に立ち直っていく過程において、企業利益もきちんと改善し、それに伴って株価も前回高値を抜いて上昇していくということです。したがって、株価の下落には一切狼狽する必要がないのです。
(P.210~211)
 
【持ち株を売る3つのタイミング】
「絶対に持ち株を売らないのか?」と言われれば、答えはノーです。基本的には売らなくてもずっと株価が上がり続けていく会社に投資するのが理想ですが、それでも売却するケースが3つあります。
第一は、私たちの見立てが間違っていることに投資した後で気づいた時。「この会社は強い参入障壁を持っている」と思って投資したのに、実は大したことが無かったと言うケースが時々、あります。見立て違いだった会社の株式を持ち続けるわけにはいきませんから、その時は潔く売却します。あるいは参入障壁が、時間の経過と共にどんどん蝕まれていき、どうやらこのままだと参入障壁を構築し直せるような状況ではないと思った時も売却します。
第二は、より面白い投資機会が出てきた時です。たとえばB社と比べてA社の方が高い参入障壁を持ち、かつ付加価値が高くて投資妙味があるという場合、B社の株式を売却してA社の株式を買うケースもあります。私たちが運用しているファンドは組入銘柄数の上限を定めているわけではないので、B社を持ったままA社の株式を追加で組み入れれば良いという声もありますが、明らかにA社の方が高い投資妙味を持っているのに、敢えてB社を持ち続ける意味はないわけです。そういう意味で銘柄入れ換えは時々、行っています。
第三は、株価がフェアバリュー対比で上がり過ぎた場合です。フェアバリューとは「適正価格」のことで、将来予想される業績や現在の資産、負債の状況から独自に算出する理論値です。このフェアバリューより現在の株価が安い時に、割安とよび、高い時に割高といいます。株価というものは、中短期的には、「ヘッジファンドが買った」とか「アラブの政府筋が売った」とかいう株式の需要と供給のバランスや、政府高官の発言などの様々なニュースで激しく変動します。したがって、私たちが独自にはじき出したフェアバリューから大幅に割高になったり、割安になったりすることが起こりえるのです。
このように、実際の株価がフェアバリューに対して2倍、3倍などと大きく上回った時は、ひとまず売却して利益を確定させます。目の前に大きな利益を得るチャンスがぶら下がっているのに、何もせずに眺めている手はありません。それに、長期的に考えれば、フェアバリューに対して2倍、3倍と上昇した株価は、どこかの局面で必ず値下がりしてきます。そうなった時、もう一度、参入障壁が蝕まれていないかどうかをチェックして、まだまだ競争力が維持できそうだと判断すれば、買えば良いのです。(P.214~216)
→他にも、企業に買収されたときなど、売り時はある。
 
【配当と株主優待は将来の利益の切り売り】
配当や株主優待によって出ていくお金以外に、ガンガン稼げる会社であればまだマシですが、利益が横ばいだったら、配当や株主優待は将来的に株価を下げる要因でしかないのです。
会計に関する知識を持っていれば、この程度のことはすぐに分かるものです。でも、多くの人が会計のことを知らないから、高配当銘柄や株主優待銘柄を有り難がって投資するのです。株式の個別銘柄に投資したいのであれば、会計に関する最低限の知識は身につけることです。出来れば、証券アナリスト試験の1次を通る程度の知識を持っていた方が良いでしょう。(P.236)
 
株式配当と似た概念に債券のクーポンがありますが、債券の場合はクーポンと額面は切り離されており、償還時にその債券の発行体に何もなければ(倒産など)額面元本が戻ってきます。しかし株式には元本という考え方はなく、あるのは株価だけです。そして配当が支払われる度に確実に株価は下がります。(これを配当落ちといいます)。つまり、配当前の株価=配当後の株価+配当なので、配当が高ければその分、配当落ち後の株価は下落し、株主にとっては完全に差し引きゼロなのです。(正確には税金分だけマイナスです)。簡単に言うなら配当受取りとは、右のポケットから左のポケットに税金を引かれて移す行為なのです。
本当に競争力が高く成長機会の大きい企業を保有する場合は、高い配当はむしろ株主にとってマイナスになります。なぜなら、保有している企業が配当部分を成長投資に回し、高いリターンを上げることができるとすれば、その配当を受け取ることは将来の企業価値増大を先食いすることであり、複利効果をあきらめることになるからです。実際にアマゾンやグーグル等の競争力が高く今後の成長機会の大きな企業や、バフェット氏のバークシャー・ハサウェイが無配であることは、発行体・投資家双方にとって合理的なのです。
(P.237~238)
→配当金狙いなのか、そうでないのかにもよる気がする。ただ、狙う場合も高配当かつ着実に利益を上げて増配しているような株を選択的に購入するのがよさそう?
 
【S&P500は企業が厳選されている】
よく「インデックスファンドを長期で保有しましょう」といった話を耳にするのですが、それなら日経平均株価に連動するインデックスファンドを1989年に買って、以来30年以上にわたって保有した人は今、報われたでしょうか?
答えはノー、です。日経平均株価は1989年12月に3万8915円の高値を付けましたが、2020年2月時点では2万3000円台ですから、全く高値を更新していません。TOPIXも同じです。つまりこの30年間、日本株のインデックスファンドに投資し、保有し続けていたとしても、全く収益が得られていないのです。
でも、同じインデックスファンドでもS&P500などの米国の株価インデックスに連動するインデックスファンドを買った人は、かなりの運用収益が得られているはずです。
なぜそんなに違いがあるのかということですが、これは本当に素晴らしい会社でなければ、S&P500銘柄に入れてもらえないからです。会社としての魅力が無くなったら、あっという間にS&P500の対象から外されます。
(P.241)
→長期だから確実、というわけではない。話題のS&P500も過去5年で見ると上昇トレンドではあるが、いつか頭打ちになるかもしれない。常に情報は更新していこう。
 
【為替リスクの考え方】
海外の株式市場に投資する場合、為替リスクが気になって仕方がないという人が結構いますね。
1ドル=110円の時に20ドルの米国株に投資しました。日本円で2200円です。
その後、株価は25ドルに値上がりしたものの、為替レートが1ドル=80円になったとします。この場合、日本円で2000円になりますから、円ベースで見ると損をしているように見えます。
まあ、確かに円建てで評価すると為替差損が生じている形になるわけですが、だからといって日本株に投資すれば為替リスクがないのかと言うと、決してそんなことはありません。
これは、どこを入り口にして見ているのかという問題ですね。
たとえば日本株は円建てで株価が表示されていますから、先ほどの米国株の事例のように直接、為替レートの値動きが評価額に影響を及ぼすことはありません。
でも、入り口を株式ではなく、事業にすると話が違ってきます。私たちはあくまでも事業に投資しますから、その観点で見れば、たとえ日本企業の株式といえども、為替リスクが内包されていると考えるのです。
たとえばトヨタ自動車はグローバル企業です。ということは、国境を越えて行っているビジネスのすべてにおいて為替リスクがあります。
では、内需関連といって日本国内で商売をしている会社は為替リスクを取っていないのかというと、これも違います。たとえば、日本国内で食品加工販売をしている会社は国内中心の事業だから為替リスクとは無縁なのかというとそうではありません。実は食品加工の原材料を海外から輸入したりしています。日本は米以外は輸入に頼っていますから当たり前ですよね。当然、輸入に関しても為替レートが影響しますから、内需中心の会社であったとしても、やはり為替リスクを避けることは出来ないのです。
何を選ぼうとも為替リスクは常にあるという諦念を持つことが大事です。
(中略)
ちなみに、為替レートは単なる通過の交換レートでしかありません。交換レートなので、先進国同士であればどちらか一方に大きく動くことにはならないと考えるべきです。もちろん、一時的に大きく円安、もしくは円高に動くことはありますが、ある程度、長い目で見ると、再び居心地の良い水準に戻ってきます。そういう存在なので、為替自体は投資対象になりません。(P.246~248)